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「コロナウイルスへの警戒と同様の懸念を大気汚染にも向けるべき」。大気汚染による早死は世界で年間880万人。日本含む東アジアが最悪。独研究チーム論文(RIEF)

2020-03-04 22:20:06

air1キャプチャ

 

 新型コロナウイルス肺炎への懸念が世界中に広がっているが、大気汚染による早死は年間880万人にも上り、コロナウイルスよりも「公衆衛生上のリスクが高い」との報告が公表された。ドイツの研究者らが世界全体の大気汚染と早死の関係を分析した。喫煙やマラリア、後天性免疫不全症候群(AIDS、エイズ)などよりも、大気汚染リスクは高く、研究者らは「大気汚染パンデミックが発生している」と指摘している。

 

 (は、大気汚染による年間の余命損失率。色の濃い地域が損失が高い)

 

 論文はドイツのMax Planck Instituteのヨス・レリフェルト(Jos Lelieveld)氏らの執筆による「Loss of life expectancy from air pollution compared to other risk factors:a worldwide perspective」と出したもの。3日付の欧州心臓病学会(ESC)誌「心臓血管研究(Cardiovascular Research)」に掲載された。

 

主要地域ごとの過剰死亡と損失寿命
主要地域ごとの過剰死亡とy余命損失の比較

 

 論文は、大気汚染の指標としてPM2.5とオゾン汚染の指標を2015年以降、世界全体でカウントした大気汚染モデルと、Global Exposure Mortality Model (GEM)を活用して、2015年以降の特定の病因による過剰死亡と平均余命の損失(LLE)を推計した。それらを、野火や風によるダストなどの自然要因と、化石燃料を含む人類活動による汚染物質の排出等に分けて効果を計測した。

 

 その結果、大気汚染による世界全体での過剰死亡は年間880万人(711万~1041万人)、平均余命損失(LLE)2.9年(2.3~3.5年)と計算された。いずれもこれまでの推計より高く、タバコの喫煙による過剰死亡、平均余命損失を上回った。

 

 

待機汚染による寿命損失の地域比較
大気汚染による余命損失の地域比較

 

 グローバルな平均死亡率は年間10万人当たりで120人。地域別では、東アジアが最も多く年間196人、次いで欧州の133人、南アジア119人、最も少ないのは南米の42人。東アジアは何米の4.7倍も死亡者数が多いことになる。平均余命損失も東アジアが3.9年で最も多く、 最も少ないのはオーストラリアの0.9年。国別の平均余命損失年数は中国で4.1年、インド3.9年、パキスタン3.8年。

 

 化石燃料排出が無い場合は、グローバルな平均寿命は1.1年(0.9~1.2年)増え、化石燃料だけでなく、すべての人類起源の潜在的排出物を除去すると同1.7年(1.4~2.0年)増えるという。

 

喫煙による寿命損失の地域比較
喫煙による余命損失の地域比較

 

 これらの大気汚染による早死による年間死者数を、他の原因と比較した場合、マラリアの19倍、後天性免疫不全症候群(AIDS、エイズ)およびエイズウイルス(HIV)感染の9倍、アルコールの3倍に上るという。論文の執筆者の一人、トマス・ムンツェル(Thomas Munzel)氏は「われわれの研究結果は、『大気汚染パンデミック』が発生していることを示している」と述べている。

 

HIV感染による余命損失の地域比較
HIV感染による余命損失の地域比較

 

 さらに同氏は「大気汚染も喫煙も予防可能だが、過去数十年間、特に心臓専門医の間では、大気汚染よりも喫煙に払われる注意の方がはるかに大きかった」と指摘している。実際は、大気汚染の濃度は、石油や天然ガス、石炭の燃焼で放出される分子と肺を詰まらせる粒子の有毒な混合物を除去すれば、平均余命を丸1年取り戻すことが可能。

 

 化石燃料焼却による地球温暖化の影響への理解は広がているが、大気汚染物質が直接、人間の健康に被害を及ぼしている事態についての警鐘や、個人それぞれの心構えは、意外なほど希薄なようだ。

 

 論文の主執筆者であるヨス・レリフェルト氏は、「大気汚染は喫煙よりも大きな公衆衛生上、大きなリスクであることは間違いない」と指摘。「そのリスクの大部分は、化石燃料をクリーンな再生可能エネルギーに置き換えることで回避し得る」と強調している。

 

 多くの人々が、現在、新型コロナウイルスの脅威に払っている注意や警戒を、大気汚染物質にも向けることができれば、世界全体で年間500万人の早死を回避できる計算だ。さらに、その副次的効果で、温暖化の危機も遠ざけることが可能になる。「大気汚染パンデミック」は抑制が可能であり、かつ抑制しなければならない課題なのだ。

 

https://academic.oup.com/cardiovascres/advance-article/doi/10.1093/cvr/cvaa025/5770885