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岸田政権が海洋放出を決定した東電福島原発汚染処理水には、トリチウム以外のストロンチウム90等の高放射性物質を含む処理水が全体の約3割。処理水の敷地外保管の道もあるはず(RIEF)

2023-08-22 16:58:15

kishida002キャプチャ

 

  岸田政権は22日、関係閣僚会議を開き、東京電力福島第一原発の汚染処理水の海洋放出を早ければ24日に放出を始めると決めた。地元福島を中心に漁業関係者の反対が続く中、放出を強行する。ただ、保管中の処理水全体の約3割には、トリチウム以外の放射性物質(ストロンチウム90等を含む)が環境へ放出基準を超えて含まれているが、これらを放出対象とするかどうかは示していない。また海洋放出は、第一原発の敷地の処理タンクの保管限界状態というのが理由とされるが、原子炉等規制法の手続きを踏めば、敷地外での保管確保は不可能ではない。だが、そうした手順を検討した様子はない。「海洋汚染ありき」の政策決定といえ、この国の原子力政策の「杜撰さ」を改めて示す形だ。

 

 東電が公表するALPS処理水の測定結果(今年6月22日)によると、現在敷地内で保管中のALPSでの処理を行った後の処理水全体に占めるトリチウムの含有量は㍑当たり14万㏃(ベクレル)。トリチウム以外の放射性物質の割合は全体(告知濃度)の28%を占める。それらの中には、ストロンチウム90が1㍑当たり0.41Bq、コバルト60同0.35Bq、セシウム137同0.47Bq等が含まれている。含有するトリチウム以外の放射性物質は9種類に達する。

 

 こうした実態を踏まえて、政府の「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」が2020年1月に公表した報告書では「現在タンクに貯蔵されているALPS処理水の約7割は、十分な処理がなされているとは言えず、浄化処理を終えたALPS処理水とは言えない」と指摘している。

 

ALPS処理水に含まれるトリチウム以外の放射性物質の含有状況(東電資料より、2023年6月22日データ)
ALPS処理水に含まれるトリチウム以外の放射性物質の含有状況(東電資料より、2023年6月22日データ)

 

 これは、ALPSの運用が試行錯誤の形で展開されてきた結果といえる。運用開始初期の2013年度は性能向上以前のものだったため、排水基準値を超えるものが相当量含まれている。2013年から2015年末にかけては、敷地境界での追加被ばく線量の引き下げを優先し、吸着剤の交換頻度を下げて運用したことで、処理が不十分な形で保管してきた。https://rief-jp.org/ct13/83226

 

 2017年度以降は、漏えいリスクの高いフランジ型タンクのストロンチウム処理水を溶接型タンクへ貯蔵することを優先して、ここでも吸着剤の交換頻度を下げて運用した。こうした理由から、保管タンクによって処理水に含まれる放射性物質の処理状況は異なる。トリチウム以外に排水基準を超える状態の汚染物質が含まれている割合が全体の約3割に相当するわけだ。

 

敷地内のタンクは過密だが、敷地外に移送する道もあるはずだ
敷地内のタンクは過密だが、敷地外に移送する道もあるはずだ

 

 処理水の海洋放出の場合、これらの保管中の処理水と、新たに処理した水をどう扱うのかの方針は示されていない。保管中の処理水の一部も放出対象とするならば、タンクごとに処理水の汚染状況を確認し、トリチウム以外の汚染物質の含有割合が多い場合は、再度、ALPSでの処理を行う必要がある。内外の海洋放出反対論に対して岸田政権が強調する「丁寧な説明」を行うならば、そうしたALSでの再処理とそのプロセスの透明性を確保するため、地元の漁業関係者や、独立した専門家等を含めた関係者で構成する検証プロセスの設置も必要だろう。

 

 もう一つ残る疑念がある。岸田政権は「海洋放出ありき」で突っ走ってきたが、汚染処理水の保管を東電の敷地以外でもできれば、今回のような問題は生じないはずだ。トリチウムの半減期は12年なので、少なくとも同期間、あるいはその倍近い20年間の保管とすれば、東電の敷地以外で期間限定の形で保管場所を確保することも可能ではないか。

 

 福島第一原発の敷地外に処理水保管施設を建設する場合、原子炉等規制法に基づく放射性廃棄物保管施設の建設に相当するので、同法に基づく事業許可のほか、建設場所が県内ならば福島県と地元自治体の許可が、県外ならば、当該自治体の許可がいずれも必要となる。敷地外への搬出に際しては、法令に準拠した移送設備の設置の他、移送ルートとなる自治体の了解も必要だ。

 

 汚染処理土の中間処理施設周辺で保管施設を建設する方法も選択肢となる。その場合は、現在、同施設の受け入れをしている自治体からの了解と、新たな設備建設の事業許可等が必要となる。いずれも簡単ではないが、福島原発事故問題は国全体で抱え込んだ大きな課題であることを踏まえれば、関係自治体等の理解を得るべく努力することが政権党の責任ではないだろうか。

 

 「海洋放出強行」政策だけが、取り得る政策ではないことを国民、海外にも伝え、現状で取り得る最善の策を選択する手順を取ることが、政府がとるべき民主的な手続きであるはずだ。そうした手順をとらず、漁業関係者との約束を反故にし、「丁寧な説明」等の口先だけの表現で海洋放出に踏み出そうとする岸田政権の姿勢は、「易きにつく」安易な政策判断としか言いようがない。

 

 福島原発事故の処理は国際的な課題でもあり、海外からも多くの関心が寄せられている。そうした中で、「事故を引き起こした当事国」である日本の対応が、成り行き任せで、新たな不信感を生み出していることに、気付かないこの国の政治と行政のありように、居心地の悪さを感じる国民は少なくないのではないか。

                           (藤井良広)

https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/takakusyu/pdf/018_00_01.pdf

https://www.tepco.co.jp/decommission/progress/watertreatment/measurementfacility/

https://www.tepco.co.jp/decommission/data/analysis/pdf_csv/2023/2q/measurement_confirmation_230622-j.pdf

(注:2023年8月25日14時00分に一部を更新しました)