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「永遠の化学物質」とされる「PFAS」。汚染は特定地域の問題ではなく「日常の汚染」。欧州委員会副委員長等の政治家、指導者対象の自主的な血液検査で汚染の実態が判明(RIEF)

2024-02-08 22:51:50

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写真は、ChemSecのサイトから)

 

  日本では米軍基地周辺での汚染が問題化している難分解性の有機フッ素化合物「PFAS」だが、PFAS汚染は特定地域での汚染問題ではなく、「日常の汚染」だということを示すため、環境団体等が、EU欧州委員会の副委員長らを含む政治家、指導者を対象とした自主的な血液検査を実施した。その結果、11人の政治家全員から最大で7種類のPFASが検出され、うち5人は現行の規制の懸念レベルを超えていた。検査を実施した団体は、政治家などの「PFAS汚染水準」は、欧州市民の平均暴露量とほぼ一致し、PFAS汚染が日常化しているとし、PFAS規制の強化が必要と指摘している。

 

 EU政治家に対する「永遠の化学物質」検査を行ったのは、欧州最大の環境団体ネットワークの欧州環境局(EEB)と、有害化学物質調査の非営利団体ChemSec。検査に自主的に応じたのは、欧州委の前副委員長のフランズ・ティメルマンス氏をはじめ、デジタル担当副委員長のマルグレーテ・ヴェスタガー 氏、民主主義・人工統計担当のヴィルジニウス・シンケヴィチウス副委員長の3人の現前副委員長と、欧州環境庁長官のリーナ・イラ・モノネン氏、欧州議員等、合計11人。

 

 有機フッ素化合物のうち、ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物を総称して「PFAS」(ピーファス)と呼ぶ。難分解性のため「永遠の化学物質」とも呼ばれる。このうち、PFOS(ピーフォス。ペルフルオロオクタンスルホン酸)、PFOA(ピーフォア。ペルフルオロオクタン酸)は、半導体用反射防止剤や界面活性剤等で幅広く使用され、難分解性に加え、高蓄積性、長距離移動性等の性質から環境汚染の影響が大きいとして、日本でも現在は、国内での使用・製造や輸入が原則禁止されている。

 

 EU政治家への検査の結果、検出された7種類のPFASのうち、PFOAとPFOSはすでにEUでは使用が禁止されている。その他の物質(PFNA、PFDA、PFUnDA、PFHxS)については、いくつかの用途が規制されているが、PFHpSはまだEUでも使用が認められている。https://rief-jp.org/ct12/141957?ctid=

 

深刻な飲料水のPFAS汚染
深刻な飲料水のPFAS汚染

 

 EEBらは「EUは世界で最も強力な化学物質管理システムを運営しているが、すべてのEU市民が『驚くほど高い化学物質汚染』に今もさらされている。欧州の化学産業が数十年にもわたって、PFASの健康への危険性を(隠蔽されたまま)知りながら、PFASの生産、使用、排出を続けてきたことが原因」と指摘。現行規制措置は不十分だとして規制の強化を求めている。

 

 PFAS汚染は欧州中に広がっている。多くの化学工場が製造工程から生じる化学物質を、環境に長年にわたって廃棄し続けてきた結果、PFASが雨や川の流れ等によって集積・蓄積し、各地で飲料水汚染を引き起こしている。飲料水等を通じて長期摂取することで、がん、不妊症、先天性欠損症、免疫系の障害など、さまざまな深刻な健康問題の要因になっているとされる。

 

 EU域内で、PFASの暴露量が平均の約100倍という大規模な汚染地域としては、イタリアのヴェネト州、フランスのリヨン近郊の「化学の谷」、オランダ、ベルギーのフランダース地方とワロン地方などが知られる。各地で住民訴訟も起きている。政治家の影響検査を実施したEEBは「欧州高官たちのPFASレベルはヨーロッパ人の平均暴露量と大きな違いはない。欧州の高官でさえもPFASの存在を免れないことを示している」と述べている。

 

 検査を受けた欧州委副委員長のヴェスタガー氏は「昨年6月に血液検査を受けたところ、私の血液から、分析対象となった13種類のPFASのうちの7種類が検出された。PFASは、水、食品包装、フェイスクリームなど、私たちの身の回りのほとんどに含まれており、接することは避けられない。EUは、PFASの使用を制限し、PFASに代わる研究や解決策に資金を投入している。PFASが完全に代替されるまでにはまだ時間がかかるかもしれないが、それが正しい道だ」と述べている。

 

 前副委員長のティメルマンス氏も「PFASはどこにでもある。私たちの環境、自家製の野菜、魚、そして私たちの体を侵し、そこで永遠に生き続ける。市民をそのような事態から守られなければならない。この『合法化されたゴミ』の排出をすべて止めなければならない」と指摘。PFAS関連の化学物質の使用を全面的に禁止する規制の強化を求めた。

 

 EUでは2021年の飲料水指令の改正で、全PFASに対して0.5μg/L、特定のPFAS20種類の合計値で0.10μg/Lの基準値が定められている。ただ、EUの化学物質管理法REACH(化学物質の登録、評価、認可および制限に関する規則)に登録されているPFASは13種類、制限リストには、限られたPFASしか対象としていない。

 

 そこでPFAS化学物質を一括して使用を制限する案が、2020年5月に5ヶ国(オランダ、スウェーデン、デンマーク、ドイツ、ノルウェー)から提案され、同案に対するパブリックコンサルテーションが2023年9月25日まで実施された。同案ではPFASの使用・製造・販売を主には医薬・農薬を除き全面禁止とし、特定の産業分野の用途にのみ、一定期間(移行期間を含め6.5年もしくは13.5年)の制限の執行猶予を設けるという内容だ。https://rief-jp.org/ct12/141661?ctid=

 

 同案に対しては、禁止案の緩和を求める化学業界が欧州委員会や欧州議会の政治家等に働きかけるロビー活動を展開する一方で、環境団体や市民団体が、規制の強化を求めて化学業界の動きと政治家の反応に対して牽制を続けている。今回のEEBとChemSecによるEU政治家への自主的検査行動は、規制案緩和を働きかける化学業界とそれに対応する保守系政治家等に対して、欧州委や欧州議会の社民勢力等が、一種のデモンストレーションとして行った形だ。

 

 日本でのPFAS規制は、厚生労働省が2020年4月にPFOSとPFOAを対象として水道水の水質基準を水質管理目標設定項目に位置づけ、暫定目標値をPFOSとPFOAの合計値で50ng/Lとした。環境省は2020年、河川や地下水等の水環境の指針値(暫定)として、PFOSとPFOA合計で50ng/Lとした。ただ、環境省が2020年度に、全国143地点の河川等で実施した調査では、大半の133地点でPFOSとPFOAが検出され、そのうち21地点では合計の指針値(50ng/L)超過だったことが確認され、指針値の甘さが判明している。https://rief-jp.org/ct12/137602?ctid=

 

 欧州環境庁長官のイッラ=モネン氏は「化学汚染は欧州で広く見られる問題。今は、この状況を改善する大きなチャンスでもある。人と自然を守り、欧州の循環型経済を促進するために、われわれは化学物質のリスクをグループ単位で管理し、安全で持続可能な設計の化学物質を推進し、最も有害な物質を段階的に廃止していくべきだ」とPFAS全体を規制する方向性を評価している。

 

 EEBは、EUの他のNPOとともに域内で「トキシック・フリー・フューチャー(TFF)」キャンペーンを展開している。同キャンペーンでも、チェコ、スペイン、ベルギーの計16人の政治家を対象としたPFASの血中濃度検査を実施している。キャンペーンはドイツ、オランダ、フランス、ギリシャでも行われており、政治家自身が一人の市民として、自らの体が汚染されている状況を踏まえて、政策決定に臨む動きが広がりをみせている。

https://eeb.org/high-level-european-politicians-polluted-by-pfas

https://chemsec.org/blood-tests-show-high-level-eu-politicians-are-polluted-by-pfas/

https://chemsec.org/we-tested-eu-politicians-blood-for-pfas-heres-what-they-had-to-say-about-it/

https://eeb.org/high-level-european-politicians-polluted-by-pfas/