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英Climate Bonds Initiative(CBI)。日本のGX政策の分析報告書。GXが依存する技術・燃料は「1.5℃目標」と整合しないと懸念表明。「政府によるグリーンウォッシュ」の批判も(RIEF)

2023-10-02 14:32:19

CBIJapanキャプチャ

 

  英Climate Bonds Initiative(CBI)は2日、日本政府のネットゼロに向けたトランジションファイナンス政策の分析報告書を公表した。政府が掲げる「グリーン・トランスフォーメーション(GX)」について、官民連携で再エネ投資やエネルギー効率化等を推進することを評価する一方で、「GXのいくつかの要素はさらなる検証が必要」と指摘。GXによる温室効果ガス高排出燃料や同技術への依存が「1.5℃」のグローバル目標と一致しない点への懸念を示した。こうした課題を解決しないと、日本政府が目指す「移行ラベル」の信頼性は毀損し、「グリーンウォッシング」の批判を受けかねないと警告している。

 

 報告書は「Japan: Policies to Grow Credible Transition Finance(日本:信頼できるトランジションファイナンスを高めるための政策)」と題している。日本政府のGX政策については、欧米を中心として、掲げる目標と、その成果についてのギャップを懸念する声が少なくない。https://rief-jp.org/blog/138898?ctid=33

 

 CBIは一応、GX政策を政府として掲げた点に評価を示したうえで、同政策に盛り込まれている「高炭素集約産業やその技術が、世界が目指す『1.5℃目標』と一致しない点」に懸念を示した。「グリーンへの『急速なトランスフォーメーション(転換)』の実現は、(高炭素集約型の)産業、企業の取り組みにかかっている。それらの企業は科学ベースで首尾一貫し、透明な自社の移行計画を開発する必要がある」と述べている。

 

CBIlogo

 

 政府のGX政策に寄りかかる形で、市場が評価できるような自社の移行計画を立案できていない日本の高炭素集約企業の現状に疑問の目を向けているわけだ。政府のGX政策についても、「基本的な要素を強化する必要がある」と指摘した。GX政策のエネルギー移行要素については、第六次エネルギー基本計画に基づいており、そのうち石炭火力発電への水素・アンモニアの混焼について、主に2つの点で疑問があるとした。

 

 第一は水素・アンモニアが「低炭素であることを保証する基準」に関わる点だ。日本政府の水素戦略の基準では、水素製造によるライフサイクルベース(well-to-gate)のCO2排出量を3.4kg-CO2/kg-H2と設定している。これは国際的な基準に比べると緩いと指摘している。たとえば、CBIが気候ボンド原則で示すのは1.5kg-CO2/kg-H2で、日本基準は、同基準の倍以上「緩い」。

 

 また水素とアンモニアを製造するための発電に化石燃料を使用する日本の想定だと、化石燃料を直接使用する場合よりも排出量が増えるうえに、 水素やアンモニア製造は、非常にエネルギー集約的で、製造と流通の各段階でエネルギーロスが発生する点を指摘。アンモニア燃焼で発生する窒素酸化物(NOx)の温室効果はCO2の310倍も強力で、適切な管理・処置が必要となる点等に懸念を示している。

 

 水素の場合も、再エネを使用する「グリーン水素」は低炭素だが、その場合でも、水素自体は強力な間接的温室効果ガスであり、CO2の最大8倍の温暖化ポテンシャルを持つ。加えて、 水素の輸送と流通過程での漏洩の測定と管理、制御が不可欠で安全性の確保のコストアップが生じる点をあげている。

 

 もう一つは「実装のタイミング(時間軸)」だ。日本は2030年の46%削減の中間目標を公約しているが、日本の水素基本戦略の低炭素水素基準は2030年以降にしか適用されない。したがって、GXが掲げる「低炭素水素」とアンモニアを気候変動目標の達成に必要な期間内に広く普及できるかどうかには、大きな不確実性が残る、と疑問を投げかけている。

 

 さらに日本の計画は、2030年代初頭までに50%以上のアンモニア混焼の商用運転、2050 年までにアンモニア専焼とするが、国際エネルギー機関(IEA)は、日本を含む先進国の電力部門は2035年までの完全な脱炭素化が必要と明言している。それを踏まえると、日本のGXは「1.5℃への整合には野心度が不十分、と言わざるを得ない」と指摘。「日本は早急に排出量を削減する必要があるにも関わらず、非効率な化石燃料ベースの生産に焦点を当てることは、『座礁投資化』と排出量の先行的な上昇を引き起こす懸念が生じる」と警告している。

 

 一方で、「トランジション機会」として、再エネのコストが既存の燃料ミックスに匹敵することも示している。2020年から2035年まで、少なくとも年間10GWの再エネが導入され続けると、2035年には平均卸電力コストは6%削減されるとし、「炭素の社会的費用が含まれる場合を含めると、2020年比で36%の削減に達する」として電力の再エネ化が費用対効果でも効率的であるとしている。

 

 財務省が20兆円の「GX移行債」を発行するトランジションファイナンスについては、「その成功には、ネット・ゼロ整合性の観点から世界的に投資家の信頼を確保することが不可欠」と条件を付した。GX債の資金使途先のセクターは、鉄鋼、化学、電力、ガス、石油、紙パルプ、セメントであり、経済産業省がそのロードマップを示しているが、「(ロードマップには)定量的な排出削減経路が示されていない点等、その堅牢性については課題がある」としている。

 

 報告書はこうしたGX政策の諸課題を列挙したうえで、「GX計画を実現するためには、民間部門による行動が不可欠」として7つの提言を示している。

 ①確立された技術の優先

 ②完全な排出削減対策が講じられていない石炭火力発電廃止の年限の設定

 ③ガス関連投資の適格性を厳格に制限

 ④低炭素水素・アンモニアの基準強化

 ⑤適切な炭素価格の確保

 ⑥企業によるトランジション計画の 策定・開示の推進・強化

 ⑦大胆かつ厳格な1.5℃整合ソブリンGX債発行により投資家の信頼を構築

 

 このうち②では、IEAが「ネット・ゼロを達成するためには、すべての先進国において2035年までに電力部門の脱炭素化が達成されなければならない」との指摘を紹介している。⑤では、「国際通貨基金(IMF)が推奨する75米㌦/㌧を下限とする早期かつ強制力のある炭素価格設定と、無償排出枠の撤廃に関する明確な期限が必要」としている。

 https://www.climatebonds.net/resources/reports/japan-policies-grow-credible-transition-finance

https://www.climatebonds.net/files/reports/japantransitionpaper_japanese_final.pdf

https://www.climatebonds.net/files/reports/japantransitionpaper_english_final.pdf

 

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