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米連銀のパウエル議長、気候変動による金融・経済への影響について、「短期的影響を注視、長期的には金融監督への影響少ない」との視点強調。トランプ政権への配慮か(RIEF)

2019-07-18 00:14:36

 

   米連邦準備理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は上院で証言し、気候変動問題が金融市場に及ぼす影響について、自然災害による(経済社会への)影響を注視する一方で、「気候リスクは長期的なもので、日々の銀行監督に影響を与えるとは思わない」と述べた。欧州の中央銀行等で気候リスクを金融監督上、重視する見方が増えていることと、一線を画した形だ。

 

 パウエル議長の証言は、11日に上院の銀行委員会で、ハワイ州選出のBrian Schatz議員の質問に答える形で行われた。

 

 同議長は、気候変動に対するFedの主な関心として、2012年10月に米東海岸を襲い、ニューヨークのマンハッタンを一時的に機能不全に陥れたハリケーンサンディのような事例をあげた。世界の金融市場の中核であるニューヨーク市場での資金循環に影響を与えるようなケースだ。

 

上院銀行委員会で質問するAA議員㊨と、答えるパウエル議長㊧
上院銀行委員会で質問するSchatz議員㊨と、答えるパウエル議長㊧

 

 議長は、気候変動による異常気象の影響が金融システムに影響を与えるリスクの高まりを注視していることを示した。そのうえで「われわれは金融機関に対して、気候変動に対する備えや対策をチェックしている。特に異常気象の影響にさらされている地域の金融機関に対しては特にそうだ」とリスク管理としての対応を求める姿勢を示した。

 

 ただ、Schatz議員が、英イングランド銀行が最近、気候変動リスクの評価を金融機関に対する日常の監督業務に取り入れる、とした点について意見を聞かれるとトーンは変わった。

 

 議長は「気候変動は長期の課題と考えている。金融機関の日常の監督業務にそれ(気候変動リスク)を組み込むことは、あまり意味がないと思う。金融監督については(気候リスクだけでなく)多くのことを考慮している」と述べた。短期的な関心と長期的な視点との使い分けは、パリ協定離脱を選択したトランプ大統領への配慮によるとの見方もある。

 

 実は FRBの中でも、たとえば、サンフランシスコ連銀は今年3月公表のレポートで、経済に影響を及ぼす3つの要因として、気候変動と高齢化社会、新技術を指摘、それらが金融政策にも影響を及ぼす、と指摘している。https://www.frbsf.org/economic-research/publications/economic-letter/2019/march/climate-change-and-federal-reserve/

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 議長が短期的な異常気象による経済・金融市場への影響を懸念する一方で、気候変動を長期的課題として、日々の金融監督には大きな影響を与えないと語った点についても、同レポートは分析している。

 レポートは、「(気候変動は)長期的な要因としても、金融政策に影響する。中央銀行は、気候変動よりも長期的要因といえる人口動態や、労働参加率等についても政策判断において考慮している。さらに、株や長期的な金融資産の価格は、将来予想される経済状況に左右される。したがって数10年後の気候変動リスクも、直近の金融的活動に影響を与える」と分析。気候リスクは金融システムの安定に脅威となり得る、と明確に指摘してしている。

 ただ、FRBは、英イングランド銀行をはじめ、欧州の中央銀行と銀行監督当局が中心となって、金融システム安定の視点からグリーンファイナンスに取り組む「Central Banks and Supervisors Network for Greening the Financial System (NGFS)」に参加していない。NGFSには、日本の金融庁も参加している。これも、政権への配慮かもしれない。

 

 https://www.c-span.org/video/?c4807029/sen-schatz-questions-chair-powell&start=31