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米環境保護庁(EPA)、2027年~32年の自動車排ガス規制決定。「軽量車」のCO2排出量は当初案より緩和。32年に(26年車比)比50%減。プラグインハイブリッドも脱炭素車扱いへ(RIEF)

2024-03-22 22:07:44

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 米環境保護庁(EPA)は20日、2027年から32年までの自動車の排出ガス規制策を発表した。32年の軽量車(乗用車+トラック合計)のCO2排出量(26年モデル車比)を50%削減するとしている。昨年4月に公表した当初規制案では56%削減としていたが、自動車メーカーの懸念等を反映させ、年間の排出量上限値も3.7%~22.5%緩和、全体も6%減とした。EPAのシナリオでは、この規制により、バッテリー電気自動車(BEV)は国内総販売台数の56%まで引き上げられ、プラグインハイブリッド車(13%)と含めると約7割の軽量車販売を脱炭素化できるとしている。

 

 EPAが昨年4月に公表した規制案では、軽量車の1㍄当たりの削減目標は、27年が152g、28年131g、29年111g、30年102g、31年93g、32年82gとし、26年車比56%削減の目標を掲げた。これに対して、自動車メーカー等が緩和要求を突きつけた。バイデン政権としては11月の大統領選挙での自動車労組票を意識する形で、全体の削減率を50%にするとともに、毎年の削減目標を、3.7~22.5%ずつ緩和した。https://rief-jp.org/ct5/134511?ctid=

 

昨年4月の規制案と今回の最終決定案の差(Bloombergより)
昨年4月の規制案と今回の最終決定案の差(Bloombergより)

 

 同様に中量車の排出量についても27年の1㍄当たり461gから32年には274gへと排出上限を設定、26年車比で44%削減を目指すとしている。こうした規制の実質緩和の一方で、脱炭素車(ZEV)の範疇にプラグインハイブリッド車(PHV)を加えることで、32年の軽量車の新車販売に占める脱炭素車推計をEVが59%、PHV13%とし、両方合計でほぼ7割を占めるとしている。

 

 ただ、現在の米国新車販売市場でのBEVの割合は8%未満、PHVは2%でしかない。EPAのシナリオが最低レベルで推移した場合は、32年のBEVは35%になるとしている。EPAは今回の規制でCO2排出量の削減だけでなく、PM2.5や窒素酸化物(NOx)、非メタン性有機ガス(NMOG)、その他の基準汚染物質とその前駆物質に関する汚染物質排出基準の強化も盛り込んだ。これらを合わせると、規制による総便益は総費用をはるかに上回り、年換算した純便益は990億㌦(約15兆円)になると見積もっている。

 

 同見積もりでは、今回の規制強化に自動車メーカーが対応する技術コストを、年換算で400億㌦とみている。一方で燃費改善による社会的便益は年換算で460億㌦と、自動車メーカーの必要コストを上回るほか、修理・メンテナンスの節約は年換算で160億㌦に達するとしている。商品者を中心に社会的便益が高まるとの推計だ。

 

 自動車のCO2削減政策はバイデン政権の看板政策である気候変動対策の中でも、消費者に「見える政策」として重視してきたものだ。ただ、EV普及では米テスラのほか、中国車が市場競争力を高めており、米自動車大手「ビッグ3」は苦戦から脱していないのが実態だ。これら自動車メーカーは労使とも急激なEV普及に対して懸念を払しょくしきれておらず、バイデン政権としては、11月の大統領選を見据え、EV推進策へのアクセルを少し緩め、ブレーキをかける形で規制を修正したともいえる。


 米メディア等の報道では、米主要自動車メーカーは、規制の修正を歓迎する声が強い。排出目標を緩和したことに加え、PHVの脱炭素車扱いを明確に示したことも歓迎されている。自動車メーカーは、今回のEPA規制を「調整されたEV目標」と位置付け、今後、米国内でのチャージングステーションの整備やインフレ抑制法(IRA)による蓄電池開発への補助金政策等の効果が明瞭になるまでの、時間稼ぎになるとの見方が出ている。

 

 実際、今回のEPAの規則決定を受けて、「ビッグ3」のゼネラルモーターズ、フォード・モータステランティスNVの株価はすべて上昇した。これに対して、EV専業のテスラの株価はそれまでの上昇幅から縮小した。

 

 ただ、共和党の大統領候補のトランプ前大統領を含む気候対策への反対派は、「今回の規制は事実上のEV義務化であり、自動車メーカーは従来のガソリン車を犠牲にしてZEVの販売に注力せざるを得なくなる」と批判している。トウモロコシ由来のエタノールを含む液体輸送燃料メーカーも「規制緩和」を非難し、ガソリン需要減退に直面する石油業界も反発している。

 

 アメリカ石油協会(American Petroleum Institute)とアメリカ燃料石油化学工業会(American Fuel and Petrochemical Manufacturers)は共同で会長声明を発表し、「バイデン政権は、10年以内にアメリカ市場からほとんどの新型ガス自動車と従来のハイブリッド車を明確に排除する規制を最終決定した。この規制は、ほとんどのアメリカ人にとって、新しいガス自動車を入手できなくするか、法外に高価なものにするだろう」と非難した。

https://www.epa.gov/regulations-emissions-vehicles-and-engines/final-rule-multi-pollutant-emissions-standards-model

https://www.epa.gov/system/files/documents/2024-03/420f24016.pdf

https://www.epa.gov/system/files/documents/2024-03/lmdv-veh-standrds-ghg-emission-frm-2024-03.pdf