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「2017年サステナブルファイナンス大賞」受賞企業インタビュー⑨サステナリティクス・ジャパン。「国内グリーンボンド市場でのセカンドオピニオンの普及」(RIEF)

2018-05-22 17:48:33

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 ESG評価事業等で活躍するサステナリティクス・ジャパンは、日本で発行される多くのグリーンボンドにセカンドオピニオンを提供し、市場の発展に貢献したことで、2017年サステナブルファイナンス大賞の特別賞に選ばれました。同社のアジア・パシフィックリサーチのリードアナリストの竹林正人氏らに話を聞きました。

 

――2016年に東京市場に進出されましたが、アジアで東京を選んだ理由は?

 

竹林氏: 主な理由として、日本におけるESG市場の拡大が挙げられます。サステイナリティクスのビジネスの柱は、主に機関投資家向けのESGリサーチ・サービスです。その面からみると、日本市場は、中国等の他のアジア市場に比べて、ESG投資の動きが特に近年活発化しており、われわれのビジネスにとってそれは非常に大きな動機となりました。金融庁主導のスチュワードシップコードやコーポレートガバナンスコードなどにより市場環境の整備もあり、弊社のESG関連ビジネスによって市場の成長に貢献できる場と判断し、日本市場を選びました。

 

 以前はシンガポールに拠点を置いていたのですが、アジア太平洋地域の投資家によりきめ細やかな支援を提供するため、2015年にシドニーオフィス、2016年に東京オフィスを設立しました。それに伴い、シンガポールのスタッフ数名も東京に移し、17年になって本格的に日本での活動を展開し始めました。

 

 一方、グリーンボンド市場に関しては、当時の日本は黎明期という状況であり、いずれ市場が成長してくると期待しておりました。2015年末に三井住友銀行がメガバンクで最初のグリーンボンドを出し、翌年には、三菱UFJフィナンシャルグループと東京都が続きました。これらの動きも契機となり、発行体と投資家における関心が飛躍的に高まった結果、セカンドオピニオン・プロバイダーとしての弊社としても、より活動しやすくなりました。

 

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――2016年10月の日本進出から1年半ですが、この間、日本で発行されたほとんどのグリーンボンドに対するセカンドオピニオン提供を行いましたね。これまでのところ、独占状態にもみえますが、手応えはどうですか。

 

 竹林氏:一番最初に弊社が日本市場でグリーンボンド関連の業務を提供したのは、日本政策投資銀行が2015年に初めて発行したグリーンボンドでした。この時は、まだ東京には日本法人はなかったのですが、シンガポールとトロントのオフィスが協力してセカンドオピニオンを発行したという経緯があります。日本で早期の段階でのグリーンボンドの発行に弊社が関与したということも、日本市場に本格進出するうえでの要因になったと思います。

 

――サステナリティクスが、日本のセカンドオピニオン市場で強いのはなぜでしょうか。

 

 竹林氏:一つは、すでにわれわれは海外で様々な事業タイプ、業種のご発行体様に向けてセカンドオピニオンを提供していたことがあるかと思います。その結果、欧州・北米の機関投資家における弊社の認知度を評価して頂き、日本における各発行体からの引き合いにつながったのではないかと思います。

 

 弊社は特に日本市場で強いという認識はありませんが、日本でのグリーンボンド普及に向けては、発行体、セカンドオピニオン・プロバイダー、引き受け業者といった関連機関における共通理解の醸成と密接な連携が大事なるかと思いますので、引き続き弊社の経験を共有させていただければと思います。

 

――日本のグリーンボンド市場の特徴というか、日本ならでは、という点はありますか。

 

 竹林氏:今まで10件弱のプロジェクトを支援させていただきましたが、今のところ、海外市場と異なる日本市場固有の特徴というものは特に見当たりません。ただ、弊社が支援した日本の発行体によるグリーンボンドでは、再生可能エネルギー関連プロジェクトを資金使途とするものが多いです。また日本の発行体の関係者は、グリーンボンド市場のグローバルなトレンドや、欧州系の投資家のニーズなどに特に関心を持たれる傾向が強く、市場の成熟度の差異も原因の一つだと思いますが、そこも他の国の発行市場の感度とは微妙に違う感じもします。

 

――まだ他の市場の動きを気にしているということですね。

 

 竹林氏:その通りです。

 

――日本の投資家はどうですか。日本でも生命保険会社などが熱心にグリーンボンドを買っているようですね。

 

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 竹林氏:日本では、当初、個人投資家によるグリーンボンドへの関心の高さが特徴的でしたが、近年は生命保険会社がESG投資枠で購入されているケースが多いようです。年金基金などもグリーンボンドを買っているという話も聞きます。ただ、基本は生保が投資されていると思います。

 

 ――投資家層が保険会社中心というのは、欧州の投資家層と比べて違いますか。欧州は年金が中心のようにみえますが

 

 竹林氏:そうですね。生保か年金かの違いというよりも、グリーンボンドに関心を有する長期投資家の多様化が進展している、とみるのが妥当かもしれません。日本では、まだグリーンボンドに投資をする側のほうも成長段階にあり、今後さらに、投資家層が拡大する期待はあります。

 

 ――日本市場での業務展開で苦労したことはありますか

 

 水田和歌子氏(サステナブル・ファイナンス・ソリューションンズ、アオソシエイト):特に苦労というのはありません。ただ、グリーンボンドの発行が初めてという発行体が多いので、理解醸成のお手伝いを丁寧にさせていただく必要があります。たとえば市場基準であるグリーンボンド原則(GBP)が求めるものと、発行体の考えの間に相違があるというケースは多々ありますし、われわれはそうした中で単なる評価者を超えた支援させていいただいていますが、そのあたりのきめ細やかなサービスが求められる点も、日本市場の現在の特徴といえるかもしれません。

 

 ――日本ではグリーンボンドの対象となるグリーンプロジェクトが欧米に比べて限られているとの指摘があります。今のグリーンボンドの多くは、再生可能エネルギープロジェクトが中心ですが、再エネプロジェクトも日本市場ではこれからそんなに出てくるとは思えません。DBJでも最初はグリーンボンドを出したが、対象プロジェクトを確保しづらいことから、ソーシャルにも広げて、サステナビリティボンドに切り替えたと説明しています。日本市場でのグリーンプロジェクト不足をどうみていますか。

 

 竹林氏:今のところはまだプロジェクト開発の余地はあると思います。ただ、潜在的なグリーンプロジェクトの需要自体は少なくないものの、その資金を債券発行で調達すべきかどうかという事業運営者側の戦略的判断の問題もあります。対象プロジェクトの拡大においては、グリーンボンドによる資金調達のメリットについても、発行体側の理解を深めていく必要があるのではないでしょうか。

 

サステナブルファイナンス大賞の特別賞を受賞するサステナリティクス・ジャパン代表のジェームス・ホリラック氏(左)
サステナブルファイナンス大賞の特別賞を受賞するサステナリティクス・ジャパン代表のジェームス・ホリラック氏(左)

 

――欧州連合(EU)や国際標準化機構(ISO)でグリーンボンドの基準化の動きが出ています。基準が義務化されるとセカンドオピニオンも義務化されるとみられます。そうなるとセカンドオピニオン業者にとってはプラスだと思いますが、逆に、他の企業の参入も増えて競争も激しくなりそうです。

 

 竹林氏: 基準化による比較可能性の担保と、成長のための市場の開放とのバランスが必要になってくると思います。例えば、環境評価の情報開示が義務化された場合、新規の発行体にとってのハードルが高くなるケースもあるかもしれませんが、これはボンドの比較分析・投資意思決定を行う機関投資家の側からは非常に重要な点です。他方、新しい発行体の参入を阻害せず、新しい分野のグリーンボンドプロジェクトを創出していくためには開放的な市場形成を念頭においた基準であることも期待したいと思います。

 

 新たな規制や共通基準の導入が噂される中、それらを基に市場への情報提供を行う我々セカンドオピニオン・プロバイダーの役割はますます重要になると考えられます。われわれサステイナリティクスはた発行体と市場の仲介役として、グローバルな基準とローカルな現実のギャップを埋めるような支援を今後もしていきたいと思います。

                                      (聞き手は 藤井良広)

 (今回で2017年サステナブルファイナンス大賞の受賞企業インタビューは終了します)