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「最大風速86m以上」の超暴風をもたらす低気圧の増大で、5段階の米ハリケーン・カテゴリーに新たに最強度の「ハリケーン6」設定を気候科学者が提案。日本の台風評価も同じ懸念(RIEF)

2024-02-08 14:33:33

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写真は、2013年にフィリピンを襲ったタイフーン・ハイエン=NASA資料)

 

 ローレンス・バークレー国立研究所の気候科学者マイケル・ウェーナー(Michael F. Wehner)氏とファースト・ストリート財団のジェームズ・コシン(James P. Kossin)氏は、最大風速秒速70m以上の暴風をもたらす低気圧を全て「ハリケーン・カテゴリー5」に一括りにする現行の風速スケール「サフィール・シンプソン風速スケール(Saffir-Simpson hurricane wind scale)」ではハリケーンの脅威を捉えきれないとして、最大風速が秒速86m以上の暴風をもたらす低気圧を、新たに「カテゴリー6」とする新分類を追加すべきだと、研究論文で提唱した。

 

 両氏は5日、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に発表した論文「The growing inadequency of opened Saffir-Simpson hurricane wind scale in a warming world」の中で、新カテゴリーの設置を求めた。論文によると、気候変動の影響によって、海水温の上昇がハリケーン(発生場所によってタイフーン、サイクロンなど呼び名が変わる)の激しさと破壊力を増しており、ハリケーン被害のリスクを住民に正しく伝えるために風速スケールの改定が必要と主張している。

 

 近年、人為的な地球温暖化によってハリケーンが形成・伝播する地域の海水面の温度と対流圏の気温が著しく上昇。ハリケーンにさらなる熱エネルギーがもたらし、暴風雨が激化している。両氏は、1980年から2021年までのハリケーンのデータを分析。現行のハリケーンカテゴリにーに、両氏が提唱するカテゴリー6があれば、そこに分類されるべきハリケーンが5件見つかり、そのすべてが過去9年の間に集中発生していたことを突き止めた。

 

気温が産業革命前からどれだけ上昇すればカテゴリー6のハリケーンの発生がどの程度増えるかを表した図(両氏の論文から)
気温が産業革命前からどれだけ上昇すればカテゴリー6のハリケーンの発生がどの程度増えるかを表した図(両氏の論文から)

 

 続いて、過去のデータ分析に加えて温暖化がハリケーンの暴風雨激化にどのような影響を与えるかを探るシミュレーション分析を行ったところ、地球温暖化により気温がパリ協定の「1.5℃」目を超えて2℃にまで上昇すると仮定すると、カテゴリー6のハリケーンが襲来するリスクはフィリピン付近で最大50%、メキシコ湾付近で2倍に増加するとの試算結果を得た。これらの超暴風雨のリスクが高いのは、東南アジア、フィリピン、メキシコ湾であるとしている。

 

 米国で現在使われているハリケーンの風速スケールは、1970年代初頭に土木技師のハーバート・サフィアと、米国国立ハリケーンセンターの所長であった気象学者のロバート・シンプソンによって開発された。その後、米国国立ハリケーンセンター(NHC)に導入され、ハリケーンの危険性を警告するために最も広く使われる指標になっている。

 

 同風速スケールは、元々はピーク時の風力、高潮、最小中心気圧の推定値を用いて、ハリケーンが海岸に上陸する際の風による破壊と水による破壊の両方を表現するものだった。2010年の変更で、高さ10m地点の1分間の平均最大持続風(=最大風速)のみで決定するとした。

 

 現行の区分は、最大風速が秒速17m以上の低気圧を「熱帯低気圧(日本では台風と定義)」、秒速18〜32 mの低気圧を「熱帯暴風雨」、秒速33〜42mの低気圧を「ハリケーン・カテゴリー1」、秒速43〜49mの低気圧を「同カテゴリー2」、秒速50〜58mを「同カテゴリー3」、秒速59〜70mの低気圧を「同カテゴリー4」、秒速70m以上の低気圧を「同カテゴリー5」に分類するとした。

 

 最大風速が秒速70m以上の低気圧を一括りに「カテゴリー5」としたのは、導入当時、このカテゴリーのハリケーンが直撃すると、暴風、高潮、降雨の複合的な影響により、どのような構造物も完全に破壊されるという見解があったためとされる。

 

 しかし、近年の地球温暖化の進展で、海水高温化による潜熱の上昇や、地表面温度および気温の差と風速に比例する顕熱フラックスの増加を通じて、ハリケーンへのエネルギー補給が増大する傾向が顕著になっている。その結果、カテゴリー5の「閾値」を超えるハリケーンの発生が現実に起きており、今後、温暖化の進行が加速するにつれ、最大風速が増強されたハリケーンの発生が増えてくる可能性が高い。

 

 両氏は、そうした傾向を論文で指摘。地球温暖化が進行する世界の状況が変わらない限り、カテゴリー6を設けないと、ハリケーン・リスクの過小評価がますます問題となるとして、今回の提唱となった。

 

 実際、2005年にニューオーリンズを襲ったハリケーン・カトリーナや、2017年にプエルトリコに壊滅的な影響を与えたハリケーン・マリアはカテゴリー5の範囲だったが、2013年にフィリピンで6000人以上の死者を出したタイフーン・ハイエンや、2015年にメキシコ付近で発生したハリケーン・パトリシアは、カテゴリー6相当だった。

 

  日本では気象庁が台風の「強度」と「大きさ」で、台風の威力を表している。強度については、米国のハリケーンカテゴリーは「1分間平均風速」だが、日本の気象庁のカテゴリーは「10分間平均風速」と定義に違いがあるものの、地球温暖化の進展によって今後、日本周辺で発生する熱帯低気圧についても、増大化する可能性も指摘されている。近い将来、台風の定義も見直しされる可能性も考えられそうだ。

https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2308901121