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日本国内のグリーンボンドの6割は資金使途の「グリーン性」が不明。情報開示も半数が不透明。非営利団体が環境省ガイドライン準拠のグリーンボンドの「ウォッシュ度」を分析(RIEF)

2022-03-11 13:58:40

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  日本で環境省のガイドラインに基づくとして発行されているグリーンボンドの約6割は資金使途の「グリーン性」があいまいで、情報開示の透明性も約5割が不十分、との分析が公表された。一般社団法人鎌倉サステナビリティ研究所(KSI)が実施した。環境省が公表する国内での同ボンドの発行リストを元に、資金使途のグリーン性、情報の信頼性等6項目について、発表ベースと実行ベースのギャップをデータに基づき分析した。

 

 調査は、環境省が公表する「グリーンファイナンスポータル」に掲載されている国内発行のグリーンボンド262銘柄(2021年6月末までの発行分)を対象とした。それらのボンドの情報開示について①資金使途のグリーン性②リファイナンスによる環境インパクトの追加性③ネガティブインパクトの評価と管理④環境改善効果と指標の適切性⑤情報の透明性⑥情報の信頼性――の6項目の開示状況を調べた。

 

日本の国内発行のグリーンボンドの推移
日本の国内発行のグリーンボンドの推移

 

 ①の「資金使途のグリーン性」では、環境省ガイドラインが土台とする国際資本市場協会(ICMA)のグリーンボンド原則(GBP)の分類が限定的なことから、英Climate Bonds Initiative(CBI)のタクソノミーに基づいて評価した。その結果、資金使途のグリーン性が判断できたのは全体の約4割(うち8割は再エネ事業)だけ。全体の半数は開示情報が不足しているため、タクソノミーへの適合性自体を判断できなかったとしている。

 

 ②の調達資金を発行体の既存事業のリファイナンスに充当する場合は、リファイナンス比率の開示が求められる。だが、同比率を明確に開示している発行体は41%。発行後に実際にリファイナンスに充当したかどうかの実績開示はわずか21%。調査では、「リファイナンスによる環境インパクトの追加性を調べる予定だったが、開示情報の不足から同評価は断念した」としている。

 

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 ③はグリーンボンドの対象とする事業・資産を選定・評価する段階でのリスク評価の取り組みについての情報開示。この評価を明確に開示したボンドは23.3%だけ。④の環境改善効果を測るインパクトレポートは、全体の約7割が発行後にホームページで開示していた。だが、発行後のレポート更新がなかったり、対象事業の充当資金に占めるグリーンボンド調達資金比率を記載しないなど、環境改善への寄与度が不透明なものが大多数という。

 

 ⑤の情報の透明性で、グリーンボンドフレームワークをホームページで開示している発行体は全体の53%。⑥の発行前の外部レビューを取得したボンドは全体の8割超。ただ、ホームページで評価結果を開示しているのは5割。発行前に外部レビューを取得したことを、発行後のホームページで確認できない事例が6割以上あったとしている。

 

発行前、発行後での情報開示の違い
発行前、発行後での情報開示の違い

 

 こうした分析結果からKSIでは、日本のグリーンボンド市場の健全な発展のための提言として、①法的根拠のない環境省のガイドラインに代え、「2050年カーボンニュートラル」と整合する政府主導による基準の設定②機関投資家の理解向上による投資基準の明確化と、発行体へのエンゲージメント推進③現行のセカンド・オピニオン業者に代わる第三者モニタリング機能の整備、を求めている。

 

 同団体は、今回の調査の背景として、グローバルにグリーンボンド市場が拡大しており、日本でも 2014 年以来、発行増が続くが、発行されたグリーンボンドが、本当に気候変動や環境問題の解決に資する資金調達となっているのか、パリ協定の目標に適合しているのかをチェックする機能があいまいだと指摘。そうした課題を浮き彫りにするために実施したと説明している。調査結果については、外部からの意見を求め(3月31日まで)、最終報告に反映させるとしている。

 

 今回の分析では、これらの国内グリーンボンド発行体の95%以上が、ICMAのGBPと、環境省公表のグリーンボンドガイドラインを参照しているため、課題の克服には、これらのガイドラインの強化が有効とする一方で、「法的拘束力のないガイドラインを強化するだけでは各課題の十分な改善は期待できない」とも指摘した。

 

 そのうえで、政府主導によるグリーン性を判断するために必要な基準の設定と発行体による情報の開示を支援、促進する仕組みの構築を求めている。前者は、EUの法律に基づくグリーンボンド基準(GBS)の設定を想定しているとみられる。後者は、同じく金融機関が自らグリーン性を評価することを義務化するEUのSFDRのようなルール順守の仕組みの導入につながるといえる。

 

 今回の分析は、国内のグリーンボンド市場の課題を情報開示を中心に総括的に分析した点で高く評価される。ただ、環境省がグリーンボンド、金融庁がソーシャルボンド、経済産業省がトランジションボンドを、といった形で行政の所管に基づきガイドラインも役割分担している「日本的な事情」の是非や、官庁がボンド発行に補助金を付与することの妥当性とその効果、セカンドオピニオンを付与する外部評価機関の評価内容の信頼性等にまでは、踏み込んでいない。次の分析に期待したい。

KSI+日本におけるグリーンボンドの開示分析と提言_ドラフト版.pdf (squarespace.com)

 

鎌倉サステナビリティ研究所 (kamakurasustainability.com)