HOME13 原発 |東電福島原発の「汚染処理水」海洋放出問題で、日弁連の昨年1月の意見書に関心。ALPSが処理できる放射性物質はトリチウム以外すべてではなく「62核種のみ」と指摘(RIEF) |

東電福島原発の「汚染処理水」海洋放出問題で、日弁連の昨年1月の意見書に関心。ALPSが処理できる放射性物質はトリチウム以外すべてではなく「62核種のみ」と指摘(RIEF)

2023-09-04 14:15:33

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  東京電力福島第一発電所の放射性物質汚染を処理した排水の海洋放出をめぐって、中国などの周辺国が強く反発するなどの国際問題にもなる中で、野村農水相が「汚染水」と「処理水」を言い間違えたと陳謝する事態も起きている。放射性物質で汚染された水を処理したのだから、「汚染処理水」と呼ぶのが誤解を避ける一つの方法と思える。では、この「汚染処理水」をどうみえればいいのか。日本弁護士連合会が昨年1月に公表した意見書の分析に関心が集まっている。

 

 日弁連の意見書は「福島第一原子力発電所事故により発生した汚染水等の処理について海洋への放出に反対する意見書」とのタイトル。日弁連は海洋放出問題に反対を示すため、独自に問題点を整理・分析して世に問う形で公表した。

 

 まず、海洋放出した汚染処理水の呼称については、政府が2021年4月13日に汚染水に関する呼称を見直した経緯を説明している。同意見書によると、政府はそれまでALPS(多核種除去装置)等の浄化装置でトリチウム以外の放射性物質を取り除く処理を行った汚染水を「ALPS処理水」と呼んでいた。そのうちトリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満たす水のみを「ALPS処理水」と呼称した。ALPSで処理したものの規制基準を満たしていない水については、東京電力が「処理途上水」と表記していると指摘。

 

 こうした経緯を踏まえ、日弁連では「ALPS処理水」と「処理途上水」を合わせて「処理水」、ALPS処理以前の汚染水と「処理水」を合わせて「汚染水等」と呼ぶ、と位置付けている。

 

東電による福島事故原発の汚染処理水の海洋放出の仕組み(TBSニュースより)
東電による福島事故原発の汚染処理水の海洋放出の仕組み(TBSニュースより)

 

 ただ、日弁連は、国の分類では東電の敷地内のタンクで貯蔵されている「ALPS処理水」に含まれる放射性物質は大半がトリチウムということになるが、「実際はトリチウム以外の放射性物質を完全に取り除くことはできておらず、タンク内の処理水の約7割でトリチウム以外の放射性物質の濃度が環境放出の際の規制基準を超えていること(すなわち処理途上水であること)が明らかになっている」と指摘している。

 

 またALPSの除去性能について「ALPSで除去できる放射性物質は62核種のみであり、汚染水に含まれるすべての放射性物質を取り除けるわけではない。除去可能な62核種についても完全に除去できるものでもない。そのため希釈したとしても、環境中で生体濃縮等による悪影響がないとは言い切れない」としている。

 

 そのうえで、中国を含む各国の通常の原発から海洋放出されているトリチウムを含む水は、「福島第一原発とは異なり、炉心に触れた水ではなく、トリチウム以外の放射性物質は含まれていない。規制基準以下とはいえ、トリチウム以外の放射性物質が完全には除去されていない福島第一原発における処理水は、通常の原発の場合とは根本的に異なる」と指摘。

 

 「 今回、(意見書提出時点で)海洋放出されようとしている処理水に含まれるトリチウム以外の放射性物質の総量は、公表すらされておらず、その安全性には大きな疑問がある。したがって、環境、健康や生物に影響を及ぼす可能性を否定できないことからすれば、予防原則に従い、海洋放出はすべきではない」との立場をとっている。

 

 またトリチウムの安全性についても「国は、自然界や人の体内に存在している放射性物質と比較しても健康への影響は低いとするが、健康に影響がないと証明されているわけではない」として、①生体内に水(トリチウム水)の形で取り込まれたトリチウムは、その一部が同位体である生体内有機成分中の水素と交換し同化・固定される。それらが細胞に取り込まれた場合、食物連鎖の中で濃縮が生じ得る②DNAを構成する水素とトリチウムが置き換わった場合、トリチウムが崩壊するときに放つ放射線によりDNA等が破損する可能性がある――等の点を公表された研究論文を踏まえて指摘している。

 

 日弁連は、ALPS処理水にはこうした懸念が残っていることから、「安全性を評価するためにどの程度の放射性物質が放出されようとしているのかを正しく把握する必要がある」とし、さらにトリチウム及びそれ以外の放射性物質の濃度または総量についての情報を速やかに公表し、「その調査や検証については当事者である東京電力ではなく、独立した第三者が行う仕組みを早急に設けるべきである」と提言している。

https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/opinion/2022/220120_2.pdf?fbclid=IwAR0roDUzhB9iFPAOZOO1u5BT5Os6WSrN-cE_M-qlYByZMOdBusbD9i3MtwU

https://www.tepco.co.jp/decommission/progress/watertreatment/index-j.html