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漂流する原発政策の行方 【エネルギー】再生エネルギーは力不足(日経BP)

2011-12-21 13:58:53

東京電力福島第1原子力発電所の事故で、日本のエネルギー政策は大転換を迫られている(写真:東京電力)
山根 小雪: 日本のエネルギー業界にとって、2012年は大転換の年になりそうだ。東日本大震災に端を発する東京電力福島第1原子力発電所の事故は、これまでベールに覆われていたエネルギー業界の実情を白日の下にさらした。原発の安全神話が崩れただけでなく、火力発電などと比べて最も安価な発電方法という利点すら、疑問視されている。定期検査入りした原発を再稼働させるのか、老朽化した原発をどう扱うか。原発の行く末は不透明だ。

 原発の停止に伴って、電力各社は火力発電をフル稼働させ、東京電力は急ごしらえの増設もした。追加で発生した燃料費は数兆円ともいわれる。

東京電力福島第1原子力発電所の事故で、日本のエネルギー政策は大転換を迫られている(写真:東京電力)


 今後の方向性を決めるのは、政府が2012年夏にも策定する「エネルギー基本計画」だろう。エネルギー基本計画は、電力供給の発電方法ごとの内訳などを定めている。2007年度実績では原子力が26%、再生可能エネルギーが9%、残りが火力発電だった。

 2010年6月に閣議決定した2030年度の計画は、原子力を53%に倍増させ、再生可能エネルギーも21%へと大幅に増やすとしていた。計画の実現には、2020年までに9基、2030年までに14基以上の原発の新増設が必要とされた。これは、2050年までにCO2(二酸化炭素)排出量を80%削減するという目標を達成するには、原発を増やすしかないという論理によるものだ。

だが、この計画は、もはや実現不可能と見て間違いない。新たな計画で、2030年の原子力比率をどう定めるのかに注目が集まるが、一部には原発のマイナス分を再生可能エネルギーで代替すべきという論調がある。だが、「再生可能エネルギーで原発をすべて代替するのはコストや導入までの期間を考えると非現実的」と石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の石井彰特別顧問は説明する。

 現在の日本の再生可能エネルギーの導入量は先進国で最低水準。最大限増やす努力をしたとしても、原発を代替するには及ばない。実際、風力発電を建設するまでには3~5年、地熱発電では10年近い歳月を要する。

 一方で、技術評価を専門とする特定非営利活動法人(NPO法人)創業支援推進機構(ETT)の紺野大介代表は、「米国などで開発が進む次世代原発は安全性が非常に高く、コストも安い。原発のすべてを否定するのは時期尚早だ」と話す。

 2012年夏に向けて、原発のリスクや国民負担となるコストを最小化するための道を探ることになる。政策の転換の仕方によっては、電力会社の事業構造が大きく変わる可能性もある。

計画停電が意識を変えた


 原発事故は、エネルギー政策の行方だけでなく、消費者の意識にも大きな変化をもたらした。特に、計画停電を体験した東京電力管内では、「ジャブジャブ使えて当たり前」という電力の常識が崩れ去った。

 こうした意識の変化は、思わぬ商品の購入につながっている。家庭用燃料電池や家庭用蓄電池がそれだ。原発事故前はコストの高さから敬遠されがちだった商品が、飛ぶように売れている。

 家庭用燃料電池を販売する東京ガスには、原発事故前の10倍を超える問い合わせが殺到。2011年度の補助金は、7月上旬に早々と予算枠の上限に達した。第2次補正予算でも追加の補助金が用意されたが、補助枠の8割強が受け付け再開から約3週間で埋まってしまった。

 一方で、石油ファンヒーターの販売も絶好調だ。いざという時のために買う人が増えており、最大手のダイニチ工業によると、2011年10月の販売台数は、前年比230%に上った。

 2012年夏には再生可能エネルギーの「固定価格買い取り制度」の施行も控え、再生可能エネルギー市場は広がる公算が大きい。既に商機と見たソフトバンクなどの異業種企業が、エネルギー事業への参入を決めている。また、原発事故からの復興のシンボルとして、福島県沖に「浮体式洋上風力発電」を大量導入する計画も浮上。エネルギー基本計画の行方にもよるが今後、エネルギー分野での競争は、かつてないほど活発になりそうだ。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20111216/225287/?P=2&ST=rebuild