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自動車メーカーのサプライチェーンを含む脱炭素や人権対応の総合評価。首位は米フォード。2位に独メルセデス、3位テスラ。トヨタ等の日本勢は低迷。国際NGOネットワークが分析(RIEF)

2024-02-28 19:53:35

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 自動車メーカーのサプライチェーンでの温室効果ガス(GHG)排出量や人権取り組みを、独自の手法で評価する国際的なNGOのネットワークが、世界の大手18社を対象に2024年版の評価ランキング(スコアボード)を公表した。①化石燃料を使用しない環境に配慮した持続可能なサプライチェーンの構築②サプライチェーン全体を通じて人権を尊重した責任ある調達の確立ーーの2分野での取り組みを評価した。その結果、両分野の総合評価で米フォードが前年の独メルセデスに代わって首位に就いた。2位はメルセデス、3位にテスラが前年の9位から急上昇した。全体的に米メーカーの改善が目立ち、日本企業のトヨタ、ホンダ、日産は低位にとどまった。

 

 評価ランキングを公表したのは「リード・ザ・チャージ」。昨年に続いて、主要自動車メーカー18社のサプライチェーンにおけるGHG排出量、環境への悪影響、人権侵害を減らす取り組み等をついて評価を行った。

 

 評価項目は、①の「化石燃料のない環境に配慮した持続可能なサプライチェーン」については、(a)化石資源を使用せず、環境に配慮した持続可能な鉄鋼(b)脱化石・環境的に持続可能なアルミニウム(c)化石資源に依存しない、環境的に持続可能な電池(d)気候に関するロビー活動(e)人権と責任ある調達の5項目を、②の「人権と責任ある調達」では(f)人権の尊重(全般)(g)移行鉱物の責任ある調達(h)先住民の権利の尊重と自由意思に基づく事前かつ十分な情報に基づく同意(i)労働者の権利の尊重、とした。

 

「Lead the Change」の2024年版レポートから
「Lead the Change」の2024年版レポートから

 

 対象とした大手自動車メーカーは米3社(フォード、GM、テスラ)、欧州6社(BMW、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン、ステランティス、ボルボ、ルノー)、日本3社(トヨタ、ホンダ、日産)、中国4社(広州汽車、吉利汽車、上海汽車、BYD)、韓国2社(現代自動車、起亜自動車)の合計18社。

 

 その結果、米フォードは①の分野では29%と全体の3位だったが、②で54%と初の50%超えを果たし、総合42%で、前年の2位から、トップの評価を受けた。同社は自動車メーカーの中でも最高水準の「責任ある鉱物」の方針とデュー・ディリジェンスのプロセスを 有し、広範囲に及ぶバッテリーサプライチェーンのマッピングを行っており、サプライヤー専用 のグリーバンスメカニズム(苦情処理メカニズム)も備えているほか、労働者の権利の面で最高スコアを獲得した。ただ、先住民族の権利に関して進展がなく、2023年評価では容他社に比べてかなり低い7%にとどまるなど、改善点も少なくないと評価されている。

 

 総合2位のメルセデスは、フォードに首位を明け渡したが、①と②の両分野とも高いスコアでバランスがとれていることが強みだ。特に化石燃料を使用しない環境に配慮したアルミニウムに関してはスコアが18%も上昇した。3位は、電気自動車(EV)専業のテスラ。総合スコアが21%上昇と18社中最高の改善度どなり、ランクは前回の9位から3位に大幅に躍進した。同社は自社の鋼材、アルミニウム、バッテリーのサプライチェーンについて、製品ごと のスコープ3排出量を、主要メーカーとして初めて開示するなど、脱炭素化ではリーダー格の開示を推進している。

 

2024年のボードスコアランキング
2024年のリーダーボード・スコアランキング

 

 日本の3メーカーは最高ランクの日産自動車でも、総合スコアで全体の半分以下の11位。ホンダ14位、トヨタ15位と低迷している。日産は、購入した物品・サービスのスコープ3排出量を開示し、自社製品のライフサイクル全体でカーボンニュートラルを達成する2050年目標を設定しているほか、人権でも一定の目標とコミットメントを掲げているが、「その実現に向けた具体的な 行動は、ほとんど示していない」と評価された。

 

 ホンダは、自社サプライチェーンからのスコープ3排出量を適切に開示しておらず、同サプライチェー ンの排出量について科学的根拠に基づく排出削減目標も設定していない「数少ない自動車メーカー」と評されている。また①の鋼材、アルミニウム、バッテリーのサプライチェーンの脱炭素化に向けた取り組みを一 切開示しておらず、これら3区分でのスコアはすべて0%だった。

 

 トヨタはスコープ3のサプライチェーン排出量を開示しているほか、ライフサイクル全体の排出量削減に向 けた2050年目標を設定している。一方で、①の鋼材とアルミニウムの全指標でのスコアは0%、バッテリーのサプライチェーン指標はわずか4%と、サプライチェーンからの排出量とその他の環境影響について「全く削減が進んでいない」と指摘された。同社の総販売台数に占めるバッテリー式電気自動車(BEV)の割合は引き続き1%にとどまっている点も指摘されている。

 

 日本の3メーカーのうち、特にトヨタとホンダは①の鋼材、アルミ等の国内サプライチェーンの脱炭素化が進展していないことが、低迷の要因といえる。自動車メーカーに鋼板を提供する国内の日本製鉄、JFE、神戸製鋼などの鉄鋼大手は、脱炭素化手段としてすでに実用化されている電炉への転換よりも、技術的に課題が大きく、実現に時間のかかる高炉での水素還元法への切り替えを目指している。

 

 自動車メーカーにとってのサプライチェーンとなる鉄鋼業等のこうした脱炭素化の遅れが、自動車メーカー自体の脱炭素化やEV転換の遅れにつながる構造となっており、自動車メーカーのグローバル市場での競争力の低下を招いているとの見方もできる。その鉄鋼業の水素利用の技術開発では、日本勢よりも、欧州スウェーデンで複数の鉄鋼メーカーが、同国のボルボや独自動車メーカー等との連携で一歩リードしている。https://rief-jp.org/ct4/142197?ctid=

                          (藤井良広)

https://leadthecharge.org/resources/2024-report-leading-the-charge/

https://leadthecharge.org/ja/resources/2024-report-leading-the-charge/

https://leadthecharge.org/ja/scorecards-summary/