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経済産業省が原発政策のアピールで、海外の原発政策の紹介に際して「同省に都合のいい情報」だけを選別。国民に対する情報操作の可能性。民間シンクタンクが指摘(RIEF)

2023-04-05 00:47:38

METIキャプチャ

 

   経済産業省が自らの原発政策のアピールのため、ウェブサイトでの欧州の原発事情の紹介記事で「都合のいい情報」だけを選別、との批判が出ている。同省資源エネルギー庁がネット上で発信した記事だ。自然エネルギー財団が「原発に有利な情報だけを選んでおり、必然的にバイアスがかかった内容。本来は(政府は)国民に対して、欧州の最新の状況をバランスよく伝えるべき」としている。欧州では原発をめぐり賛否が分かれるが、経産省の情報は、賛成国の情報に偏るだけでなく、賛成国が抱える課題と対応にも一切言及していない。

 

 問題となっているのは、経産省資源エネルギー庁のサイトで掲載された「エネルギー危機の時代、原子力発電をどうする?」と題した記事(2023年3月20日付)。執筆者の個人名はなく、同庁電気・ガス事業部原子力政策課が「問い合わせ先」となっている。エネルギー危機の時代、原子力発電をどうする?|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁 (meti.go.jp)

 

 同記事は「世界は今、エネルギー費用の高騰、資源量の低減と獲得競争など、これまでにないエネルギー危機におびやかされている。『エネルギー安全保障』の問題が各国で浮上する中、ふたたび注目が集まっているのが、原発」と前置きしている。そのうえで「世界各国の原発の今」として、欧州の英、仏、独、ベルギーの4カ国の原発状況を紹介し「安全保障の観点」「脱炭素」の二つの観点から原発の有利さを強調する内容だ。

 

 この記事に対して、自然エネルギー財団上級研究員のロマン・ジスラー氏は「日本政府が伝えない、欧州原発の現実」との記事を同財団のウェブサイトに掲載した(4月4日付)。その中で「記載されている欧州の原発に関しては正確でない情報を含んでいる」と指摘した。

 

 たとえば、経産省の記事は、原発大国のフランスについて、①2022年2月、マクロン大統領が原発低減目標を撤回し、2050年までに6基の欧州加圧水型炉(EPR)の建設、8基のEPR2(EPR改良版)建設の検討を表明②エネルギー危機の勃発後、エネルギー安全保障を確保する観点から、原子力産業への政府の出資比率を高め、関与の強化を決めたーーと紹介している。

 

 これに対してジスラー氏は「フランスが今、最も優先して取り組んでいるのは、既設の老朽原子炉に生じている問題点の解決であり、1基だけ建設中の原子炉Flamanville-3を稼働させること」と指摘。またフランスの原発は平均稼働期間が約38年を経過、安全性の強化と運転期間延長のための大改修を実施中で、原発発電量が大幅に減っていることや、複数の原発が不具合で一時停止する事態が起きていることに言及。経産省の記事がこれらの点に一切触れていないことの「恣意性」を浮き彫りにしている。

 

 同氏は同記事の中で、フランスは2022年に、1980年以降初めて、原発の電力不足から電力の輸入国になり、その大半を脱原発を進めるドイツから輸入するという皮肉な現実になっている点を紹介している。フランスでは現在、日本と同様に、原発の運転期間の延長法案が審議されている。だが課題は単純な期間延長よりも、脆弱なサプライチェーンの強化と投資の確保にあると分析している。日本の老朽原発の稼働延長に伴うわが国のサプライチェーンは大丈夫なのだろうか。

 

 経産省の記事はドイツについても、ロシアからのガス供給の途絶などによりエネルギー事情が厳しさを増したため、脱原発の予定を延期した点を紹介している。それは事実だが、記事の掲載時点ですでにドイツ政府が、原発稼働の延長をしない方針を明らかにしていたにもかかわらず、経産省の記事は、その点は紹介していない。ドイツは4月15日での稼働延長の停止(脱原発の完了)を決定している。https://rief-jp.org/ct13/133626  https://rief-jp.org/ct13/134192

 

 ジスラー氏は「注目すべきは、ドイツでは原発のフェーズアウトに成功しただけではなく、火力発電も大幅に削減した。特に石炭火力を2010年から2022年の間に80TWh(30%)削減した。代わりに陸上・洋上風力と太陽光を拡大した」と指摘。経産省が自分たちが掲げる「原発・火力主導」のエネルギー政策にとって都合のいい情報だけをピックアップし、他の重要なエネルギー情報は無視する「役所による情報操作」の実態を告発している。

 

 また経産省記事では、EUの「タクソノミー」についても、「2045年までに建設許可を受けた新規の原発」等の3条件に合致すれば、EUのサステナビリティ方針に貢献するとされている、と紹介している。この点も、ジスラー氏によれば、「EUのタクソノミー議論の中心は放射性廃棄物の処分。原発の開発を進める加盟国は、2050年までに高レベル放射性廃棄物の処分施設を稼働させる詳細な計画を整備する厳格な条件が設けられている」と指摘。日本でも最終処分地のメドは全く立っていない。経産省の記事にはこの点についても一言も述べられていない。

 

 経産省の記事は「私たちは、安全保障と環境政策における利点を持つ原子力発電をどのように取り扱うべきなのか、考える時が来ている」と結んでいる。ここで「私たち」は国民ではなく、「経済産業省資源エネルギー庁」という役人組織のことではないか。一度決めた原発政策を死守し、そのために国民に対する情報操作も厭わないということが中央省庁の標準的な行動パターンなのだろうか。だとすると、この国の「歪んだ政策運営」は国民全体に大きな負荷を強いることになる。

エネルギー危機の時代、原子力発電をどうする?|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁 (meti.go.jp)

日本政府が伝えない、欧州の原子力発電の現実 | 連載コラム | 自然エネルギー財団 (renewable-ei.org)

                           (藤井良広)