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韓国の金融庁「金融サービス委員会(FSC)」。気候・サステナビリティ情報開示(ESG情報開示)を当初想定の2025年から最低1年の延期決定。米日の対応の遅れ等を理由に(RIEF)

2023-10-20 00:42:24

KoreaFSCキャプチャ

写真は、韓国の「金融サービス委員会(FSC)」)

 

 韓国の金融庁に相当する金融サービス委員会(FSC)は、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が公表した気候・サステナビリティ情報開示基準に準拠する国内のESG情報開示制度の導入について、当初、表明していた「2025年」から、「2026年以降」に遅らせることを決めた。国内企業の準備状況や、海外(特に米国)等の対応状況を踏まえ、少なくとも当初より1年もしくはそれ以降に延期するとした。日本はサステナビリティ関連会計団体のサステナビリティ基準審議会(SSBJ)がISSB基準の日本版を25年3月末までに公表するとしているが、基準の実施時期については公表していない。

 

 FSCは関係省庁等との間で設立している「ESG Finance Promotion Team」の第3回目の会合を16日に開き、情報開始時期の延期を説明、了承を得た。同会議は関係官庁のほか、企業、投資家、学界、専門家等で構成する。日本政府の「有識者会議」のようなものだ。

 

 韓国では現在、韓国取引所(KRX)に上場企業のうち20社が自主的なサステナビリティ情報開示を実施しているだけ。FSCと金融監督サービス機関(FSC)、KRXの3者が開発したロードマップでは、まず、KRX上場企業で時価総額2兆ウォン(約2200億円)以上の企業に対して開示を義務付け、それ以外の上場企業についても、2030年までに義務的開示の対象に加えるとしている。

 

 韓国は今年4月に開いたISSBの「Sustainability Standards Advisory Forum (SSAF)」の場で、FSCと韓国会計機関(KAI)の代表が、ISSB基準に基づく国内版の情報開示ルール(ESG disclosure system)を2025年からスタートさせると表明していた。

 

  韓国政府が情報開示実施を少なくとも1年以上遅らせると決定した背景には、産業界の懸念が大きいとみられる。韓国の経団連に相当する韓国経済人協会(FKI)は16日の官民会合の前日に「2025年までに義務的なESG情報開示が困難な5つの理由」とする声明を発表した。それによると、①明確な基準がない②準備期間が短すぎる③(開示に対応する)人的資源やインフラを欠いている④法的リスクを拡大する⑤ 製造業の多い産業構造であるため(国際競争上)早期開示は不利になるーーと指摘した。

 

 また韓国商工会議所(KCCI)の韓国100社のESG担当役員に対して実施したアンケートでは、過半数の56.0 %の企業がESG情報開示時期の延期を支持した。当初案通りの25年からの開示を支持したのは27.0%の倍以上に上った。調査は59の大企業と、41の中堅企業を対象とした。延期時期は「少なくとも1年」、開示情報に対する免責期間を「2~3年」設ける等を求めている。https://www.businesskorea.co.kr/news/articleView.html?idxno=200457


 これらの反対理由に加えて、FSC等では、海外での気候関連情報開示の動向を見極めることを重視したとみられる。EUはISSB開示を踏まえて、独自に開示内容を広めたESRS基準に基づく企業サステナビリティ開示規則(CSRD)が24年から実施することを決めている。だが、その他の国、特にISSB開示と連動する形で進められてきた米国の証券取引委員会(SEC)の気候情報開示ガイダンスの決定が遅れ、現時点では実施のめどがついていない。https://rief-jp.org/ct4/138049?ctid=

 

 日本はSSBJが、ISSB基準の日本版の作成作業中としているが、草案の公表目標が2023年度中(遅くとも24年3月末まで)、確定基準の公表目標が2024年度中(遅くとも25年3月末まで)としている。ISSB基準の翻訳を元にした基準の作成にそれほど時間がかかるとは思えない(韓国は今年末に基準は開発予定)が、同基準の実施時期の目標は示していない。https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/2023_0803_ssbj.pdf

 

 現状の想定通りに、確定基準の公表にこぎ着けた場合、開示の実施は、基準が公表後に開始する事業年度の情報からとなることから、3月決算企業の場合、最短で2026年6月末までに開示することになる。

 

 韓国の今回の2026年の開示延期は、最短で25年実績を26年に開示することになる。したがって、日本のSSFJが現在想定している最短の開示スケジュールと同じになる。こうしたことから、韓国では、もっとも企業にとって影響の大きい米国の開示動向を見極めるとともに、先進国では開示スケジュールが「最も遅い日本」の動きも参考にしたとみられる。

 

 開示延期を要請したFKIは、「米国や日本のような競合先の国々は、義務的ESG情報開示に慎重な姿勢をとっている。そのうえで(これらの国々は)国際情報開示基準を先行的に導入するよりも、実施のタイミングを重視しており、さらに国内情勢に応じて導入しようとしている」と指摘。米日への同調姿勢の必要性を強調している。

 

 こうした韓国産業界の声も踏まえ、FSCの副議長のKim So-young氏は「海外の主要経済国の情報開示規制導入状況を考慮すると、韓国国内でのESG情報システムの導入は、諸外国の情報開示のスケジュールを考慮して、2026年かそれ以降(after 2026)に延期する」と述べた。

https://www.fsc.go.kr/no010101/80911?srchCtgry=&curPage=&srchKey=&srchText=&srchBeginDt=&srchEndDt=

https://www.fsc.go.kr/eng/pr010101/79858

https://www.fki.or.kr/main/news/statement_detail.do?bbs_id=00035200&category=ST