HOME8.温暖化・気候変動 |COP26 : ネットゼロを主導する金融機関の連合「GFANZ」正式発足。賛同機関の資産総額は約130兆㌦(1京4700兆円)。ネットゼロ達成に必要な100兆㌦ファイナンスに期待。30年までの投融資は32兆㌦で、日本も約90兆円。18の日本勢が賛同(RIEF) |

COP26 : ネットゼロを主導する金融機関の連合「GFANZ」正式発足。賛同機関の資産総額は約130兆㌦(1京4700兆円)。ネットゼロ達成に必要な100兆㌦ファイナンスに期待。30年までの投融資は32兆㌦で、日本も約90兆円。18の日本勢が賛同(RIEF)

2021-11-07 14:31:06

GFANZ006キャプチャ

 

 COP26の場で、金融機関がネットゼロに対応する「グローバルな金融機関の有志連合(Glasgow Financial Alliance for NetZero:GFANZ)」が正式に立ち上がった。銀行、保険、資産運用会社等約450機関が2050年までのネットゼロにコミットした。各機関の資産額は130兆㌦(約1京4700兆円)で、今後30年間にネットゼロ達成のため約100兆㌦規模を投じることが期待される。日本からも3メガバンク等18機関が加わった。2030年までに必要な脱炭素投資額は32兆㌦、このうち日本では8000億㌦(約90兆円)と見込んでいる。

 

   GFANZは、金融各業態の「ネットゼロ銀行連合(NZBA)」、「ネットゼロ・アセットマネジャー(NZAM)イニシアティブ」、「ネットゼロ・アセットオーナー連合(NZAOA)」、「ネットゼロ・保険連合(NZIA)」の4業態団体をまとめる形で、4月に前イングランド銀行総裁のマーク・カーニー氏(上記写真)が設立を表明していた。https://rief-jp.org/ct6/113488

 

 今回、COP26の場で正式に設立を宣言したGFANZには、さらに「パリ条約適合投資イニシアティブ(PAII)」、「ネットゼロ金融サービスプロバイダー連合(NZFPA)」、「ネットゼロ投資コンサルタントイニシアティブ(NAICI)」も加わった。

 

GFANZ003キャプチャ

 

 GFANZのリーダーシップは、カーニー氏とブルムバーグ社長のマイケル・ブルムバーグ氏が共同議長となるほか、米証券取引委員会(SEC)元議長のメアリー・シャピロ氏が副議長に就いた。カーニー、ブルムバーグ、シャピロの3氏は、TCFDをまとめた中心人物だ。いずれもファーストネームのイニシャルが「M」なので、「ネットゼロ・スリーエム・リーダー(NZ3L)」というところだ。加えて、COP26を主催した英国代表の形で元CDPのナイジェル・トッピング氏が「ハイレベル気候行動チャンピオン」として参加した。

 

  賛同金融機関は2050年までに投融資先の温暖化ガス排出量の実質ゼロを目指す。45カ国に及ぶ約450の賛同金融機関は2050年までの今後30年間を通じて、現在の投融資に占める温室効果ガス排出量(Financed Emission)の削減を進める。保有資産総額の7割強の100兆㌦をネットゼロ事業に投融資が期待される。保有資産をグリーン化すれば、ネットゼロ実現となる。

 

電力部門への今後の投融資額の推移
電力部門への今後の投融資額の推移

 

 各金融機関は、「100兆㌦」の脱炭素投融資コミットメントを実現するための具体的行動として、①10年間で50%前後の排出量削減②5年ごとに目標を見直し③計画の進捗と投融資対象からの排出量の年次開示――などに取り組む。

 

 中間地点の30年までに必要な脱炭素ファイナンス額は32兆㌦と試算された。このうちアジア地域は13兆6000億㌦、日本は8000億㌦(約90兆円)、中国は8兆2000億㌦、米国5兆㌦、欧州6兆6000億㌦、インド2兆5000億㌦、アフリカ1兆7000億㌦、中南米1兆5000億㌦、中東1兆2000億㌦等としている。

 

主要国・地域での2030年までの投融資推計額
主要国・地域での2030年までの投融資推計額

 

 分野別では電力部門が再エネ投資等の拡大で半分の16兆㌦を占める。次いで電気自動車等の開発が急がれる輸送部門が5兆4000億㌦、省エネ等で建物投資が5兆2000億㌦、産業部門が2兆2000億㌦、航空機等の低炭素燃料開発に1兆5000億㌦等。

 

 署名した日本勢は、銀行部門で、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループ、野村ホールディングス、三井住友トラストホールディングスの5機関。

 

 資産運用部門は、アセットマネジメントワン、三菱UFJアセットマネジメント、三菱UFJ信託銀行、三菱UFJ国際アセットマネジメント、MUインベストメント、日興アセットマネジメント、ニッセイアセットマネジメント、野村アセットマネジメント、三井住友トラスト・アセットマネジメントの9機関。資産保有機関(保険)部門は、日本生命、第一生命、明治安田生命、住友生命の4生保。

 

 共同議長に就いたカーニー氏は「グローバル金融システムの構造は、ネットゼロを実現する方向に転換されていく。今回の宣言で、気候変動課題を金融の周辺部分から真正面に据える重要な転換を行った。これにより金融機関はすべての金融上の経営判断で気候変動を考慮することになり、100兆㌦の投資資金がクリーンエネルギーの未来に生かされていく」と強調した。

 

 ただ、GFANZの参加機関の投融資状況を分析したレポート(Reclaim Finance)によると、①各金融機関のクライテリアには化石燃料に対する言及がない②参加金融機関は対象とする企業にScope3の削減義務を求めていない③明瞭な削減数値目標の設定がない④削減手段として自らの削減だけでなく、カーボンオフセットの利用を認めている等の「課題」を指摘している。「100兆㌦」の投融資が「口約束」に終わらず、実行されるかどうかは、各金融機関の行動力にかかっている。https://rief-jp.org/ct7/119741?ctid=70

 

 迅速で大胆な気候変動対策の実施を求める若者グループや環境NGOらは、GFANZとカーニー氏自身の取り組みに対しても「言い訳」「詐欺」等の不満と疑問を示している。https://rief-jp.org/ct7/119741?ctid=70

(注)本記事は、2021年11月10日午前10時50分に最新の修正を加えました。