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第7回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑤グリーンボンド賞、NTTファイナンス。円建て、ユーロ建て合計約5000億円発行。日本市場の大型化、国際化をリード(RIEF)

2022-02-15 08:45:33

NTTF001キャプチャ

 

 NTTファイナンスは、2021年に円建て、ユーロ建て合計で約5000億円という日本のグリーンボンド発行体としては最大規模の調達を実施し、国内のESG債市場の拡大と国際化に貢献したことで、第7回サステナブルファイナンス大賞のグリーンボンド賞に選ばれました。同社の取締役財務事業本部グループファイナンス部長の藤原篤氏に、NTTのグリーンファイナンス戦略をお聞きしました。

 

写真は、㊧から財務事業本部グループファイナンス部資金調達部門担当課長の神田亮太氏、藤原氏、資金調達部門担当課長の足立智明氏)

 

――NTTグループは2021年、円建てで3000億円、ユーロ建てで15億ユーロ(約2000億円)のグリーンボンドを相次いで発行され、日本企業のグリーンボンド市場の大型化、国際化に貢献されました。相次いで大型起債をされた背景を教えてください。

 

 藤原氏 : NTTグループは昨年9月に、新たな環境エネルギービジョン「NTT Green Innovation toward 2040」を策定しました。その中でグループの目標として、2030年までにグループ全体の温室効果ガス(GHG)排出量を80%削減(2013年度比)するとともに、2040年にグループ全体でカーボンニュートラルを目指す目標を設定しました。政府が2050年ネットゼロと宣言していますが、NTTグループは10年前倒しを目標としています。

 

 なぜ前倒しかと言いますと、モバイル通信事業のドコモとデータセンターの二つは電気の使用量が大きいという点があります。現在のNTTグループ全体の電力使用量は日本の産業全体の1%に相当します。この電力使用量を削減することが、わが国全体のカーボンニュートラルに大きく貢献するので、NTTグループ全体で積極的に削減に取り組むつもりです。

 

NTTファイナンス藤原篤氏

 

 そうした取り組みの中で資金ニーズも増えていきます。見通せるだけでも、2兆円くらいの資金を投じていくという見込みがあります。そうすると、毎年5000億円ぐらいの調達をしていくということになります。NTTグループとして最初のグリーンボンドは、2020年に出した400億円ですが、これでは金額が足りません。年度平均で5000億円ほどは調達したいと考えていますが、わが国のグリーンボンド市場はまだ発展途上段階です。社債市場そのものも、私どもは2020年に約1兆円の国内社債を発行しましたが、その時点でも実は過去最高の発行額は5000億円だったところを、NTTグループはチャレンジングに1兆円の調達をしたという経緯もあります。

 

 結果として、調達は成功したのですが、NTTグループが目指す事業規模に比べると、日本の社債市場は割と小さいと考えています。その中で、5000億円規模のグリーンボンドを毎年発行する場合、国内市場だけでは難しいので、海外の市場も活用しようということで、昨年12月の社債発行ではユーロの市場でも発行しました。グループの資金需要そのものは円資金なので、ユーロ建てでもドル建てでもスワップで円に戻して活用します。今後もグリーン投資家が多くいる市場、有利なレートで調達できる市場を探していくことになります。

 

――日本のグリーンボンド市場の拡大、国際化を推進する形になりましたね。

 

 藤原氏 : 日本の社債市場、特にグリーンの社債市場でも、現在の国内の投資家に多くご購入いただくのが重要ですが、実際は円建て3000億円の発行額に対して、投資需要自体は9000億円ほど集まりました。それなりにグリーン資金へ投資家の需要があることもわかりました。一方で、外国人投資家にも日本のグリーンボンドを購入していただいてもよいと考えています。株式市場をみると3割くらいは外国人投資家が取引しています。社債市場はそれに比べるとまだ外国人投資家が少ないので、海外の投資家にまずグリーン投資の市場に参加していただきたいと、証券会社にもお願いしています。実際に、今回も海外の数社の投資家にも購入していただきました。

 

 日本の投資家自体がある意味で既に国際化しており、外貨建ての資産をたくさん保有しています。それならば、同じ外貨資産としてNTTファイナンスの外貨建てグリーンボンドを購入いただくのも、ありではないかということで、証券会社に依頼して、昨年12月のユーロ債の募集に際しても、欧州の名だたる投資家に声をかけてもらうと同時に、国内の有力な投資家にもユーロ建てのグリーンボンドへの投資もお願いしました。日本の投資家の投資は既に国際化しているので、発行体もそれに合わせて国際化していくつもりです。日本の社債市場自体を国際化していただきたいと思います。国内の社債市場の規模が大きくなれば、発行体も、もう少し資金調達しやすくなると考えています。

 

NTT004キャプチャ

 


 ――そういう方向に日本の資本市場が展開していくことが、グリーンボンドの発行だけでなく、日本企業全体の資本の効率的な展開につながると思います。発行体がそうした意識で資金調達をすることは、大変、意義があります。内外の投資家に対するアピールでは、どのような点に工夫をしましたか。

 

 藤原氏 : まずは、投資家にとり、わかり易い説明が大事だと思います。グリーンボンドの発行を検討する際に考えたのは、現在、社債市場にはグリーンボンドだけでなく、ソーシャルボンドや、サステナビリティ・リンク・ボンド等、多様なボンド市場が生まれていますが、やはりNTTグループのような規模で、かつそれなりに有利なレートで資金を調達しようとなると、市場がそれなりにこなれていることと、投資家に我々の思いがストレートに伝わるものでないといけないと考えました。そういう意味では、今回の資金調達先のビジネス自体がグリーンだったこともありますが、市場の広がりのあるグリーンボンド市場に絞り込んで、できるだけわかり易く投資家に説明することを心掛けました。

 

――通信事業のグリーン化をアピールされたわけですか。

 

 藤原氏 : NTTグループは現在、スマホや携帯電話を、高速大容量でかつカーボンニュートラルを目指す「グリーン5G(第5世代移動通信システム)」の展開を始めています。5Gなどの通信の本業ビジネスが、グループの取り組みによって環境ビジネスでもあることを、きっちりと投資家に伝えたいという思いが、NTTグループの経営層にも非常に強くありますので、そこを投資家に伝えることに力を注ぎました。ただ、独りよがりで言っていても仕方がないので、そのためのツールとして、光を中心とした革新的技術による高速大容量通信や膨大な計算資源等を提供できるIOWN構想を2030年に向けて進めており、同事業への資金使途も盛り込みました。

 

――投資家からの反応はどうでしたか。

 

 藤原氏 : 世界で最大級の投資家からの反応として、調達資金の全額をIOWN構想に使用してはとのアドバイスももらいました。投資家自体がNTTグループのビジネスに対する強い期待を持たれていることがわかりました。NTTグループがやりたいことをグローバルに訴えることで、目が肥えている欧米の投資家から一定の理解をいただけたのは重要だったと思っています。

 

 最初は、「グリーン5G」と言っても、それが投資家に十分伝わるかという点で、若干、危惧していました。5Gとかデータセンターとかは、ユーザーが増えれば当然、電力消費量は増えていきます。IRでは、4Gと比べて、同じデータ量を加えた時にどれだけ時間がかかるのかといった話をし、電力利用の効率性向上につながることを理解していただきました。

 

 ――「グリーン5G」への理解が得られたわけですね。

 

 藤原氏 : 今後の5Gに使う電力はすべてグリーン電力、つまり再生可能エネルギー発電の電力を使うと決めています。そうなると、5Gの使用が増えれば増えるだけ、NTTグループが使う再エネ電力は増えることになるので、その結果、CO2排出量は減っていくことになります。5Gの利用とCO2排出量が、正の相関関係を持つことになるので、「5Gはグリーン」という説明をし易くなりました。

 

――基本的には、5GやIOWN構想等の新たなビジネスでの使用エネルギーは再エネでやっていくのですか。そうなると資金調達達自体も、ほとんどグリーン資金にシフトしていくということになりますね。

 

NTTF002キャプチャ

 

 藤原氏 : そうです。グリーンボンドでの資金調達で今後、やりたいと考えているのはグローバルにもっと投資家を広げたいということです。今回、円建てとユーロ建てでの発行をしたので、欧州と日本のグリーン投資家との関係はだいぶ構築できたと考えています。ただ、アジアの投資家と、米国の投資家とはまだ話ができていないので、次のステップとしては、アジア、米国の投資家の開拓にも力を入れたいですね。世界中からグリーンマネーを呼び寄せて、NTTグループのグリーンビジネスに振り向けていきたいと思っています。

 

――グリーンボンド以外では、サステナビリティ・リンク・ボンドへの企業の関心も高まっています。企業自体の重要業績指標(KPI)を設定して、企業活動全体に充当する資金を調達できる仕組みです。これらのボンドも調達に加える考えはありますか。

 

 藤原氏 : 市場全体からするとリンク債はプラスだという気はしています。特に「グレー」と言われる業界、たとえば、化学業界とか、燃料業界とかが、事業をグリーンにするための資金を調達するうえでは有効なツールだという気はします。ただ、幸運なことにNTTグループは、ピュアグリーンのビジネスが多くあります。なので、そうした事業にストレートにつなげたボンドのほうが投資家にはわかり易いと思います。特に5Gなどは「逃げも隠れもしないグリーン事業」だと思っています。NTTグループは自分たちのビジネスを投資家にアピールしていきたいので、グリーンボンドのほうがストレートでアピール効果があると思います。

 

――確かに投資家からすれば、資金使途先が明瞭にみえるほうが資金使途の透明性が高まるので、いいと思います。ESGの資金調達としては、ボンド発行以外に、ローンやエクイティ等もあります。この辺はどう考えていますか。

 

  藤原氏 : ありがたいことに、金融機関からは様々な提案があります。銀行からもグリーンなローンに取り組みたいとの話もいただいています。当然、そういうものにも取り組んでいくことになります。一部の大手の投資家からは、グリーン私募債の引き合いもいただいています。私募債の場合、公募債と違って、発行体側にすれば資金ニーズ、投資家にすれば運用ニーズに合った、タイミングと年限等の条件付けを、直接の対話の中で柔軟に設定することができます。公募に比べて、様々なコストの削減効果もあります。そうしたコスト削減効果を投資家とわれわれで分け合えるという経済上のメリットもあります。ですので、こうしたものにも取り組んでいきたいと考えています。

 

――NTTグループは電力事業も手掛けていますね。全国に通信網を持っておられるので、電力市場の競争拡大を促進する役割を期待していますが、こちらはどうですか。

 

 藤原氏 :  10年以上前にエネットという電力卸の会社を設立し電力市場に新規参入した後、現在は、同社を包摂する形で、2019年6月にNTTアノードエナジーという電力会社を設立しました。同社の特徴は再エネ電力にシフトし、全国規模で大手の需要家に自前の再エネ電力を供給する形でやっています。既に、セブンイレブン等の大手の顧客も得ています。

                           (聞き手は 藤井良広)