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政府の「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」開催。脱炭素推進に10年間で官民資金150兆円。民間資金を呼び込むため「GX国債」20兆円発行を目指す。課題は償還財源(RIEF)

2022-07-28 18:23:09

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 政府は27日、脱炭素による経済成長を目指すとするGX(グリーントランスフォーメーション)の実行会議を開催した。今後10年間で再エネ促進のためのグリーンファイナンスや原発再稼働促進等を軸とした脱炭素政策に官民で150兆円の資金を投じる。民間資金を誘導するために新たにGX経済移行国債(仮称)を20兆円分、発行するとし、法改正を行う方針。岸田文雄首相は「GXは、単なる化石エネルギーからの脱却にとどまるものではなく、2050年炭素中立の目標達成に向けて、経済社会の大変革を実行するもの」と強調した。

 

 政府は同日、官邸で、第一回GX実行会議を開催した。新設するGX推進担当相に萩生田光一経済産業相の就任を発表した。岸田首相はロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー価格の上昇等を指摘、「まず、足元の危機の克服が最優先。この危機の克服なくして2030年、2050年に向けたGXの実行はあり得ない」と指摘し、現下のエネルギー対策をGXに向けた10年ロードマップの第一段階と位置付けた。

 

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 GX戦略については、8月中に工程表を公表する。その柱は、①GX経済移行債の創設②規制・支援一体型投資促進策③企業間で自主的に排出量を売買するGXリーグの段階的発展・活用④グリーンファナンス等の新たな金融手法の活用⑤アジア・ゼロエミッション共同体構想などの国際展開戦略――の5つの政策イニシアティブになる。

 

 このうち最大の政策イニシアティブとなるのが、GX移行経済債の発行だ。150兆円超とはじく官民の投資を先導するために、国が率先する形でGX分野への投資資金を調達するとしている。同国債については①「成長志向型カーボンプライシング構想」を具体化し、最大限活用する②将来の財源の裏付けをもった国債とする③複数年にわたり予見可能な形の脱炭素実現に向けた民間長期投資を支援する、としている。

 

 同国債の資金使途については脱炭素化を進めるため、既存の石炭火力発電所の燃料転換やCCS設備投資、鉄鋼等の高炭素排出企業の脱炭素技術開発等が想定される。しかし、膨大な財政赤字を抱える中での新規国債発行となることから、特定産業の事業維持の補助金とならないか、支援事業がうまく進まず国債の償還に支障が生じないか等の移行事業リスクと、財政リスクの両方への対応が求められる。

 

 そこで財務省等では、通常の国債とは別に、東日本大震災で発行した復興債のような「つなぎ国債」として、資金使途財源を別途確保する案がでているという。償還財源候補としては、現行の再生可能エネルギー発電推進のための固定価格買取制度(FIT)での賦課金等のほか、新たに炭素税や排出量取引の入札収入等が想定される。

 

 このうち、FIT財源は電力の再エネ事業に絞ったもので、鉄鋼製造の脱炭素化や電動車のインフラ事業等にまで使途を広げると、賦課金を負担する企業や国民の理解が得られない可能性がある。経産省が示すGXの資金使途には、デジタル社会への対応として、半導体製造拠点、データセンターの整備等も盛り込んでいる。FIT法を改正したとしても、電力料金でこれらの事業への資金を賄うことは無理が生じる。

 

 炭素税の導入は財務省が重視していると思われる。償還財源としては、税がもっとも「確実」だからだ。だが、経団連等は反対姿勢を示している。また経済成長や消費が低迷し続けている中で、企業・個人に課税する場合、GXによる投融資機会を得られる企業、事業等と、負担が増える事業・個人とのミスマッチをどう防ぐかが課題となる。

 

 排出量取引制度については、EU等が実施する法的義務のある排出権取引制度(ETS)の場合は、国が企業に排出枠を売却することで入札収入が見込める。だが、経産省等が提案しているGXリーグでは、民間の自主的な排出量の取引を前提としており、国に売却収入は生じない。同制度の義務化には経団連が反対姿勢を維持している。

 

 岸田首相は「GXの実行は、新しい資本主義実現のための最重要の柱の一つ。政府が呼び水を用意し、官民の投資を集めることで、中長期の脱炭素の課題を、わが国の成長エンジンへと転換し、持続可能な経済を作っていきたい」と述べた。だが、合理的で持続可能な財源を確保できない限り、GXの具体化は容易ではないだろう。

https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202207/27gx.html

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/dai1/siryou4.pdf