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「エネルギー基本計画」に向けた政府審議会の公正性に「疑義」との報告書。閣議決定を大きく上回る8件兼職の委員も。「プロ委員」によるポストの固定化。気候シンクタンク指摘(RIEF)

2024-04-27 02:06:43

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 今年度は、エネルギー基本計画の改定や、2030年以降の温室効果ガス(GHG)排出削減目標を含む「国が決定する貢献(NDC)」の策定が予定される。シンクタンクの分析によると、そうした気候・エネルギー政策の決定プロセスで軸になる総合資源エネエネルギー調査会を構成する各委員会には、エネルギー多消費関係企業の委員が多く、エネルギー需要側企業や非営利団体の委員は少ない、50~70歳代の男性中心、化石燃料等の既存システムからの脱却に慎重な委員が多数ーーという構造が浮き上がった。また審議会委員の兼職は、閣議決定で原則3件としているが、エネ計画関連では、これを上回る委員が3人おり、うち一人は8件も兼職する「プロ委員」化している実態が示された。

 

 レポートは、独立系の気候政策シンクタンク「Climate Integrate」が「日本のエネルギー政策決定プロセス : エネルギー基本計画の事例の検証」と題してまとめ、公表した。

 

 分析では、2020 年10月~2021年10月に決めた第6次エネルギー基本計画策定プロセスを取り上げ、その審議構造、検討開始から閣議決定まで の経緯、及び各種会議体の委員構成(業種・年齢・ 性別・スタンス)を分析した。 エネルギー基本計画は、経産省(資源 エネルギー庁)に置かれる総合資源エネルギー調査会傘下の各委員会を中心に審議される(一部、運輸や建築分野等、国土交通省所管の審 議事項も含む)。

 

 同シンクタンクでは、第6次エネ基本計画策定のプロセスでの審議会の構成を踏まえることで、今年度に行われる第7次エネ基本計画策定での各会議体での公正・適正な委員の選任がなされることへの期待を示している。

 

 第6次エネ基本計画の策定プロセスの分析では、まず、総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会でまとめられることになっているエネルギー基本計画の案が、同調査会に関連して設置される多数の会議体で先立って議論・調整が行われ、本来の審議の場となる基本政策分科会では、総合的観点から審議される機会は乏しい形だったと指摘している。重要な論点は他の専門委員会等で決め、基本政策分科会は、それらを了承する形式になっていたとの指摘だ。

 

 同分科会のほか、実質的な審議を担う15会議体での委員構成を業種別に分類すると、全体に大学、シ ンクタンク・コンサルティングからの委員の割合が多い。一方、企業からの委員の中では、「素材系、資源・エネル ギー供給、運輸」に属するエネルギー多消費産業が委員の多くを占めており、金融関係者も 一定数含まれている。

 

 会議体のうち、下位の会議体や資源燃料関係の会合では、業界団体や素材系企業、プラント企業からの委員が過半数を超える傾向にあるとしている。会議体の一部には、直接の利害関係者である企業や業界団体の委員も入っており、利 益相反の問題も疑われる、と指摘している。特に官民協議会の場合は、利害関係者と政府を中心に構成されており、公正性、中立性に問題がある。

 

 大学からの委員は専門性、中立性が期待される。だが、実は近年は、企業や政府出身の大学関係者が増えており、中立性という点で疑わしい委員も少なくないとしている。さらに、シンクタ ンク、業界団体、政府系機関の委員の場合も、経産省出身者が選任されていることもあり、政府の代弁役になっている場合がある。

 

 一方、エネルギー 転換に積極的に取り組む業界が多いエネルギー需要側の企業はほとんど参加していない。役所がそうした企業を選ばないのか、それらの企業が委員を出すことに消極的なのかは不明だ。非営利団体やその他分野からの参加も非常に少ない。この場合は、役所側がこれらの分野からの委員選出を極力、少なくしたいとの意向が働いているとみられる。

 

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 委員の中には、複数の会議体に重複して参加している委員が多い。前述の15会議体の委員では、東京大学社会科学研究所教授の松村敏弘氏が、対象委員の中で最高となる8件の会議体を兼職していた。次いで、経産省系の機関である「地球環境産業技術研究機構(RITE)の秋元圭吾氏が7件、東京大学未来ビジョン研究センター教授の高村ゆかり氏が4件。RITE理事長の山地憲治氏、同じく経産省系の研究機関、前日本エネルギー経済研究所の豊田正和氏ら10人が3件を兼職している。

 

 閣議決定の「審議会等の整理合理化に関する基本的計画」(1999年4月27日)によると、「兼職委員がその職責を十分果たし得るよう、一の者が就任することができる審議会等の委員の総数は原則と して最高3とし、特段の事情がある場合でも4を上限とする」と明記している。この規定に基づくと、松浦氏、秋元氏、高村氏は「閣議決定の原則違反」になる。

 

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 最も兼職委員数の多かった松村氏の場合、東大が公表する経歴によると、同氏の「専門分野」は公共経済・産業組織・地域科学・法の経済分析・応用ミクロ経済学で、同氏の幅広い研究テーマの一つに「日本のエネルギー市場に関する研究」との項目がある。ただ、エネ基本計画を立案するうえで同氏の知見を8つ会議体で共有する必要性があった、とする説明責任は求められそうだ。https://jww.iss.u-tokyo.ac.jp/evaluation/self_III-matsumur.html

 

 秋元氏は一環してRITEで研究活動を実施してきたエネルギー・環境を対象とす るシステム工学専門の研究員。IPCCの第5次および6次評価報告書の代表執筆者としても名を連ねたとされており、エネ分野の専門家といえそうだ。ただ、同分野の専門家は他の機関にも複数人がいる。秋元氏についても、閣議決定を上回る7件の会議体への兼職を、同氏に集中させた説明責任が問われる。

 

 高村氏は前2人に比べると、ほぼ半分の兼職数だが、閣議決定の原則を超える4件の兼務数だ。同氏はエネルギー専門家ではなく、国際法・環境法の専門家だ。エネルギー問題に伴って法的課題への対応が求められるケースもあるだろうが、法的対応は各役所自体が専門的に担当しており、同氏から学問的なアドバイスを受ける必要性が、対象となる4件の会議体で、どれくらいあったのかも説明責任の対象だろう。

 

 99年の閣議決定では、兼職規定だけではなく、委員任期についても「原則2年以内とする。 再任は妨げないが、一の審議会等の委員に10年を超える期間継続して任命しない」としている。この点についても、長期委員継続者の存在が指摘されている。また女性委員比率も「府省編成時からおよそ10年以内に30%に高めるよう努める」としており、すでにその期限は過ぎているが、15の会議体のうち11の会議体では 女性委員比率は30%を満たしていない。

 

 閣議決定では、 政府出身者の当該関係分野での委員任命は「厳に抑制する」と明記している。しかし、実際には、大学や企業等に出向や転職した人物を委員に任命しているケースが少なくない。さらに委員の年齢についても「委員がその職責を十分果たし得るよう、高齢者については、原則として委員に選任しない」としているが、70代後半の委員も選ばれている。

 

 レポートはこうした委員構成を指摘し、「これらの結果を前述の指針(閣議決定)と照らすと、業種、府省 出身者の任命、重複等の点で乖離があり、公正と均 衡を欠いていると指摘できる」としている。要するに、エネ計画を審議する委員の「プロ委員化」であり、ポストの固定化によって、審議会全体において前例踏襲的な意見が継承され、抜本的な転換に向けた意見が排除される構造になっている懸念があるのだ。

 

 脱炭素への転換、未来の安定的なエネルギー源の確保というエネ計画に求められる視点が、旧態依然とした行政の対応と、「公正と均衡」を欠いた委員・審議会の固定的な議論によって、遠ざけられてしまうことがないよう、エネ計画の策定に際しての議論では、審議会の公正性、透明性の確保を重視して、取り組んでもらいたい。

 


 レポートの執筆者の1人、公共政策ディレクターの安井裕之氏は「本レポートでは、エネルギー基本計画をめぐる複雑な審議構造や検討プロセスを紐解くとともに、各種会議体が公正かつ均衡の取れた委員構成となっているかを検証した。政策の中身だけではなく、政策決定プロセスにも注目が集まり、今後の気候・エネルギー政策の決定プロセスのあり方について見直しが図られていくことを期待している」とコメントしている。

                           (藤井良広)

 

https://climateintegrate.org/wp-content/uploads/2024/04/Policy-making-process-JP.pdf