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全国都道府県等の電力調達、大手電力会社が、新電力会社との契約を「取り戻す」ケース増大。石炭火力発電等の環境影響よりも、価格割引を重視。環境NGO、大学等の共同調査で判明(RIEF)

2019-10-30 18:56:51

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   環境NGOのパワーシフト・キャンペーンや一橋大、朝日新聞社などの共同調査によると、全国の47都道府県と20政令指定市の電力調達で、いったん新電力と契約後、大手電力の価格引き下げによる「取り戻し」攻勢で、大手電力に戻った自治体が、過半数に上ることが分かった。大手電力が新電力より約2割安値で落札したケースもあるという。大手電力の電源は、石炭火力、原発が中心.環境配慮契約法によって自治体の調達には環境性能を総合評価することが求められるが、「安かろう」にシフトしていることが鮮明になった。

 

 同調査によると、当初から調達先を新電力に変えていない自治体を含めると、対象自治体の電力調達先は大手電力が8割を占め、寡占化が一段と進んでいる。

 

 調査に参加したのは、パワーシフト・キャンペーン運営委員会、一橋大学自然資源経済論プロジェクト、朝日新聞社、環境エネルギー政策研究所(ISEP)の各機関。今年6~7月に対象自治体に対して、本庁舎等の電力の調達状況や今後の方針等をアンケート調査した。すべての対象自治体から回答を得た。

 

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 その結果、47都道府県では、電力契約をいったん新電力に切り替えた後、再び、大手電力に契約を戻したケースが22件、一時的あるいは随意契約で大手に戻った「大手戻り」のケースが2件、当初から大手のまま16件と、合計40件が大手電力を調達している。新電力調達は、自治体新電力が1件、その他新電力6件。

 

 20政令指定都市でも、大手電力が「取り戻し」たのが10件、「大手戻り」2件、大手のまま2件で、合計14件が大手調達。新電力は自治体新電力が1件、その他新電力が4件と、都道府県とほぼ同様の傾向になっている。

 

 都道府県で、大手が「取り戻した」24件は、北海道、神奈川、愛知、大阪、福岡など。東日本大震災後、一度は新電力に切り替えたが、多くの都道府県が、2018、19年度に大手電力、あるいはその関連会社へ契約を切り替えたという。

 

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 自治体の多くは電力調達を一般競争入札で決めている。このため、価格の安い電力会社が優位になる。たとえば宮崎県は本庁舎の電力 を2011年度以降、新電力と契約していたが、19年度分は一般競争入札の結果、九州電力が新電力よりも2割以上も安い価格を提示したという。

 

 朝日新聞の報道では、入札に参加した新電力会社のコメントとして「2割も引いたら採算割れ。再稼働した玄海原発の電力を供給源にして反撃に出てきたのではないか」との意見を紹介している。九州では、宮崎、長崎を除く5県の本庁舎は、2014年度分からいずれも新電力が落札していたが、18年度分から九州電力が2連続で落札しているという。

 

 自治体向けに大幅な値引きをして損失が出る場合、他の企業向け、消費者向けの電力料金で穴埋めしているとも考えられ、自治体向け電力料金のあり方は、電力料金全体の公平性にも影響する。

 

 調査では、入札方式の問題も指摘している。東京都は第一本庁舎の電力調達を、一般競争入札のうちでも総合評価落札方式で実施、再エネ100%の新電力と契約した。静岡市でも同様に、総合評価方式に切り替え、地元の新電力と契約している。自治体側の対応力の差ともいえる。

 

 環境配慮契約法に基づく契約の実施状況は、都道府県で51%、政令指定都市で55%と低い実施率となっている。同契約方針を導入している自治体でも、入札資格者を限定する裾切り方式を取り入れている自治体では、新電力会社等にとって障害になっているという。

 

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 結果として、大手電力の「取戻し」が進む背景に、大手電力と新電 力との間の格差(電源保有、顧客情報など)があり、現行の電力政策が、そうした格差を支える状況になっていると指摘。自治体の電力調達に際して、価格最優先の実態が顕在化したが、本来、自治体は、地域全体の計画や方針を策定したうえで、再エネ、地元産のエネルギーや地元の新電力会社からの調 達をもっと重視すべき、と強調している。

 

  自治体新電力をもつ自治体では、計画などで再エネ推進や地産地消などを位 置づけ、随意契約を結んでいる事例も明らかになった。ただし、こうした自治体新電力も、必ずしも再エネ重視でなか ったり、課題を抱えるケースもあり、「持続可能な再エネ調達が望まれる」としている。

 

  地域の再エネはFIT 電気である場合が多い。だが、FIT 電気のCO2排出係数は全電源平均なので、環境配慮調達が必ずしも再エネ電力や地域電源の調達につながっていない課題も調査で浮き上がった。このため、「入札を実施する場合には、再エネや地域新電力を 優先できる『総合評価落札方式』の導入が必要」としている。

 

 そのうえで、①価格のみを重視した調達から、総合的観点での調達への転換。自治体新電力の設立も有効②自治体は、持続可能な地域づくりと地域活性化の長期ビジョン作成し、日本全体で共有すべき③大手電力と新電力の格差の可視化と是正に取り組むべき④環境配慮契約法を総合的な観点から落札者の決定を促すよう改定、都道府県や自治体にも義務化すべきーーの4点を提言している。

 

http://power-shift.org/wp-content/uploads/2019/10/jichitai2019_report.pdf