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第8回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑧優秀賞:丸井グループ。デジタル債を活用し、途上国でのマイクロファイナンス事業に、丸井の顧客が参加できる仕組み構築(RIEF)

2023-02-24 15:31:57

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写真は、㊧から、サステナブルファイナンス大賞審査員、佐藤泉弁護士、㊥が丸井グループの共創投資部長の新原一雄氏、㊨が環境金融研究機構の藤井良広)

 

 丸井グループは、デジタル債を使ったソーシャルボンドの発行で、途上国でのマイクロファイナンス事業に、同社のカード会員が資産運用を通じて参加できる仕組みを構築しました。新しいファイナンスの技術を生かして、顧客にインパクト投資の場を提供する取り組みは、同社にとって社会貢献活動であると同時に、顧客満足度を高める効果にもつながるとの評価から、サステナブルファイナンス大賞の優秀賞に選ばれました。同社の共創投資部長の新原一雄氏に伺いました。

 


――途上国でのマイクロファイナンス活動をしている企業を支援するために、デジタル債でのソーシャルボンドを発行されましたが、きっかけはどういうことでしたか。


  新原氏   :   われわれの創業者である青井忠治は「信用は私たちがお客様に与えるものではなく、お客様と共に創るもの」と述べてきました。こうした思いに沿って、丸井グループは、ファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)という目標を創業以来、掲げています。2019年には「ビジョン2050」を発表し、その中で、2050年までに世界で1000万人以上の方々に、金融サービスを提供する目標を立てています。

 

  その目標に向けて現在、途上国でマイクロファインス事業を展開している日本の2社(五常・アンド・カンパニー社、クラウドクレジット社)に投資し、彼らと、いろいろな投資を進めてきています。その「協働」の中から、両社が取り組んでいる途上国向けの金融包摂活動に、丸井グループのクレジットカードであるエポスカードの会員の方々が、参画する機会を提供できないだろうかと考え、話を進めてきたのがきっかけです。

 

――デジタル債がマイクロファイナンス事業と、丸井の会員をつないだわけですね。

 

  新原氏   :   従来の社債発行の場合、顧客管理は証券会社にやってもらうことになるので、社債の発行会社であるわれわれが、社債の買い手となる顧客を選ぶことはできませんでした。それが2020年の金融商品取引法の改正で、ブロックチェーンを活用したデジタル債の発行が可能になりました。この法改正によって、丸井グループが直接、特定した顧客向けに、デジタル債を発行して資金調達を行い、さらに顧客管理も行うことが可能になったのです。そこで、エポスカード会員を対象としてデジタルでのソーシャルボンドを発行しました。

 

新原氏
新原氏

 

――資金の流れを説明してください。

 

  新原氏   :   まず、われわれが発行するソーシャルボンドをカード会員の方々に買っていただきます。同ボンドは債券ですので、投資した顧客が負うリスクは、丸井グループの想定上の「倒産リスク」となります。一方で、丸井グループはボンドによって顧客から調達した資金を、五常・アンド・カンパニー社とクラウドクレジット社の2社に投資します。彼らの途上国での活動によって上がる収益から、利払いが生まれることになりますが、投資先が日本に比べて金利水準の高い新興国なので、日本での資産運用と比較して、相対的に高い利払いが得られます。

 

 2022年6月にエポスカード会員向けのデジタル債と一般向けのリテール債(普通社債)を合わせて15億円の資金調達を行いました。その際、デジタル債の金利は、エポスカード会員向けのエポスポイントを含めて約1%、リテール債では約0.3%と、当時の市場としては比較的高い金利を設定できました。初めてのデジタル債の取り組みだったので、当初は、どれくらい売れるか非常に心配でした。しかし、デジタル債は1回目も2回目も、発行額の10倍程度の申し込みをいただき、無事に完売できました。リテール債も野村證券によって、無事、完売できました。今回の取り組みで資金を提供した途上国でのマイクロファイナンス事業を通じて、途上国の約3万3000人の方々に資金を届けることができました。

 

――取り組みの成果をどう評価されていますか。

 

  新原氏   :   今回の取り組みは、顧客、投資先、丸井グループの3社それぞれにとって「3方良し」の取り組みになったと考えています。顧客は、少額の投資で、社会課題解決に貢献出来ることに加えて、普通預金よりも高い利回りでの資産運用ができます。投資先は、まだ小さいスタートアップ企業なので、これからの資金調達先である機関投資家に加えて、個人投資家からの認知度が向上し、ファンになってもらえる機会を拡大できたと思っています。丸井グループとしても、ソーシャルインパクトの向上と、利益への貢献の両立が実現できました。

 

丸井グループの「デジタル債」による顧客の社会貢献活動参加の仕組み
丸井グループの「デジタル債」による顧客の社会貢献活動参加の仕組み

 

――丸井にとって顧客の満足度を高めるというマーケティング活動の意味もあったのですか。

 

  新原氏   :   それもあります。もう一方で、投資先の2社、特に五常・アンド・カンパニー社はこれから上場を目指していく会社ですが、現状は、一般消費者とはつながりのない会社です。しかし今回のデジタル債の資金供給先となったことで、IR的な効果もあったと思います。

 

 ――デジタル債の仕組みづくりや商品設計では、野村證券の協力が大きかったと思いますが、野村證券が開発したものをレディメードで取り入れたのですか。それとも丸井グループ向けのオーダーメードの工夫も盛り込まれているのですか。

 

  新原氏   :   デジタル債の仕組み自体がまだ新しいものです。特に今回は、国内で事業会社が発行する同債券は初めてだったので、われわれからも野村證券に対しては、いろいろと注文や思いを伝えて、仕組みを作っていただきました。現時点はデジタル債の仕組みも、完璧に、これでやればやれるよね、というようなパッケージがあるわけではありません。デジタル債の発行と、われわれの既存の投資の申し込みページ等をくっつけるなど、自前の取り組みも行っています。

 

――デジタル債は、エポスカードの会員が投資家となったわけですが、一般投資家向けの債券販売との違いや、会員等からの特別の反応はありましたか。

 

  新原氏   :   エポスカード会員は全体の半分が30代以下の若い人が多いです。デジタル債への投資の場合、購入者の半分以上が40代以下でした。一方で、われわれがこれまで普通に売ってきた社債の場合、40代以下の投資家は10%もいません。今回、デジタル債とは別に、普通の債券として証券会社経由で販売したものが13億円分あります。しかし、この13億円については、誰がどう買ったかは、われわれもあまり認識できていません。顧客がわからない。一方のデジタル債は「わかる」。われわれが普通に売っている社債の場合、40代以下の投資家は10%もいません。

 

――デジタル債はエポスカードの会員にぴったりの商品だったということですね。

 

  新原氏   :   そうだと思います。もう一つは、今回のデジタル債の購入単位は一人100万円まででした。通常の債券に比べて一件当たりの購入額は小さかった点があります。通常の債券だったら100万円単位でわが社の社債等を売っています。それと比べると、今回は1万円から100万円の範囲を設定しました。一人当たりの購入金額は小さかったのですが、その分、たくさんの顧客に投資していただくことができました。

 

オンライン・インタビューの模様(下が氏)
オンライン・インタビューの模様(下が新原氏)

 

――投資をした顧客からはどんな声が届いていますか

  新原氏   :   われわれのほうから、購入者に対して、「どうして買われましたか」ということは聞いています。その回答で一番多いのは、素直に「1%の利率がいい」という声でした。複数の回答ですが、7割くらいの方がこの点をあげています。その次の購入理由としては「エポスカードからの推薦があったから」という回答が多いですね。また、3割くらいは「社会貢献をしたいから」という声もありました。特に、「途上国の応援をしたい」という声が2割くらい。同じくらいですが、2割ほどが「デジタル債という目新しい商品に投資してみたい」と答えてくれました。

 

――資金使途を意識した方々が一定数いるということですね。

 

  新原氏   :   その通りです。個人の方々の社会貢献等の思いを金融商品として届けたというわれわれの思いが、つながったかな、と感じています。


――今後も、デジタル債による発行での途上国、マイクロファイナンス支援を継続的にやっていく予定ですか

 

  新原氏   :   今、どういう形でやっていくかはまだ決めていませんが、顧客の資産形成と絡めてやっていきたいとは思っています。デジタル債という形で続けるかどうかは、これから支援先の企業等とも相談していきたいと考えています。われわれは途上国支援だけというよりも、社の方針として、ファイナンシャル・インクルージョンを掲げています。途上国に限らず、ファイナンシャル・インクルージョンを日本国内、海外等で進めていくことで、われわれが金融サービスを手掛けている首都圏でのインパクト投資を戦略に進めています。今回のマイクロファイナンス支援は、そうしたことの一環です。

 

 国内では在留外国人向けのクレジットカードづくりに取り組んでいる支援企業への応援もしています。今回の授賞は顧客の資産形成と、社会課題の解決を目指し、その中でファイナンシャル・インクルージョンを進めてきた、われわれの活動を評価していただいたと思っています。今後も、そうした活動を継続していきたいと思います。

                          (聞き手は 藤井良広)