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東京海上アセットマネジメント(TMAM)。環境移送技術ベンチャー等と連携、海草の陸上再生事業に取り組み。カーボンクレジットと同時に生物多様性クレジットの創出事業を目指す(RIEF)

2023-10-19 22:00:17

umishoubuキャプチャ

写真は、開花時期にウミショウブの雄花が海面に浮かぶ様子=沖縄タイムズより)

 

 東京海上アセットマネジメント(TMAM)は、カーボンクレジットだけでなく、生物多様性クレジットの創出も目指して海洋の藻場再生事業の支援に乗り出す。環境ベンチャーのイノカ(東京)等と共同で、沖縄・石垣島沿岸で生息する絶滅危惧種の海草ウミショウブを陸上設備で繁殖させ、藻場を再生する試みだ。藻場再生に伴い、CO2吸収力の増加によるカーボンクレジットや、生物多様性クレジットの生成が期待される。TMAMでは脱炭素と生物多様性保全をセットにした形で、インフラファンドや事業会社等へ提供する展開を想定している。

 ウミショウブの藻場再生事業は、TMAMとイノカに加えて、リスクビジネスを展開する東京海上ディーアール(TdR)も参加する。事業エリアは、石垣市野底(のそこ)の沿岸域で行う。同地域での藻場は、温暖化の進展による海温上昇等の影響で、磯焼け状態が進行している。3社は、こうした状態を回復させるため、地元で自然保全活動を推進している「エコツアーふくみみ」や石垣市立野底小学校と協力して再生事業を展開する。

 再生事業はまず、ウミショウブをイノカの研究設備に移送し、同海草の最適な生育環境や環境変化に強い品種等の研究等を進める。イノカは海洋環境を陸上で再現し、生物等の環境移送技術を開発しているベンチャーだ。同社の技術は、天然海水を使わず、30以上の微量元素を溶存させた水の中で、水質、水温、水流、照明環境、微生物を含む多様な生物の関係性などの要素を調整、IoTデバイスを用いて、任意の生態系を水槽内に再現する手法だ。
 気候変動が、地球の自然環境および経済・社会活動に及ぼす悪影響は、世界的な課題となっている。近年は、温暖化への影響に加えて、自然生態系への影響が懸念されている。2021年の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では「グラスゴー気候合意」において、気候変動と生物多様性の損失は相互関係にあることが改めて確認されている。
 生物多様性の保全をグローバルに展開するため、2022年12月には国連生物多様性条約締約国会議(COP15)で「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択されている。2023年9月には生物多様性関連の企業の情報開示を促進するTNFD最終版も公表された。こうした中で、日本でも2023年3月に「生物多様性国家戦略2023-2030」が閣議決定され、生物多様性保全に向けた国家目標が掲げられている。
 
 TMAMら3社は、こうした状況の中、日本の沿岸部での藻場を育む海藻・海草は、温室効果ガス(GHG)の吸収による脱炭素を進めることに加え、日本の伝統的な食文化や健康産業において重要な役割を果たすほか、沿岸漁業の対象となる魚種の40%近い種類が藻場・干潟等に依存して生息していること等を踏まえ、藻場の再生事業に取り組むこととした。

 

 共同事業エリアの同市野底崎の南側に広がる多良間の浜から吹通川の河口周辺は、日本におけるウミショウブの生息地の北限地として知られる。だが、近年では熱帯・亜熱帯の海に生息する絶滅危惧種のアオウミガメの増加による海草食害問題が発生し、磯焼けに加えて、海草の食害問題も起き、同地でもウミショウブの群生地が消滅の危機に瀕しているという。
 イノカは今回の研究を通じて、海藻・海草の陸上研究から実際の海域への適用ノウハウを確立することで、野底崎地域だけでなく、今後、全国各地の海における海藻・海草を活用した生物多様性保全や再生事業に応用することを目指している。TMAMとイノカは、藻場の生物多様性保全やCO2の吸収量の計測などを実施し、現地のモニタリングをベースにブルーカーボンや生物多様性クレジットの生成を目指すとしている。
 TdRは、こうした取り組みを展開する同地区を、環境省が推進する「自然共生サイト」に登録することを目指すとともに、同地域での生物多様性保全活動で得られた成果や知見を、自社の気候変動・自然資本領域におけるコンサルティング事業に応用していくとしている。またTMAMは、環境省が進める「自然共生サイト」で生態系保全に関する支援活動を行ったことを証明する「支援証明書」制度の適用も想定している。
 3社とも、今回の石垣市での事業をモデルに、今後、より循環的なモデル開発を目指して、再生・保全した海藻や海草を、飼料への転用や養殖などを含めた新たな展開の可能性についての研究も進める計画だ。さらに地域の学校、住民等との連携も継続することで、持続可能な取り組みのモデルとして定着させることを想定している。