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政府主導の「グリーン・トランスフォーメーション(GX)移行債」の償還財源とされる炭素賦課金制度、実際は石油石炭税の付け替えに過ぎない可能性、石油業界トップが示唆(RIEF)

2022-12-21 12:17:56

kitouキャプチャ

 

 石油元売りや電力・ガス会社等の化石燃料輸入企業に対して、経済産業省が主導して、「グリーン・トランスフォーメーション(GX)経済移行債」の財源として炭素賦課金の導入を提案している点で、石油連盟の木藤俊一会長(出光興産社長)は「今後、石油石炭税が需要の減少とともに減り、その部分を充当する枠組み。金額として大きな負担にならない」と述べていることがわかった。石油石炭税の減額と炭素賦課金の新設が相殺されるとの見解で、そうだとすれば、炭素賦課金を課せられる企業には、特段のCO2排出削減インセンティブも生じないことになる。

 

 (写真は、石油連盟会長として発言する木藤俊一出光興産社長=日本経済新聞から)

 

 日本経済新聞によると、石油連盟の木藤会長は19日の定例記者会見で、こう発言したとされる。同紙によると、同氏は政府が炭素賦課金を、まず化石燃料の輸入事業者に負担を求める案を検討している点についても、「できればCO2を排出する全ての企業が応分に負担するのがいい」と話した。https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC192IP0Z11C22A2000000/

 

 同氏が指摘した石油石炭税との相殺論だと、賦課金制度が導入されても、これまで原油、石炭、天然ガス等の輸入に際して課税されてきた石油石炭税の負担が減ることで、化石燃料の輸入企業にとっては重い負担にならない。現在の石油石炭税は内国消費税だが、課税の大半は化石燃料等の輸入品となっている。

 

 税収額は、2021年が6355億円で前年より4.6%増えている。だが、これは2020年は新型コロナウイルス拡大の初年で、経済活動が大きく低迷した影響が反映したものといえる。同税の税収がピークだった2016年と比べると、21年の税収額は9.4%減と1割近く縮小している。

 

 経産省は炭素賦課金を2028年ごろにまず、化石燃料輸入企業に導入し、低い負担額から始め、徐々に負荷金額を引き上げる方針としている。この方針を踏まえ、今後5年後に、これまでの税額のピーク時からの減少率と同ペースでの減少が続くと仮定すると、28年の石油石炭税は、5780億円前後と6000億円を切る水準にまで下がる。税収ピーク時からの減額分は1200億円強となる。

 

 経産省がアピールする炭素賦課金の当初の「低い負担額」が、これと同水準だと、石油石炭税を納税してきた化石燃料輸入企業にとっては、賦課金は新規負担にはならないことになる。負担にならないということは、化石燃料業界にとって、温室効果ガスを一段と削減するインセンティブにならず、実質的なCO2削減効果はあまり期待できない。

 

 財務省は、GX経済移行国債の発行条件として、同国債の償還財源として確保することを求めている。しかし、その財源が石油石炭税の減収で相殺されるのならば、償還財源として適正かどうか疑わしくなる。単なる税目の付け替えにつぎないとみえるからだ。

 

 さらに石油石炭税と相殺する形の賦課金収入だけでは、20年間で20兆円の発行を目指すGX移行債の償還財源には不足だ。償還財源は年間1兆円程度の歳入が必要とされることから、経産省も電力会社を対象とした排出量取引制度の導入を2030年代に始め、電力会社への排出枠売却収入を財源に追加する考えのようだ。

 

 電力会社への負担上乗せは、電力料金へ転換されるので、電力消費者への課税とほぼ同じ意味になる。さらに、電力会社が再エネ転換を進めれば、排出枠収入は減額されてしまうので、財源確保安定を優先すると、電力各社の再エネ転換を抑制する政策インセンティブが働きかねない。安定した償還財源としては疑問が生じる。

 

 さらに木藤氏は、経産省が賦課金をまず化石燃料輸入企業に課す考えを示している点についても「できればCO2を排出する全ての企業が応分に負担するのがいい」として、輸入企業先行の政策を牽制した。この点も論議を呼びそうだ。日本に限らず、温室効果ガス排出量の多い「炭素集約型産業・企業」からの排出量をこそ、大幅削減の対象にすることで、効率的な排出削減が期待できるはずだ。

 

 自社からの排出量が相対的に少ない小売・サービス産業や金融業等を含めて、全産業に「ネットゼロ」公約の達成を求めても、CO2排出量の多い、化石燃料発電や、鉄鋼、セメント、化学等の炭素集約型産業の排出削減策が大きく前進しないと、経済全体での有効な排出削減は実現できない。

 

 「赤信号、みんなで渡れば怖くない」ではダメなのである。「赤信号の企業は撤退」「黄信号の企業は転換準備か撤退準備かの選択」、そして「青信号企業を選び抜く」必要がある。税目の実質付け替えでしかない炭素賦課金や再エネ転換を遅らせか寝ない財源に依存するGX経済移行債ならば、国債累積をさらに積み上げるだけの「リスク・ゲーム」になりかねない。

 

 GXは「グリーン・トランスフォーメーション」の略とされるが、市場から「ガバメント✕(バツ=ダメという意味)」と、読まれないようにしてもらいたい。

                           (藤井良広)

 

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC192IP0Z11C22A2000000/