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世界の大手保険会社に対し、化石燃料事業の保険引き受け停止を求めNGOがグローバル行動展開。日本では東京海上に照準。東アフリカや米国での化石燃料事業への参加停止を要請(RIEF)

2024-03-04 21:54:49

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写真は、パキスタンのNGOや市民団体による東京海上への抗議行動)

 

  グローバルな環境NGOが連携し、気候変動に影響の大きい石油・ガスなどの化石燃料事業の保険を引き受けている世界の大手保険会社に対して、同事業向けの保険引き受け停止を求める一斉抗議行動を展開した。日本では3損害保険会社のうちで最も大きい東京海上ホールディングスに照準が定められ、東アフリカ原油パイプライン(EACOP)事業や米国での合成メタン製造のキャメロンLNG事業向けの保険引き受けを行わないよう求める行動が行われた。東京海上への抗議は日本以外のアジア諸国でも行われた。

 

 保険会社に対する一斉行動は、化石燃料事業向けに保険引き受けを実施している、世界の大手保険会社30社に対して、環境NGOの国際ネットワーク「Insure Our Future」がグローバル・ウィーク・オブ・アクションとして27以上の国・地域で、2月26日から3月3日にかけ、合計90件以上の行動を展開した。日本では350.org Japan等が参加、東京海上本社前での抗議行動のほか、インドネシア、パキスタン、韓国等でも実施された。

 

東京海上HDの本社前でのNGOの抗議行動(常盤橋タワー)
東京海上HDの本社前でのNGOの抗議行動(東京・大手町常盤橋タワー)

 

 「Insure Our Future」の分析では、脱石炭方針を採用している保険会社は 昨年11月時点で前年の41社から45社に増えた。このうち、石油・ガス事業への保険引き受けに制限を設けている保険会社は14社から18社に増えた。石炭事業の保険引き受けに何らかの制約を実施している元受保険会社は、法人向け損害保険市場の 41.2%を占める(2022 年の 39.8%から増加)。石 油・ガス事業への引き受け対応実施企業は19.6%(前年15.4%から増加)。

 

 再保険市場でも、石炭事業に制限を設ける保険会社の市場割合は 62.7%(2022 年の 58.2%から増加)、石油・ガス事業では46.7%(43.4%から増加)といずれも増えている。中には、石油事業の中流・下流部門だけでなく、上流の開発分野事業にも引き受け制限を設けている保険会社がある一方で、多くの保険会社の場合、こうした引き受け制限の実施は非常に限定的にとどまっている。その事例として、日本のMS&ADは、石炭会社の石油・ガス採掘事業への新たな保険提供は行わないとする一方で、石油・ガス会社による上流事業への保険提供は継続するなど、一貫性を欠く対応だと批判されている。

 

 各保険会社の化石燃料事業の引き受け対応等をスコア化した評価では、独アリアンツが最高点(6.5) で3年連続で首位(4位)となった(1~3位は「総合的なリーダーシップを発揮している保険会社は不在」として空席)。次いでイタリア・ジェネラリ(5.4)、英Aviva(5.1)と続く。日本勢は、Sompo(1.4)で19位、MS&ADと東京海上が同スコア(1.3)の20位だった。

 

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 投資事業では、仏SCORが10.0で首位(4位)。次いで5位にジェネラリ(5.8)、スイス再保険と仏アクサが5.6で同率6位。日本勢は3損保ともスコアは2.2で17位と18位の間で並んだ。日本勢はお互いが突出しないように、同じような対応に終始し、全体の中でも、可でもなく不可でもないポジションを共有している形で、国内で共同保険事業の談合で摘発された体質が、気候対応でも出ているようにみえる。

 

 NGOの報告書では、化石燃料事業向けでの世界最大の保険引き受けの担い手は、英ロイズ保険市場だった。同グループの昨年の保険料収入は推定16億~22億㌦。ロイズに続いて化石燃料事業向けの保険引き受けが多いのは、米ウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイや、エベレスト再保険、スター、W.R.バークレー等となっている。

 

 350.org Japanによると、日本勢の中では東京海上が「化石燃料事業の保険引き受けを制限する方針の策定が、最も遅れている保険会社」とみなされている。東京海上の石炭・石油・ガス等の化石燃料事業の損害保険引受額は、世界第15位の規模で、2022年には推定4億7500万㌦の収益を、これら化石燃料事業からの保険引き受けで得ているとしている。

 

 国内の保険会社で今回、東京海上がNGOの標的になったのは、こうした化石燃料事業の保険引き受け規模の大きさに加えて、気候変動の悪化や、環境破壊、人権侵害等の懸念の高い東アフリカ原油パイプライン(EACOP)事業への保険引受者としての関与が疑われていることも要因になったようだ。NGOらは、同事業に対して、メガバンク3グループは距離をとることを表明したにもかかわらず、東京海上はいまだに関与を否定していない点に懸念を深めている。

 

 EACOPに対する保険引き受けの制限については、チューリッヒ、アクサ、アリアンツ、ミュンヘン再保険等28社が同事業への関与を否定している。さらに、米国ルイジアナ州で事業推進されているキャメロンLNG事業についても、基準値を上回る大量のメタン等の大気汚染物質の排出や、度重なるハリケーンに脆弱な設備、地元漁業者の生計手段の損失等の問題から、NGOらは同事業への保険引受停止を求めているが、東京海上は引受会社となっている。

 

 同事業には日本の三井物産及びジャパン・LNGインベストメント(三菱商事と日本郵船の合弁企業)がそれぞれ16.6%ずつ出資している。同事業は現在、フェーズ2の拡張が計画されており、年間最大生産能力675万㌧のLNG設備1基の増設、現在稼働中の3基の生産能力増強を行う予定。東京海上は引き続き同事業の保険引受や保険契約の更新を行うとみられている。

https://jacses.org/wp_jp/wp-content/uploads/2023/11/4792565e569abff408a4e38978460d86.pdf

※2:https://global.insure-our-future.com/wp-content/uploads/2023/11/IOF-2023-Scorecard.pdf

※3:https://www.stopeacop.net/insurers-checklist

※4:https://www.ran.org/wp-content/uploads/2024/02/RAN_LNG_2024_vF.pdf

https://world.350.org/ja/press-release/20240304/