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キリンホールディングス、ミャンマーでの国軍系企業とのビール合弁事業から撤退。持分を売却へ。ミャンマー事業での総減損損失額680億円に(RIEF)

2022-02-14 18:09:49

Kirin002キャプチャ

 

 キリンホールディングスは14日、ミャンマー市場で国軍系企業と合弁で展開していたビール製造事業から撤退する方針を決定したと発表した。6月までに持ち分の株式を第三者企業に売却することを検討する。事業撤退により、2021年12月期に新たに466億円の減損損失を計上。これまでも損失を計上しており、ミャンマー事業全体での減損損失額は680億円となった。「政治リスク」の見誤りの痛手は大きかったと言える。

 

 ミャンマーに進出した日本企業で、国軍系企業が関与する共同企業体(JV)を解消して撤退を表明するのは、キリンが初めて。軍事政権によるミャンマー支配が長期化しそうなことから、今後、同様の立場に置かれている他の日本企業も決断を迫られそうだ。

 

 キリンは、2015年に約700億円を投じた現地のビール会社「ミャンマー・ブルワリー」を通じて、2017年に国軍系企業ミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)と合弁で「マンダレー・ブルワリー」を設立、事業展開を行ってきた。クーデター前まではミャンマー事業はキリンHD全体の事業利益の9%を占めるまでに成長していた。

 

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 しかし、2021年2月に国軍がクーデターを起こし、各地で民主主義を求める住民らと対立。人権侵害への懸念が国際的にも高まる中で、欧米企業を中心にミャンマーからの撤退が相次いでいる。キリンは投資先企業についてMEHLとの間で、キリンが51%、MEHLが49%出資する形で連携してきた。

 

 事業の継続を巡って、MEHL側と対立、MEHLはミャンマー・ブルワリーの清算をヤンゴンの裁判所に申し立てる一方で、キリンは合弁解消を求めてシンガポール国際仲裁センター(SIAC)に仲裁を提起し、相互の対立が続いていた。キリンとしては、仲裁の見通しも不明な状況が続くことから、今回、事業からの撤退を決め、ビール会社2社の保有株式を第三者企業に売却する方針とした。https://rief-jp.org/ct10/121777?ctid=74

 

 同社では「合弁解消を早期に図ることを最優先し、当社がミャンマー事業から撤退する方針のもとに、MEHLとの協議を進めていく。撤退計画の策定に際しては、現地の従業員とその家族の生活と安全を重視し、当社人権方針に基づき、ステークホルダーに配慮していく」と説明している。

 

 ミャンマーからの外資企業の撤退では、先に仏エネルギー大手のトタルエナジーズと米シェブロンがガス田事業からの撤退を発表した。国軍の影響下にあるミャンマー石油ガス公社(MOGE)との合同によるガス田開発事業の利権分を売却して撤退を表明した。同事業も人権団体等から国軍の資金源になっていると批判されてきた。ガス田事業からは、豪ウッドサイドも撤退を表明している。https://rief-jp.org/ct10/121777?ctid=74

 

 ただ、欧米企業の撤退した後の事業が国軍系企業と関係を断つわけでもなさそうだ。トタル等のガス田開発の場合、開発したガスを売却している隣接のタイの公益企業が、トタル等から買い取る形で事業を引き継ぐとみられている。企業のCSR対応で欧米企業が撤退するものの、結果的に、事業継続によって、国軍に流れる資金は減らないとの懸念も出ている。

 

 キリンでは、人権配慮の観点から、MEHLなどの国軍系企業への売却は避ける方針としているが、それ以外の企業が譲渡先として手をあげる可能性は高くないとみられる。キリン以外の日本企業では、フジタや東京建物、横河ブリッジホールディングス等が、同様に国軍系企業との事業を抱え、対応に苦慮しているとされる。

 

https://pdf.irpocket.com/C2503/OMfg/AvLw/NShS.pdf