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日本原子力学会 福島事故の最終報告書公表 「事故の直接要因は東電の安全対策先延ばし。背後要因は専門家の災害の理解不足、規制当局の意識不足」(FGW) 明確な安全対策の処方箋なし

2014-03-08 19:25:30

genshiryokugakkaiキャプチャ
genshiryokugakkaiキャプチャ東京電力福島第1原発事故を検証した日本原子力学会の事故調査委員会(通称「学会事故調」、委員長・田中知東京大教授)は8日、事故の原因調査と安全対策の提言をまとめた報告書を公開した。事故の直接要因として東電が貞観地震等の知見に沿った対策を先延ばししたことや、規制当局の認識不足、専門家の理解不足などを指摘した。

 

fukushima9eb0ace7cb87e6c28f0928b2a588efde-300x226報告書では、事故の根本原因を「直接要因」と「背後要因」に分けて抽出。それらの問題を解決するために、4分類50項目の提言をまとめた。

直接要因は①不十分だった津波対策②不十分であった過酷事故対策③不十分であった緊急時対策、事故後対策および種々の緩和・回復策、の3点をあげた。このうち①については、東日本大震災前に津波地震について新しい知見が得られていたのに、東電がそれらに沿った対策を十分に取らなかった、と指摘している。

新しい知見の一つは、貞観三陸沖地震津波について、それを再現する論文が発表され、また福島県沖海溝沿い津波地震について文科省が発生の可能性を示唆していた。このため2008年に東電はそれぞれの津波に対するシミュレーションを行い、福島第一原発においてそれぞれ最高9.2m、15.7mの波高を試算したにもかかわらず、それへの対策を先延ばしした。

設計基準事故を上回る過酷事故対策については、02年までは各電力事業者は自主的なアクシデントマネジメントを実施していたが、それ以降はほとんど見直しが行われず、また地震や津波に対する過酷事故対策は実施してこなかった。米国では01年の9.11テロを教訓とした過酷事故対策を実施したが、日本では同様の対策を全くとらなかった。

事故の背後要因としては、原子力研究者ら学会自らの専門家の問題として、自然災害リスクの理解不足を指摘した。また学会の中立性という点で社会からの信頼が揺らいだことを自己批判している。

事故を引き起こした事業者の東京電力については、「リスクを直視せず、必要な安全対策を先延ばししたと思われても仕方ない」「事業者は安全を優先させるための俯瞰的なマネジメント能力に欠けていたと言わざるを得ない」など、間接的な事業者責任を指摘した。

さらに、当時の規制当局である原子力安全・保安院については「規制当局として意識が不足していたと言わざるを得ない」「安全規制の真価を迅速に行ってこなかった」「緊急対策などのマネジメントが確立されていなかった」などと述べている。

安全対策への提言では、確率論的リスク評価(PRA)を活用してリスクを定量的に評価し、巨大な自然災害などへの耐性を確認することが有効、と指摘するなど、新たなリスクマネジメント体制の導入を提言している。

ただ、そうした新リスクマネジメント導入に伴う原発コスト上昇がどれくらいか、そうしたコスト上昇に見合う原発のベネフィット(発電)をどうみるのか、といった視点は報告書にはみられない。原子力学会だけに、原発存続を前提とした論点の整理が中心となっているだけに、原発が他のエネルギーに比べて、経済的に妥当性があるのかどうかというもっとも求められている論点には踏み込まない内容となっている。

この点は、原子力学会の限界といえる。報告書は「学会事故調」のふれこみだが、実態は我が国の学会全体を代表するような事故調ではなく、原子力学会という特殊分野(原子力ムラの専門家集団)の研究者たちの調査報告という制限的なものといえる。

 

http://www.aesj.or.jp/