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仏クレディ・アグリコルCIB、日本で外資金融機関初のサステナビリティ・リンク・ローン(SLL)を、医療機器メーカーのニプロに融資。総額150億円。SPTの設定に課題(RIEF)

2021-07-30 00:22:14

CACIBキャプチャ

 仏クレディ・アグリコルCIB(CACIB)は28日、同社の日本法人を通して医療メーカー、ニプロに対して、総額150億円のサステナビリティ・リンク・ローン(SLL)契約を結んだ。外資金融機関による国内企業へのSLL提供は初めて。SLLの軸になるサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPT)は同社が開発する腎臓病患者の人口透析治療で使う人工腎臓「ダイアライザ」の海外販売本数としている。ただ、SPTの具体的な目標値や、計画通りに達成できなかった場合の金利面の扱い等は公開されていない。

 

 CACIBがニプロに提供するSLLは、期間7年のローンが76億円、期間10年のローンが74億円。合計150億円となる。資金使途は一般運転資金。アレンジャー等はCACIBが自ら務める。

 

 SLLは、従来のグリーンボンド等が資金使途をプロジェクト等の事業に絞っているのに対して、企業自体のサステナビリティ活動の改善を目標とする点が特徴だ。資金使途も企業の一般的な資金需要に充当できる。ただ、サステナビリティの改善を示すSPTを設定し、改善が不十分な場合は、借入金利を引き上げる等のペナルティの付与が条件となるのが一般的だ。

 

 今回、SPTとして、ニプロの代表的商品であるダイアライザの海外販売本数を設定した点について、セカンドオピニオンを付与した格付投資情報センター(R&I)では、「人工透析は腎機能異常が重症化し透析治療する人々が必要とし、社会インフラと呼べる。国内外とも透析患者数は増加する見通しで、 災害時の対応等も勘案すると、ダイアライザの安定供給体制を維持することは社会的な課題」と指摘し、SLLのSPTに該当するとの判断を示している。

 

 R&Iは、サステナビリティ度を図るSPTの達成目標の数字(販売本数)を公表しない点については、「競争上の理由」としたうえで同ローンを組成したアレンジャー兼エージェント、貸付人のシンジケートローン団には事前にタームシートで目標本数を開示・説明し了解を受けていると説明。R&Iも「契約書によってSPT目標の実数値を確認している」としている。

 

 だが、こうした説明通りとすると、このSLLはいささか問題含みと言わざるを得ない。

 

 人工腎臓の社会的重要性はその通りだろう。だが、ニプロはそうした医療機器を本業として販売しており、内外市場で他社と競い合っている点は、自動車や電気製品等の競争と変わりはない。新型コロナウイルス感染拡大のような、医療関係事業への突発的な需要拡大時とは異なり、継続的な本業ビジネスの一部製品の販売を「サステナビリティ事業」と位置付けるのは、SLL本来の目的を逸脱している可能性がある。

 

 社会的ビジネスを本業とする企業のSLLを評価する場合、通常の業務を上回るサステナビリティの向上が期待される「追加性」の有無が求められる。その成否をSPTを通じて市場関係者に示してこそ、SLLとして資金調達をする意味が出てくる。(この項、追加)

 

 にもかかわらず、SPTを市場に開示しないのならば、SLLを名乗らずとも、二者間の通常の金銭貸借契約として扱えばいいのではないか。情報開示が不十分ということはサステナビリティ促進の実態が第三者には把握できないということだ。R&Iは「(自分たちも)契約書によってSPT目標の実数値を確認している」と付け加えているが、このコメント自体、自主的なセカンドオピニオン事業者の役割を超えているリスクがあるように思える。

 

 市場ベースのセカンドオピニオンやESG格付会社による情報評価の妥当性や透明性の欠如を重視した証券監督者国際機構(IOSCO)は、ESG市場等で活動するこれらの事業者に対する監督当局の対応の強化や、事業者自身の透明性の確保を求めるレポートを公表している。「グリーンウォッシュ」「サステナブルウォッシュ」と言われないためにも、市場参加者自身が、適格な情報開示を実践することが市場の発展に欠かせないはずだ。https://rief-jp.org/ct4/116484?ctid=71

 

 ニプロはニュースリリースでSPTについては一切言及せず、「社会に不可欠な医療機器の安定供給を果たすことで社会 的課題の解決に取り組み、SDGs の実現に貢献していく」とコメントしている。日本市場でのSLLやSLB(リンク・ボンド)が早くも「日本流」に変質しつつあるようで、気にかかる。

                          (藤井良広)

 (一部修整:2021年7月30日、午後10時10分)

https://www.ca-cib.co.jp/news/pdf/Cr%C3%A9dit%20Agricole%20CIB%20Japan%20Sustainable%20Day.pdf

https://www.nipro.co.jp/news/document/210728.pdf