経産省「インフラ海外展開懇談会」、石炭火力発電、原発もアジア太平洋地域へのインフラ輸出増強策に位置付け。OECD輸出コミットメントの改定には消極的(RIEF)
2020-05-25 22:54:14
経済産業省は途上国向けにインフラシステム輸出を推進する「インフラ海外展開懇談会」の中間取りまとめを公表した。再生可能エネルギー関連の輸出増強に加えて、石炭火力発電事業や原子力発電についても「輸出促進対象」と位置付けた。特にアジア・太平洋地域では2040年でも化石燃料の発電のシェアは5割を占めるとして、化石燃料発電を電力安定供給を支える重要な電源とし、インフラ輸出の主要事業に据えている。
(写真は、日本の「インフラ輸出」の象徴となっているベトナムのブンアン2石炭火力発電に隣接する同1発電所)
政府は、官民連携のインフラシステム輸出を支援する「経協インフラ戦略会議」の下で、30兆円の受注目標を掲げた「次期インフラシステム輸出戦略骨子」を、6月に策定する方向で作業を進めている。この中で、海外向け石炭火力発電への公的支援の見直しが論点となっている。経産省「懇談会」報告は従来通り、石炭火力発電への公的ファイナンスの継続を目指している。
懇談会の委員は、岡俊子:岡&カンパニー代表取締役、小野田聡:JERA代表取締役社長、工藤禎子:三井住友銀行専務執行役員、竹内純子:国際環境経済研究所理事、豊田正和:一般財団法人日本エネルギー経済研究所理事長(座長)、山地憲治:公益財団法人地球環境産業技術研究機構副理事長・研究所長の6人で構成した。
報告は、日本企業を取り巻く市場環境や地球規模課題等の社会情勢を踏まえ、「インフラシステム輸出を今後一層推進していくことが重要」と位置付けている。そのうえで、エネルギー市場の拡大・多様化、デジタル化の展開や、世界市場拡大の7割がアジア太平洋地域に集中すること、また新型コロナウイルス感染拡大によって、電力安定供給の必要性が高まっているなどを指摘。
電源別にみると、エネルギー転換・脱炭素化の流れによって、世界全体で再エネ発電シフトが進むと見通している。アジア太平洋地域でも、再エネ発電の割合は現在の8%から2040年には29%へと大幅に拡大するとした。一方で、特に新興国では人口増等により急拡大するエネルギー需要を満たすには、再エネ発電だけでは対応しきれず、「化石燃料発電等の多様な電源を活用することが必要」としている。
国際エネルギー機関(IEA)の見通しを引用する形で、化石燃料発電の割合は相対的に減少するも、アジア太平洋地域では2040年でも依然電源の5割を占めるとし、化石燃料発電を電力安定供給の電源として活用する必要性を強調している。
電源種別コストでは、再エネ発電は今後も大幅低下傾向にあるが、再エネの場合、系統側のコスト等も勘案する必要があるとした。そのうえで、石炭を域内で産出するASEAN諸国の場合、当面は、石炭火力発電がコスト競争力を有する、とした。
また、天然ガスは相対的に国際政治情勢に左右されにくく、温室効果ガスの排出も少ない。石炭は可採年数が長く、世界各地にバランス良く存在し国際政治情勢に左右されにくい、と「長所」のみを列記している。一方で、再エネについては、「エネルギー転換・脱炭素化に向けて欠かせな いが、その賦存量には地域的な偏りが見られる」と課題をあげている。
ESG投資の観点から、石炭火力発電への投融資を絞る動きが顕在化している点を認めつつ、最近、日本のメガバンクが整備した新規石炭火力事業への原則融資停止方針についても言及。「原則、実行しないとしているが、それぞれ条件を列挙しつつ、高効率技術や新技術などは個別に検討するとしている」とし、共通して個別対応で投融資を継続できる、との評価を示している。
石炭火力発電の海外輸出については、OECD輸出信用アレンジメントの改定の議論が進んでいる。この点については「近年は、技術やファイナンス も含めた輸出能力がある新興国も台頭してきている。これらの新興国が国際ファイナンスルールに沿うように慫慂していくことが重要」とした。日本を含むOECD諸国だけを対象とした現行のアレンジメントを、中国等を含む形に拡大しない限り、ルールの厳格化は意味がないとの立場を示した。
こうした指摘をしたうえで、「日本が目指すべき対応の方向性」として、化石燃料事業分野では、まず、天然ガスについて、①ガス火力発電は調整電源として堅調な需要がありバリューチェーン全体を通じたインフラ整備も含め日本の技術に強み②大型ガスタービンの高効率の領域等で、日本が世界に貢献できる余地が大きい③LNG の受入設備と発電プラントの設計・調達・建設から O&M までをパッケージで提供する「Gas to power」による高付加価値化を目指すことが重要④アジアで需要が増大するLNGバリューチェーン構築は日本がノウハウを蓄積し、競争力を有するーーと強みをあげている。
石炭火力発電事業では、新興国で底堅い需要が引き続き存在する、とした。中国企業等の技術力の向上も目覚ましいが、日本企業の長期的品質の確保や充実したアフターサービス等に対する評価が高く、「引き続き日本への期待は大きい」と高く評価している。CO2 排出量が多いという課題についても、「仮に日本が支援をやめたとしても、OECD ルールに縛られないファイナンスを伴う他国による非効率な石炭火力発電輸出が見込まれ、CO2排出量の削減につながらないとの指摘がある」との論法で、「止めなくてもいい理由」としている。
そのうえで、相手国との十分な対話を図り、エネルギー転換・脱炭素化に向けた相手国の政策形成に建設的に関与しながら、石炭をエネルギー源として選択せざるを得ないような国に限り支援を行う(メガバンクの例外としての個別検討と同じ論法)、としている。主な石炭火力輸出対象として、①石炭火力発電の一層の高効率化②石炭ガス化複合発電(IGCC)③バイオマス混焼、アンモニア混焼等④再エネ大量導入に伴う系統安定のため石炭火力発電を調整電源として活用--等をあげている。
既設火力発電等のプラントについても、モノのインターネット(IoT)を活用して火力発電の運転及び保守管理(O&M)分野の効率化を進めるとともに、火力発電に加え再エネ発電や送配電事業等の分野でもO&Mビジネスを獲得することが重要、とした。そのため、O&Mの国際標準の普及等を目指すとしている。
原子力発電事業については、「世界において、エネルギー安全保障、気候変動対策の観点から、原発建設計画を進めている国は数多くある。それらの国々からは、東京電力福島第一原子力発電所事故後も、事故の教訓も踏まえた日本の原子力技術の安全性に対する期待の声が寄せられている」として、「日本はこうした各国の期待に応えていくことが重要」と指摘している。
原子力利用先進国では、小型モジュール炉(SMR)等の革新的な技術開発が進められている点を触れ、「日本もこうした世界の開発競争を踏まえ、引き続き、既存の軽水炉の安全性・信頼性・効率性の向上に加えて、多様な社会的要請の高まりも見据えた原子力関連技術のイノベーションを促進することが重要」と述べている。SMRのインフラ輸出競争に加わりたいとの考えを示した。
https://www.meti.go.jp/press/2020/05/20200521001/20200521001-1.pdf
https://www.meti.go.jp/press/2020/05/20200521001/20200521001-2.pdf