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経産省の原発廃炉基準変更方針が浮き彫りにする電力会社会計の“虚偽記載”可能性と、日本株への不信感増幅のリスク(FGW)

2013-06-03 13:53:19

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fukusimaminnPN2012022001001141_-_-_CI0002経済産業省が原子力発電所の廃炉に関する会計基準の改定を目指すという。原発の廃炉を前倒し処理する場合、巨額の損失が出て、電力会社の経営に影響が出るとの理由からという。だが、この言い分は、現行の電力会社の財務諸表での将来廃炉費用の計上自体が”過小“で、有価証券報告書虚偽記載の疑いさえあることを浮き彫りにする。

現行の会計基準では、2010年度決算分から原発廃炉の費用は、資産除去債務の一つとして開示することになっている。それまでは日本独自の引当金処理として、原子力発電施設解体引当金が計上されていた。同引当金と資産除去債務の主な違いは、資産除去債務は将来債務を一定のキャッシュフロー(除去に伴う費用の増額分=キャッシュアウトフロー)を推計して、現在価値に割り引いて負債計上すると同時に、資産も同額計上して、会計上中立にしたうえで、将来負債分を減価償却していく点にある。

これに対して、旧引当金方式は、負債額を原発の発電電力量に基づいて推計し、財務諸表には将来負債の総額ではなく、当該年度の引き当て分だけを開示する仕組みだった。これだと、発電電力量の推計次第で、負債額が変わるほか、将来負債の総額が外部にはわからない問題があった。こうしたこともあり、政府は、国際的な会計基準との収斂(コンバージェンス)の一環として、資産除去債務としての開示に統一することとした。

実は、わが国に資産除去債務を導入する際、最大の焦点となったのが電力会社の原発の扱いだった。それまで引当金方式で計上してきた負債額を変更すると、原発の発電計画全体に影響が及んでしまう。このため、当時の企業会計基準機構の審議過程では、電力の扱いについて再三議論が交わされた。その結果、電力にも資産除去債務を適用するが、原発の将来債務の推計については、それまでの発電電力方式の総額とほぼ同額扱いとするとの妥協がかわされたとみられる。

実際、多くの電力会社の2010年度会計とそれ以前との引当金方式の毎年の負担額の積み上げ推計分と、資産除去債務総額とはほとんど変わっていない。しかし、今回、経産省が現行のままだと廃炉費用が急増するとして、分割処理の方針を打ち出したことは、現在、資産除去債務として計上している廃炉費用総額自体が、計上不足であることを、経産省自体が図らずも認めた風に聞こえる。

本来は、引当金方式から資産除去債務に切り替えた際、総額の推計の方式が変わったのだから、将来負債の総額についても資産除去債務の立場で見直すべきだった。ところが、各電力会社の財務を審査する監査法人は、評価手法だけ引当金から資産除去債務に変更したことを認めながら、費用分担の前提となる総額の推計については、そろって異議を唱えなかった。

国際会計基準機構(IASB)の引当金基準では、資産除去債務の開示額が当初の推計後に、金利等の経済条件等の変化があって見直しの必要が出てきた場合は、条件を見直すべしとの規定になっている。この規定に沿うと、仮に原子力規制委員会のさばきによって、40年以内に廃炉を選択しなければならない原発が出た場合、その当該原発についての廃炉費用の推計総額を見直し、過不足を新たな操業期間に応じて減価償却費を調整すれば済む話である。会計基準全体を日本だけ変更する必要はない。

そうではなく、すべての原発の会計基準を変更しなければならないという選択肢は、経産省自体がすべての原発の再稼働を断念する立場に立つ場合に浮上する可能性はある。その場合でも、国際的な整合性が求められる会計ルールを変更する必要はなく、早期廃炉によって経営に影響が生じる可能性のある電力会社には国が補助金等を交付して負担の増額分を抑制する政策の選択肢のほうが望ましい。なぜならば、廃炉の選択、再稼働の選択とも、国のエネルギー政策に基づく要素が大きく、かつ、電力会社が原発を過剰に建設した背景には、経産省の積年の原発偏重のエネルギー政策の失敗が大きいからである。

 

政策と経営の失敗のツケを、安易に会計基準を変更して、投資家に回す姿勢が“国策”として採用されると、日本の企業会計に対する国際的な信頼は大きく毀損される可能性がある。報道されているような廃炉コストの分割処理というような「日本的仕組み」は、一見、電力会社にとって緩和策のように映るが、実態は、日本の電力各社は、特殊な会計処理をしないと企業価値を維持できない企業ということを国がお墨付きを与えることにもなり、国際的な機関投資家などの疑念を高め、ひいては不安定を内在する日本株の売り材料の一因にもなりかねない。

 経産省は6月中にも会計士や学者らによる検討会を立ち上げ、年内をメドに結論を得る方針だという。旧来の引当金方式は元々、十分な廃炉費用を盛り込まず、経産省と電力会社が、原発コストを低くするために積み上げた”虚構の計算“だった可能性が強い。本来は、そうした実態を反映しない会計基準を改正し、投資家に正しい資産と負債を開示するのが資産除去債務へのルール変更の趣旨であり、国際的な会計標準化の趣旨であることを忘れてはならない(FGW)。