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アルジェリア人質事件の背景 欧州のエネルギーはアルジェリア頼み(むささびジャーナル) 石油会社は「犯人・人質皆殺し」の事件処理方法を評価

2013-01-28 09:32:08

犯人グループを率いるとされるベルモフタール元幹部とみられる人物の画像
 

犯人グループを率いるとされるベルモフタール元幹部とみられる人物の画像
犯人グループを率いるとされるベルモフタール元幹部とみられる人物の画像


Financial Times(FT)カイロ支局のHeba Saleh記者によると、アルジェリアのガス生産関連施設で起こった人質事件は、アルジェリア政府があのエリアにおけるアルカイダ勢力の拡大を過小評価した(The progress of al-Qaeda radicals was underestimated)ことに原因があるのだそうです。同政府の対応はBloody past shapes fortress Algeria’s reflex(血まみれの過去が要塞国家アルジェリアの行動様式を規定する)ものなのだそうであります。

アルジェリアという国があること、1960年代にフランスとの間でアルジェリア紛争というのがあったことなどを聞いたことはあるけれど、この事件が起こるまでは全く意識の中にありませんでした。フランスから独立してから約30年後の1990年代になってイスラム原理主義過激派によるテロ活動があって内戦状態に陥り、その過程で20万人もの犠牲者を出したのだそうですね。

Saleh記者によると、チュニジアやエジプトを席巻した「アラブの春」的な改革運動はアルジェリアでは起こらなかった。その理由は、アルジェリア人の間で90年代のテロおよび内戦状態に対するトラウマがあって改革には消極的にならざるを得なかったということです。

  • アルジェリアは北朝鮮のような引きこもり国家ではないが、どこか怪しげな諜報機関が支配する正体不明の体制を有した国であり、おせっかいな世界(meddling world)からは距離をとっている。
    Algeria is not insular in the way North Korea is. It is, however, a country with an opaque regime dominated by a shadowy intelligence service that is eager to keep its distance from a meddling world.


アルジェリアはどちらかというと閉鎖的な経済政策を採用してきており、経済の柱である石油・ガスの開発をめぐって外国の投資企業に門戸を開きつつあるけれど、その関係は「とげとげしい」(prickly)状態にあるのだそうです。石油・ガスのおかげで外貨準備も2000億ドルに上っており、欧米との交流も拒絶しがちな「要塞国家」(fortress Algeria)の様相を呈している。

今回の人質事件が悲劇的な終わり方をした直後にアルジェリアの石油大臣(Youcef Yousfi)が発表した声明は

  • アルジェリアは外国の警備会社が警備員をアルジェリアに送り込むことは許さない。
    Algeria would not allow any foreign security firm into the country to guard its oil installations.


という内容のものだった。自分たちの施設は自分たちで守る、アルジェリア政府による警備のあり方に干渉はさせないということですね。この大臣はまた、いったんはスタッフを引き揚げてしまった外国企業も将来は「必ずアルジェリアに戻ってくると確信している」とも述べたのだそうです。

ずいぶん自信があるように見えるわけですが、このあたりのことについて、アメリカのStratforというThink-tankのサイトに出ていた「ヨーロッパにおけるアルジェリアの天然ガスの戦略的重要性」(Strategic Importance of Algerian Natural Gas)という記事を読んで、少しばかり納得が行ってしまった。

アルジェリアという国は、EU諸国に対する天然ガスの供給国として非常に重要な役割を果たしているのですね。現在のEUにおける天然ガスの年間消費量の10%がアルジェリアからの輸入なのですが、特に英国、フランス、スペインの三国にとっては大切な供給元となっている。その背景にあるのは、これまでEUにガスを供給してきた北海のガス田の生産量が頭打ちになっており、これまで北海における天然ガスの生産国であった英国、オランダ、ノルウェーのうち英国、オランダは10年以内に輸出を停止することになると予想されている。英国はすでに輸入国になっている。

となると頼みの綱はロシア、カタールに次ぐ世界第3位のガス輸出国であるノルウェーです。現在でもヨーロッパにおける天然ガスの年間消費量の全体の19%を賄っている。が、これも2015年あたりから急激に減るとされている。となると将来はアルジェリアがノルウェーにとって代わる天然ガスの供給国となる可能性もあるというわけです。特にフランスの場合、天然ガスの45%をノルウェーとオランダから受け取っているのだから、北海のガス田にとって代わる供給元をアルジェリアに求めているのだそうです。アルジェリアにおける天然ガスの推定埋蔵量は4兆5000億立米、アフリカではナイジェリアに次いで2番目、北海におけるノルウェーのガス田の2倍の埋蔵量なのだそうです。

もちろん国家収入の60%がエネルギー関連の産業から来ているというアルジェリアにとっても石油やガスのようなエネルギーは生命線であるわけですが、現在のところはガス生産国であるアルジェリアの方に力が傾いているようで、そのことが「外国の投資家はいずれは戻ってくる」というアルジェリアの石油大臣の自信に繋がっているようなのであります。

FTのHeba Saleh記者は、人質救出よりもテロリスト排除を重視した(とされる)アルジェリア政府の対応について、アルジェリアでビジネスを行う外国の石油会社の幹部のコメントを次のように紹介しています。

  • アルジェリアの対応はある意味非常に良かったといえると思う。誰にとってもはっきりさせている。(テロリストへの)譲歩は絶対にないというメッセージだ。我々はテロリストを殺す。その際に人質とテロリストを区別することはないということだ。(この姿勢を貫くことで)テロリストは自分たちが絶対に勝てないと悟るようになる。それが石油会社にとって最善の警備であるということだ。
    I think the Algerian response was in some respects very good. It won’t leave anyone in doubt. The message is ‘you won’t get any concessions and we will kill you and not distinguish between terrorists and hostages’. It is the best security an oil company can hope for because terrorists know that they will lose.


 

 






▼Stratforによると、アルジェリアのみならず北アフリカの国々が、EU(特にフランス)にとって重要な存在になっているのだそうです。例えばフランスは原子力発電に必要とされるウラニウムの70%をナイジェリアに頼っているのだそうで、この地域におけるヨーロッパ諸国(特にフランス)のマリのような国における軍事行動の背景には、エネルギー源の確保という切実な背景があるようです。

http://www.musasabijournal.justhpbs.jp/backnumbers-259.html#no4