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第8回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑪地域金融賞:豊橋商工信用組合。第三者鑑定付きの古民家ローンの開発。古民家への移住者定住を後押し。地域活性化の軸に(RIEF)

2023-03-02 12:13:29

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写真は、サステナブルファイナンス大賞授賞式で、授賞内容の報告をする豊橋商工信用組合の中村勝彦理事長)

 

 豊橋商工信用組合は、地域にある古民家を改築し、文化的価値を残しながら移住者向けの住宅として再生していく古民家ローンを開発しました。同ローンでは古民家の価値を連携する第三者機関が「鑑定」して価値づけする手法を応用したもので、地域の古民家の維持とともに地域再生にもつながるとの期待を含め、同組合を第8回サステナブルファイナンス大賞の地域金融賞に選びました。同組合の中村勝彦理事長にお聞きしました。

 

――古民家ローンの文化的な側面や、地域の資産としての有益性を評価して融資することにした経緯を教えてください。

 


  中村氏 :前職は銀行でしたが、前職での最後の10年間は、仙台、梅田、名古屋等におりました。仙台の時には、東北各地に古民家がたくさんあり、大変立派な古民家が放置されている状況を「もったいな」と随分、思ったりしていました。東日本大震災で朽ち果てた家を見るにつれ、その思いが強くなりました。その後、愛知県の豊橋市に来ました。同市は都会ですが、少し郊外に行くと田舎の風景が広がります。その中で、奥三河地域の新城市・設楽町・東栄町・豊根村には古い民家がたくさん残っていることを知りました。当時、同地域は我々の営業地域ではなかったのですが、古民家を別荘として使っている人がいることなどを聞きました。

 

 ある時、偶然に新城市の戸田工務店社長の戸田氏から、地域の古民家を解体して海外に輸出して海外に大工を派遣し再建築している等の話を聞き、古民家の価値を再認識しました。そこで調べると、他の金融機関でも古民家ローンを扱っているところは複数ありましたが、そのほとんどが保証会社の保証付きで、借り手にとって借り入れ要件が高くなる仕組みでした。一方で、古民家を買いたい人は、地域外の移住者が多いのですが、移住者の場合、勤務期間が短い方が多く、信用力の点でなかなかローンを組めないという問題もありましたし、そもそも担保価値の無い古民家は、ローンが付かないという課題もありました。

 

中村勝彦氏
中村勝彦氏

 

――そこで借り手の評価に加えて、古民家の価値を評価する仕組みを導入したというわけですね。

 

  中村氏   :   そうです。われわれは、古民家の文化財的価値を評価し、それを踏まえてローンを提供することにしました。全国には古民家再生協議会という組織があり、その愛知県代表を戸田工務店がされています。専門の建設会社である同社に古民家の文化財的価値を評価して鑑定書を出してもらいます。この鑑定書によって保証会社の保証がなくても、ローンを組めるようにしました。古民家の文化財的価値の鑑定書だけをローン審査に反映させる仕組みは全国でも初めてだと思います。

 

 加えて、われわれは信用組合ですので、借り手企業、人の属性を評価するということでは、他の金融機関より長けていると思っています。古民家鑑定書と借り手の属性評価を元にして、今回の古民家ローンを始めました。

 

――対象となる古民家はどのようなものを言うのですか。

 

  中村氏   :   古民家の定義は昭和25年(1950年)以前の建築物ということになります。今から70年少し前の建物です。中には、モダンな古民家もあります。われわれが対象とする奥三河地域では、かつての富裕層が作った豪壮で、太い柱が整った古民家が多いです。しかし、そうした豪邸も人が住まなくなると荒れてしまいます。人が魅力を感じる文化財的価値が高い古民家を対象としています。

 

――古民家を再生するうえでは、建物自体の物理的な再生がまず大事だと思いますが、建物の建てられた時代背景を映す文化的な価値の維持も大事だと思います。そうした価値の維持において、重要なのはどういう点ですか。

 

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  中村氏   :   建物自体の物理的な評価や修理・再生は建設会社がされます。われわれが見るのは、住まれる方が何に使うのか、永続的に住む可能性があるのかといった、定性的なところをみることになります。そうした視点での再生のポイントとしては、古民家を再生される方が、地域の再生を真剣に考えているかどうかという点です。古民家は実は一つのコミュニティになり得る場所なので、そこに起業家的な考え方を持った人に入ってもらいたいと思っています。そういう人たちが古民家に持続的に、きちんと住んでもらえるかがポイントだと思っています。

 

――古民家を米国に輸出している場合もあるということですが、そういう形ではなく地域の中で再生することを目指すということですね。

 

  中村氏   :   実際の古民家の利用にはいろんなビジネスがあると聞いています。海外への解体輸出のほか、曳家(ひきや)といって、建物を解体せず、そのまま土台ごと、別の場所に移す形での利用もあります。用途としても喫茶や飲食店、集会所等、結構、バラエティに富んでいます。われわれは地域に住む人を対象にローンを提供しますので、再生利用する古民家が、地域の核になるような物件、中心となる人に融資をしたいと思っています。

 

――対象地域の奥三河の地域住民や周辺自治体等の反応はどうですか。

 

  中村氏   :   新たに当組合の営業エリアになった奥三河地域は新城市と設楽町、東栄町、豊根村です。そこにわれわれが営業区域を広げた狙いとしては、いろいろありますが、ひとつは、同地域は長野県の飯田市に隣接しており、同市にはリニアモーターカーが停まることになっている点が一つ。また設楽町は世界のトヨタがある豊田市と接していますので、これから発展が見込まれる地域です。ただ、設楽町、東栄町、豊根村の人口合計は1万人くらいで基本的に過疎地です。現在、われわれは新城市にATM車を展開して営業をしています。展開地域も今後拡大していく予定です。古民家ローンをやることで、地元の不動産業者や地域で活性化を目指している人たちからの反応はものすごく手応えがありました。

 

 古民家ローンの実施に対しては、奥三河だけでなく、地域での定住人口を増やしたいと考える他の自治体からも問い合わせ等もありました。今も問い合わせは各地から届きます。われわれの組合で同地域に一番近いのは豊川支店で、そこの職員が営業に回りますが、職員にとっても地域で提供できる金融商品の中身が増えたので、地域開拓につなげる新たな利点になっていると思います。


――ローンの取り扱い状況はどうですか。

 

  中村氏   :   現状で成約したローンはまだ1件です。いろいろ問い合わせは続いています。成約した方の事例は、同じ愛知県に住んでいた税理士さんです。子どもさんを自然豊かな地域で育てたいとの思いから古民家を買われ、1,000万円以上する改装費用を融資しました。Wi-Fiの環境さえあれば、どこでも仕事は可能とのことです。そこで緑豊かな奥三河の古民家を選ばれたのです。もう建物は完成して住んでおられます。

 

――今後の見通しはどうですか。

 

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  中村氏   :   今後は、奥三河だけでなく、周辺部の過疎地域にも、同様の仕掛けをしていくつもりです。われわれは組合として、若手の起業家を集めて交流を進める「ロッカク塾」という取り組みを展開しています。同塾の拠点として古民家を使うアイデアもあります。古民家は土間が広いので、喫茶店やレストランに改造したり、集会場にしたりして利用する方が多いです。そうした利用によって、地域の拠点になり易いです。地域住民を巻き込んで、新たに移り住む移住者の定住を後押しする展開を目指していきたいと思います。

 

 愛知県の東三河地域は20ほどの金融機関がひしめきあっており、全国でも金利が一番低い地域といわれます。「名古屋金利」よりも低い。メガバンクの方も、「全国で一番適用金利が低い地域」と認めています。ただ、われわれは信用組合なので、規模や金利で勝負するのではなく、いわゆる「金融弱者」と言われる方々に、きちんとした金融を届けたいという思いでやっています。2年前に経営方針を変え、地域に貢献することを第一に、金融面でもお手伝いする方針を打ち出しています。地域に貢献するということは、人と人をつなぐ、縁と縁をつないでいくということですので、「ご縁は、財産。」とのコンセプトを前面に打ち出し、活動しています。人と人を結び付けていくビジネスを展開し、地域でやっている多様な活性化の動きにわれわれ自身も積極的に参画していきます。

 

 人や商材をつなげていく「地域商社」ということがよく言われます。金融機関が自ら本気でそうした企業活動に入っていくということが求められていると思います。金融が本気で地域の中に、企業活動の中に、入ってやるということです。昔からよく言われるのが、金融は貸すことが主で、商売に役に立たないというところがあるとよく言われます。私は近江商人の末裔でもありますので、縁と縁をつなぎながら「三方良し」をきちんと実践していきたいと思っています。

                         (聞き手は  藤井良広)