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金融庁、有価証券報告書等に気候・サステナビリティ情報開示の記載欄新設の改正案。Scope1+2は任意開示、同3は開示対象外。ISSBの基準案からかなりの後退(RIEF)

2022-11-10 23:18:32

FSAキャプチャ

 金融庁は有価証券報告書等に、サステナビリティ情報の記載欄を新設する内閣府令の改正案を公開した。国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が年内にまとめる基準案で盛り込んだ4項目を踏襲する形だが、金融庁案では、そのうち必須記載事項は「ガバナンス」と「リスク管理」にとどめ、「戦略」と「指標及び目標」は企業の開示負担に配慮して、企業の重要性判断にゆだねる任意記載とする。記載した将来情報と実際の結果が異なる場合、企業が直ちに虚偽記載の責任を負わなくてもいい「セーフハーバールール」も盛り込む。温室効果ガス(GHG)排出量では、Scope1+2は任意開示にとどめ、Scope3は開示対象に含めない。

 記載対象は気候変動関連に加え、人的資本や女性管理職比率等も含める。ISSBは気候・サステナビリティ情報開示案を、年末までにまとめる予定で、金融庁は同ISSB案との整合性を計ったとしている。だが、同庁案は、サステナビリティ情報開示の基本となる4項目の開示でISSB案より後退しているほか、Scope3開示でも、同開示を求めるISSB案に追い付いていない。https://rief-jp.org/ct4/123899

 金融庁はこれらの改正案に対するパブリックコメントを12月7日まで受け付ける。そのうえで、有価証券報告書及び有価証券届出書の記載事項を改める「企業内容等の開示に関する内閣府令」を改正、2023年3月31日以後に終了する事業年度から適用する方針。

 改正案は金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループが6月にまとめた報告を土台としている。主な内容は、まず、有価証券報告書等に新たに「サステナビリティに関する考え方及び取り組み」とする記載欄を新設する点だが、問題はそこに記載する内容だ。改正案では、サステナビリティ全般についての「ガバナンス」「リスク管理」での取り組みの開示は必須記載事項とするが、「戦略」「指標及び目標」は重要性に応じて、企業判断での任意記載とすると切り分けた。https://rief-jp.org/ct4/125803?ctid=71

 任意記載に分類される「指標及び目標」でのGHG排出量の開示については、「各企業の業態や経営環境等を踏まえた重要性の判断を前提として、Scope1、同2については(任意開示だが)積極的な開示が期待される」とし説明している。だが、Scope3については何ら言及がない。改正案では、Scope1+2の開示も「開示は期待」でしかなく、必須記載ではない点で、ISSBやSECの基準と明瞭に異なる。

 これらの対応は企業の「開示負担」に配慮するという建前だ。さらに「配慮」するのが、これらサステナビリティ関連の記載欄での将来情報の扱いだ。気候変動の場合のシナリオ分析等が相当する。

 金融庁案では将来情報を記述する場合、当該の将来情報に関する経営者の認識や、前提となる事実や仮定について合理的な記載がされる場合、さらに将来情報について社内で適切な検討を経たこと等が、検討された事実や仮定等とともに記載されている場合は、記載した将来情報と実際の結果が異なる場合でも、企業は直ちに虚偽記載の責任を負うものではない、としている。

 これは米国証券取引委員会(SEC)が採用する「セーフハーバールール」の考えを取り入れる形だ。ただ、SECの気候情報開示での同ルールの採用は、Scope3の取り扱いをめぐってのものであり、金融庁の「SECルールの借用」は、Scope3は対象外としたうえで、サステナビリティ情報全般に、同ルールを適用させて、企業の虚偽記載責任を回避させることを目指す点で、SECルールとは似ても似つかぬ「濫用」のようにも映る。https://rief-jp.org/ct4/123569

 サステナビリティ情報や取締役会等の活動状況の記載でも、企業の開示責任を薄める配慮が色濃く盛り込まれている。たとえば、これらの活動状況に関する詳細な情報については任意開示書類を参照できるとしたうえで、それらの任意開示書類の参照自体が有価証券報告書の重要な虚偽記載等になり得る場合を除けば、単に任意開示書類の虚偽をもって直ちに虚偽記載等の責任を問われるものではない、としている。

 こうした金融庁の配慮は、よほど日本企業のサステナビリティ情報開示を「信用していない」ことの裏返しなのかもしれない。ただ、グローバルベースラインとしてのISSBの気候・サステナビリティ基準が間もなく確定しようとするほぼ同時期の段階で、金融庁が、ISSB基準案よりも、数歩遅れた国内開示基準案を世に問うのは、日本はISSBを「グローバルベースライン」として認めていないことをアピールするようにも受け止められかねない。

 

 サステナビリティの記載欄には、気候変動以外でも、人的資本、多様性に関する開示も盛り込まれる。人材の多様性の確保を含む企業の人材育成方針や社内環境整備の方針、及び当該方針に関する指標の内容等は必須記載事項とし、サステナビリティ情報の「記載欄」の「戦略」と「指標及び目標」において記載を求めるとしている。気候情報の扱いと異なる分類だ。
 女性活躍推進法等に基づく「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」を公表している会社及びその連結子会社は、これらの指標を有価証券報告書等でも記載が必要になる。ただ、「指標及び目標」での実績値には、これらの指標の記載はしなくてもいいとしている。
 金融庁もこうした内容の開示方針では、ISSBとの違いがあまりにも明瞭なため、国際的な批判を受けることを恐れたのか、「サステナビリティ情報の開示における考え方及び望ましい開示に向けた取組み(記述情報の開示に関する原則)」とする考えを同時に公表している。
 そこでは、任意開示とする「戦略」と「指標及び目標」の扱いについて、「各企業が重要性を判断した上で記載しないこととした場合でも、当該判断やその根拠の開示が期待される」と役所としての「期待」を示したうえで、気候変動対応が重要である場合、4項目を並列させた枠で開示することとすべきとの「期待」を示した。ただ、GHG排出量については、重要性の判断を前提としつつ、Scope1、2の排出量は「積極的な開示が期待される」との表現にとどめている。