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三井不動産。グループ生物多様性方針策定。東京・神宮外苑の再開発計画を「昆明モントリオール生物多様性枠組」に準拠と強調。逆に「グリーンウォッシュ」の懸念も(RIEF)

2023-06-24 21:14:44

mitsuifdousannキャプチャ

 

 三井不動産は、昨年12月に国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で合意された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」に賛同するとともに、グループ全体の生物多様性方針を策定した。この中で、同社が手掛ける東京・神宮外苑の再開発について、「樹木を若い樹木に植え替えることにより、緑の循環を図る」とし、生物多様性保全に資すると強調した。樹木の伐採後の植樹によって、地区内の樹木本数は逆に増え、緑の割合は増加するともした。同社の主張は、「生物多様性枠組」に沿っているのか、それともグリーンウォッシングなのか。

 

 同社の公表によると、「地球規模で生物多様性への影響への配慮は経営の重要課題の一つであると考え、当社グループ全体で生物多様性に配慮した事業活動を行うとともに、サプライチェーンにおける生物多様性への影響に配慮する」ことを目的に、「三井不動産グループ生物多様性方針」を策定した、としている。同方針は、昨年末に国際的に合意した「昆明・モントリオール生物多様性枠組」を踏まえる形としている。

 

 同方針に基づく同社の取り組みの具体例の一つとして、神宮外苑の再開発を紹介している。「(現在の)4列のイチョウ並木を保全するとともに多様な緑化を計画」「現時点では、当地区内の樹木本数は既存の1904本から1998本へ増加、緑の割合は約30%(現況約25%)となる予定」「次の100年に向け、樹木を若い樹木に植え替えることにより、緑の循環を図っていく」。

 

 同再開発は、三井不動産や明治神宮などが外苑地区を「スポーツクラスター(集積地)」にすることを目指して大改造を計画しているものだ。老朽化している神宮球場と秩父宮ラグビー場の敷地を交換して建て替え、新たに高さ190mのオフィスビル等を複数建設するという。同地域は東京都の風致地区条例により高さ15m超の建築制限が課されていた。だが、東京五輪の主会場として国立競技場の建て替えに際して制限が緩和され、五輪後も建築制限は元に戻されず、超高層建設が可能になった。

 

 しかし、大規模な開発計画によって地域内の樹木が1000本近くも大量伐採されることから、多くの異論が浮上している。世界の歴史的な記念物、文化遺産等の保存を進めるユネスコの諮問機関「国際記念物遺跡会議(イコモス)」が事業に着手しないよう要請したほか、先日亡くなった坂本龍一氏も死の直前に「計画を見直すべし」との手紙を小池都知事に送っている。

 

 こうした反対意見や見直し論にもかかわらず、すでに3月中旬に工事の一部が着手されている。今回の三井不動産の「生物多様性方針」発表は、同事業計画が国際的な「昆明モントリオール枠組」に準拠しており、「生物多様性の保全上、問題ない」とアピールし、反対意見に対抗する形だ。

 

 超高層ビル街への変身を目指す神宮外苑再開発計画が、本当に「昆明モントリオール枠組」に合致しているのだろうか。同枠組には23のターゲットを示している。その中で、都市再開発に該当するのが「ターゲット12」だ。

 

 同ターゲットの内容で、同再開発に関連すると思われるのは、①都市部と人口密集地域の緑地空間等を大幅に増加②生物多様性に配慮した都市計画で在来の生物多様性等の連結性・健全性の向上③「包摂的かつ持続可能な都市化」といった表現だ。

 

 三井不動産がアピールする植え替えによる樹木数の増加、5%の「緑の割合増」は、ターゲット12が示す「緑地空間の大幅な増加」に相当するのだろうか。枠組が想定するのは建物が密集し緑を欠く既存の都市空間に、「新たに緑地空間」を増加させる、との視点に読める。既存の公園樹木等を伐採し、若い樹木で植え替えることは想定していないのではないか。

 

 また同社は「次の100年に向け、樹木を若い樹木に植え替えて、緑の循環をはかる」とする。この点も植物学者でなくても、首を傾げる点だ。②に「在来の生物多様性等の連結性(既存生態系を尊重することの意味)」と書いていることも踏まえると、樹木の寿命が100年というのは短いほうで、欧米の都市公園に行けば数百年の寿命を持つ巨木が普通に守られている。都市の樹木を100年の区切りで伐採することを「緑の循環」といえるのだろうか。

 

 ③の「包摂的かつ持続可能」も今回の再開発計画では一切省みられていないように思われる。包摂的とは、ビジネス優先ではなく、その地域社会の住民の人権(地域の生物多様性を守ることへの住民の参加権)や弱者等あらゆる人々を含めることを意味する。同ターゲット22では、地域社会の文化、土地や資源、伝統的知識に対する権利を尊重した上で、生物多様性に関する意思決定には先住民や地域住民も、完全に、衡平に、包摂的に、効果的かつジェンダーに対応した代表性と参画等を確保して決定すると、明記としている。

 

 事業者が自分たちだけの判断で、「樹木を(勝手に)若い樹木に植え替えたり」、高さ15mに制限されていた風致地区に、200m近い高層建設を建設してもいいとする根拠は、「昆明モントリオール枠組」のどこから読み取れるのだろうか。五輪のために緩和された規制は、五輪が終われば元に戻すだけでなく、それ以前よりも生物多様性に配慮して、新たに公園を拡張する等の「連結性」のある取り組みをすることが求められると読むのが素直ではないだろうか。

 

 そう理解すると、「昆明モントリオール枠組」への賛同コミットメントに基づくとする三井不動産の生物多様性方針と、それを根拠とする神宮外苑再開発の「正当性」には疑問を感じざるを得ない。「5%の緑地アップ」強調は、植栽面積さえ広げれば「グリーン性が向上する」とする「グリーンウォッシュ」の疑いが濃厚だ。それも若木の植樹による「5%」だけだ。

 

 「昆明モントリオール枠組」は、合意文書のいくつもの個所で再三、地域住民(先住民と併記)の意見や人権等への配慮を繰り返している。三井不動産は、「グリーンウォッシュ」の汚名を着ないためにも、同枠組の文書を再読し、現状の外苑地区の豊かな緑をさらに高めるような生物多様性の新たな取り組みを加えるべきではないか。

 

 建物や開発計画は人々に支持されてこそ、その価値が高まるはずだ。地域住民や、内外の多様な人々から支持される案であってこそ、「さすが一流の不動産会社」との評価が生まれるはずだ。一度、ウォッシュの汚名を着ると、その返上は容易ではない。

(藤井良広)

https://www.mitsuifudosan.co.jp/corporate/news/2023/0413/

https://www.mitsuifudosan.co.jp/esg_csr/environment/06.html

https://www.env.go.jp/content/000107439.pdf