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バイデン政権の気候担当責任者に就任した「ジョン・ポデスタ氏」。3代の大統領に仕えた熟達のワシントン官僚。バイデン再選へ、起死回生の根回し力を発揮するか(RIEF)

2024-02-03 22:24:37

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写真は、セミナーで講演するポデスタ氏=ニューヨークタイムズ紙から)

 

 米バイデン政権の気候政策をグローバルベースで引っ張ってきた気候担当大統領特使のジョン・ケリー氏が退任し、後任の気候担当責任者にジョン・ポデスタ氏が就任した。ポデスタ氏はクリントン、オバマ、現在のバイデンと、3代の民主党政権の気候・環境政策の立案に関わってきた熟達の政策マンとして知られる。同氏はバイデン政権の気候政策にとってもキーマンとなるが、その重要性は、11月の大統領選挙で再選を目指すバイデン氏にとって「気候より内政」へのシフトを意味するとの見方ができる。

 

 ポデスタ氏は、シカゴ生まれ。米ノックス大学を経て、ジョージワシントン大学ローセンター修了で法務博士の称号を持つ。一方で、兄のトニー・ポデスタ氏とともに、若いころから政治の世界に関わってきた経歴もきらびやかだ。1968年の大統領選挙で民主党候補の座を争ったユージン・マッカーシー氏の選挙にボランティアで参加したのを皮切りに、70年にはコネチカット州の上院議員選挙に立候補したジョセフ・ダフィー氏の選挙運動で、同じくボランティアで参加したビル・クリントン氏と知己を得た。

 

 その後、兄のトニー氏と政治コンサルタントの「ポデスタグループ」を設立。大企業や外国政府等とも契約を結んでロビイスト活動を展開してきた。長年の政治コンサルで培ったネットワークを評価され、クリントン政権1期目の93~95年にホワイトハウスの首席副補佐官を務め、2期目の98~2001年には大統領首席補佐官を務めた。オバマ政権でも2014~15年に大統領顧問として政権チームで活躍した。2016年の大統領選挙では民主党指名候補のヒラリー・クリントン陣営の選挙対策責任者も務めている。

 

 バイデン政権では、2022年9月から気候変動対策担当の大統領上級顧問を務めている。現在は、バイデン政権の内政上の重要法となったインフレ抑制法(IRA)のクリーンエネルギー税額控除の適用を担当し、総額3700億~7830億㌦の資金配分を一手に引き受ける重責を担っている。

 

 IRAによるクリーンエネルギー事業促進のための税額控除の配分は、各州や企業にとって極めて大きなインセンティブだ。同時に、配分対象を米企業最優先としていることから、再エネ事業等で欧州、アジアの企業から不満が出ている。しかし、諸外国からの批判が高いことは、国内の雇用を重視していることの裏返しと評価され、バイデン政権にとって、内政上の大きなアピール材料となっている。

 

 このIRAによる資金配分が、実際に補助金や税額控除を得る企業等にとって魅力的であることは、バイデン政権の再選にとってもプラスであるのは間違いない。大統領選挙で再び一騎打ちとなるとみられるトランプ前大統領は「(Make America Great Again: 米国を再び偉大な国にする)」をキャッチフレーズに、雇用確保を軸に保守系の票固めを目指している。これに対して、バイデン政権は、IRAでの資金配分という「実弾」の供給で「IRAこそがMAGA」と党派を超えてアピールできるためだ。

 

 現状では、言葉だけにとどまっている「MAGA」に比べ、実際に国の資金が配分されているIRAは、気候対策でもあり、雇用対策でもあり、米企業の競争力向上でもある点で、まさに「実弾」だ。そのIRAの資金配分役を一手に担ってきたポデスタ氏を登用する判断は、同法が想定する本来の「気候対策」を強化する点よりも、より明確に「バイデン再選」の取り組みを強化する点に基づくのではないか。

 

 そう考えると、今回のバイデン政権の気候担当責任者の「交代」は、「バイデン再選」を最優先とする民主党の戦略の一つなのかもしれない。ケリー氏に代えてポデスタ氏を据える判断は、ケリー氏の高齢という理由では説明できない。昨年末に80歳を迎えたケリー氏だが、何しろ、一歳上で81歳のバイデン氏が大統領再選を目指すのだから、ケリー氏が気候特使を続けても何ら不思議ではないはずだった。

 

 ケリー氏の外交手腕に対する評価は高い。だが、所詮、「気候外交」では、大統領選での決定的な票の獲得につながらないとの判断もあったのではないか。大統領再選の可能性が揺らいでいるバイデン政権にとって、ケリー氏よりも、党内政治や、共和党も含めたワシントン政治の舞台裏を知り尽くしているポデスタ氏を、再選に向けた「戦力」として格上げほうが得策と判断したのではないか。

 

 ポデスタ氏は、長年、政治コンサルとして兄とともにワシントンを軸に活動してきた。その表裏両面での行動の一端を伺わせたのが、2016年に起きたウィキリークスによるクリントン政権時代の同氏の膨大な量の個人メールが暴露された事件だ。ロシアの情報当局も関与したハッカーによる仕業とされた。ポデスタ氏がハッカーに狙われた理由は何だったのか。

 

 翌2017年、兄のトニー氏は、2016年の大統領選挙にロシアが関与した疑惑に絡んで、共和党系ロビイストとともに、ウクライナの当時の親ロシア派のヤヌコビッチ大統領のロビー活動に関係したとしてムラー特別検察官の調査を受けている。同嫌疑は最終的に無罪とされたが、ワシントンの表と裏の世界でポデスタ兄弟が演じてきた役割の一部が垣間見えた事件だった。

 

 いくつかの思惑が背後にチラつくポデスタ気候責任者の登用が、起死回生のバイデン再選につながるかどうか。

                           (藤井良広)

https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2024/01/31/statement-from-national-security-advisor-jake-sullivan-on-john-podesta/