HOME13 原発 |米政府支援の「小型モジュール原子炉(SMR)」活用の脱炭素発電事業が頓挫、終了へ。発電コスト高で経済的に成り立たず。日本から日揮、IHI等も参画。資源エネ庁もHPで“称賛”(RIEF) |

米政府支援の「小型モジュール原子炉(SMR)」活用の脱炭素発電事業が頓挫、終了へ。発電コスト高で経済的に成り立たず。日本から日揮、IHI等も参画。資源エネ庁もHPで“称賛”(RIEF)

2023-11-11 17:47:21

NuScale002キャプチャ

写真は、SMRを3基使ったCFPP事業の完成予想図)

 

  米国の小型モジュール原子炉(Small Modular Reactor  : SMR)メーカーのニュースケールパワー(NuScale Power)とユタ州自治体電力システム(UAMPS)は、共同で進めていたSMRを使った脱炭素発電プロジェクト「カーボンフリーパワープロジェクト(CFPP)」を終了すると発表した。発電コストの引き下げが進まず、経済的に成り立たないと判断した。NuScale社には日本の日揮、IHI、国際協力銀行、中部電力なども出資している。経済産業省資源エネルギー庁はホームページでCFPPプロジェクトを「次世代の原子炉」として紹介してきた。

 

 CFPPは、太陽光や風力などの、気象条件によって発電にムラのある再エネ発電での電力を、SMRによる発電でバックアップすることで、完全脱炭素発電の実現を目指すプロジェクト。同発電による電力で製造した水素は、CO2排出量ゼロの「ピンク水素」と呼ばれ、脱炭素手段の一つと期待されている。

 

 同プロジェクトでは、アイダホ国立研究所にNuScale社の出力77MWのSMRを6基設置し、2029年までにUAMPSを通じて、UAMPSの会員である西部7州の公営電力会社など約50のプロジェクトメンバーに送電し、UAMPSとメンバー企業等の完全脱炭素化を達成する計画だった。米エネルギー省(DOE)も支援してきた。

 

SMRを5基組み合わせた
SMRを5基(Reactor Poolの右側部分)を組み合わせた原発のイメージ

 

 しかし、SMRの予想発電コストがなかなか下がらず、UAMPSの会員メンバーの脱退が目立つようになっていた。今年1月には、予想発電コストが当初比53%増の1MW時当たり89㌦と、再エネによる発電コストより20㌦以上も高くなることが分かり、残っていたUAMPSの会員メンバーの離脱も繋ぎ止められなくなった。その結果、今回のプロジェクト自体の終了に追い込まれた。

 

 脱炭素発電の実現に原発の利用を認めている米国では、CFPPへの期待は高い。DOEは議会の予算計上を条件に、10年間で計13億5000万㌦の補助金を出すことを決定している。特にNuScale社には別途、プロジェクトの設計、認可、立地を支援するため、2014年以来、すでに約6億㌦を供与してきた。そのDOEの”肝入りプロジェクト”が頓挫したことになる。

 

 同プロジェクトの軸になるSMRは、出力規模が小さいため、事故時に原子炉を冷却するための安全システムが簡素化できるほか、モジュール設計を採用するため、工場での製作が可能で、現地建設工事を短縮できるといった点等が、従来型の原発に比べて利点とされる。また発電出力に比べ事故時の原子炉の除熱・冷却を担う原子炉プールが大きいことで、従来型より安全性も高いとされる。

 

 CFPP に使う予定だったNuScaleのSMRは、発電出力77MWの加圧水型。非常用冷却装置(ECCS)に簡素で電源を必要としない冷却水自動循環型の受動安全システムを導入しているほか、水素爆発が起きないように、水素再結合装置を備えて安全性能を高めている。その結果、米国原子力規制委員会(NRC)から全米で唯一、SMRとしての設計承認を与えられていた。

 

NuScaleのパワーモジュール
NuScaleのSMRの内部構造

 

 そのため、同社のSMRについては、福島第一原発事故を経験した日本でも資源エネルギー庁が強い期待を示してきた。同庁のホームページでは「原子力にいま起こっているイノベーション~次世代の原子炉はどんな姿?」と題したPR記事を掲載しており、その中で、「求められているのは、これまでにない『使いやすくて安全な原子炉』」の項目に続く「どんな原子力技術が開発中なの?」の項目の中で、同社のSMRを最初に紹介して、期待の高さを示している。

 

 日本の民間企業もCFFPに期待をかけてきた。NuScale社には、これまで、日揮、IHI、国際協力銀行(JBIC)、中部電力等が出資している。日揮とIHIは、2021年に出資を発表。出資額は日揮が4000万㌦、IHIは非公表としている。JBICは約130億円。さらに経産省は、同事業に参画する日揮とIHIに対して予算措置を講じ、モジュール・メンテナンス機器等の実証化を支援しているという。https://rief-jp.org/ct13/124034?ctid=

 

 今年9月に出資を発表した中部電力は「NuScale社製SMRは、世界10か国以上で導入検討がされていることに加え、米国における初号機プロジェクトは、DOEから総額13億㌦を超える資金支援を受ける予定で、2029年の運用開始に向けて進行しており、同社は、SMR開発のトップランナーと言える」と称賛している。

 

 日本以外でも、ルーマニア、カザフスタン、ポーランド、ウクライナが導入希望を表明してきた。だが、今回のCFPPの頓挫で、これらの海外でのSMR開発事業が実現するのかどうか、先が見通せなくなったといえる。

 

 SMR全体の先行きにも影を落とす形だ。SMR開発の先頭を走るNuScaleの SMRが、安全性の議論の前に、経済性の評価で“失格”となったためだ。オーストラリアでは、前政権を構成していた自民党がSMR導入に積極的に取り組んできた。だが、CFPPの頓挫で、再エネ重視の現労働党政権との間では、SMR導入の是非をめぐり早くも政治論争が起きているという。

 

 日本でも、自民党が2021年の衆院選時の公約で「SMRの地下立地などを積極的に後押し」等を掲げたほか、グリーントランスフォーメーション(GX)戦略でも、「次世代革新炉」の一つとして、SMRを位置付け、その事例としてCFPPにも言及している。GXが克服を目指す脱炭素社会への「移行リスク」の実例“がまた一つ、はじけた”形でもある。https://rief-jp.org/ct4/140121?ctid=72

https://www.nuscalepower.com/en/news/press-releases/2023/uamps-and-nuscale-power-agree-to-terminate-the-carbon-free-power-project

https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/smr_01.html

https://www.chuden.co.jp/publicity/press/1211804_3273.html

https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/green_transformation/pdf/004_01_00.pdf