大阪IR・カジノ計画に約5500億円を融資方針の三菱フィナンシャル・グループと三井住友フィナンシャルグループに、NGOが「国連責任銀行原則(PRB)」に反するとし融資停止を要請(RIEF)
2022-09-22 17:52:11

大阪市で計画が進められているIR・カジノ建設計画に、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)と三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)が約5500億円をプロジェクトファイナンスで融資する方針とされることに対して、環境NGOらが両金融グループが署名する「国連責任銀行原則(PRB)」に反するとして、融資からの撤退を求めている。NGOらは金融庁に対しても融資反対を指導するよう2万人の署名を提出した。メガバンクは気候対応は強化してきたが、ギャンブル等への社会的課題への方針の明確化を迫られる形だ。
(写真は、大阪に建設が計画されているIR・カジノの完成予想図)
MUFGとSMBCにカジノ融資撤退を求める活動を展開しているのは、NPOのAMネット、「夢洲の都市計画変更を考える市民懇談会」、「ウータン・森と生活を考える会」等の6団体。
抗議対象となっているのは、大阪府と大阪市が、同市夢洲地区で進めるIR・カジノ建設計画。すでに公募事業者としてMGM・オリックス コンソーシアムが選定されている。同社は、ラスベガスに本社を置くカジノ大手のMGMリゾーツ・インターナショナルと、オリックスや関西企業などで構成される共同体。
計画では、事業効果として初期投資額が約1兆800億円、年間来場者予想数は約2050万人、年間売上約5400億円(遊戯関連4300億円)、雇用者数約1万5000人、大阪府市への納付金・入場料は年間約1100億円と試算。2020年代後半の開業の予定だ。カジノ依存症対策としては、MGMの知見・ノウハウを踏まえた「責任あるゲーミング」の実施、カジノ施設の厳格な入場管理・利用制限措置、最先端のICT技術等により問題あるギャンブル行動の発見と対応等を示している。
これに対してNGOらは、大阪IRの売上見通しが、年間5200億円とする点で、カジノを主導するMGMが、現在運営しているマカオ、ラスベガスなどの27施設合計の売上が1兆円強であることと比べると、「非現実的な(多過ぎる)売上予測」と指摘。
入場想定者とする年間約2050万人のうち国内が約7割の1400万人、国外3割の650万人と推計しており、国内客に照準を合わせていることが明瞭としている。NGOらはこの点で、「国内客を対象とした韓国のカジノ、カンウォンランドではカジノの周辺に質屋や風俗店が立ち並び、犯罪や自殺が増え、人口は減り地域が荒廃した」のと同じような影響が出る可能性がある、と懸念を示している。
カジノが計画される夢洲地区は、廃棄物埋め立ての最終処分地の人工島で、埋め立て自体が途中段階のため、水抜きが不十分なうえ、長年にわたって埋め立てられた汚染土壌が埋設されている点も不安材料としている。人工島は次第に地盤沈下するほか、同地の地層は、本来「沈まない」とされる洪積層まで沈下する「超軟弱地盤」と指摘している。
こうした地盤のため、今後、土地改良費用が増大し、大阪市の公費負担が増大する懸念も示している。一方で、夢洲は隣地の南港野鳥園とセットで、大阪府の生物多様性ホットスポットAランクエリアに指定されている。NGOらは「夢洲は広大な湿地で構成され、ラムサール条約の登録を狙えるレベルのポテンシャルがある。毎年、数千羽単位で訪れるシギ・チドリなどの渡り鳥が、国境を越え、海を越えて、飛来する鳥たちの大切なサービスエリアであり繁殖地として保全すべき」と強調している。
NGOらはこうした問題山積の事業計画に多額の融資を予定しているとされるMUFGとSMBCの行動は、両グループが署名している国連の「銀行責任原則(PRB)」に反するとしている。PRBは「SDGsとパリ協定が示すニーズや目標と自社との経営戦略との整合性をとること」を原則に据えているためだ。
PRBは、銀行業務をSDGsとパリ協定が定める社会的ゴールに整合するよう変えていくことを目標としている。PRBは署名機関に求める6つの原則において、こうした社会目標に適合した金融機関のビジネス戦略の設定を求めている。さらに「現世代および将来世代のための共通の繁栄を創り出すために顧客やクライアントと責任を共有する」等もうたっている。カジノ事業へのファイナンスがこうした銀行の責任と合致するかどうかだ。
MUFGの「 環境・社会ポリシーフレームワーク」では、ギャンブルへの融資を直接禁じる規定はない。しかし、「評判リスクに関する協議の枠組み」として、ファイナンス対象の事業が、MUFG の企業価値を大きく毀損する可能性があると判断される場合には、経営層が参加する枠組みで、当該事業への対応を協議する、としているほか、「ファイナンスを禁止する事業」の対象に、公序良俗に反する事業、ラムサール条約指定湿地へ負の影響を与える事業等をあげている。
カジノが公序良俗に反するか、どうか。夢洲の渡り鳥の湿地がラムサール条約指定の湿地に比べて、どう保護対象になるかどうか。MUFGはPRB署名銀行として、少なくとも、これらの点についての評価を説明する説明責任を負っているといえる。
SMBCも「SMBCグループ 環境・社会フレームワーク」を制定している。それによると同グループは、「生物多様性を含む自然資本の喪失は、リスクの増加や保有する金融 資産の価値毀損など、金融グループとしての幅広い事業活動に潜在的な影響力を有する可能性があると考えている」と明記している。
同グループの与信業務の中核を担う三井住友銀行の「クレジットポリシー」では、MUFGと同様、公序良俗に反する与信や、環境に著しく悪影響を与える懸念がある与信、 公共性・社会性の観点で問題のある与信、ラムサール条約指定湿地やユネスコ指定世界自然遺産に著しく負の影響を与える 大規模な開発・建設事業や、絶滅危惧種の生息地や原生林・熱帯林を大きく破壊する恐れがあるが、適切な環境影響評価等の策定が行われていない大規模な開発・建設事業等への与信、を融資対象外としている。

NGOらは今月に入って、国会議員会館で、院内集会を開催、金融庁・カジノ管理委員会の職員も参加する形で、大阪IR・カジノの問題点や、会場に想定されている夢洲の課題等を説明した。その席で、金融庁に対して「銀行がカジノに融資することを憂慮しする」署名約2万人分と、当該銀行への要望書を提出した。
https://drive.google.com/file/d/1unVp_COJH0w2uvqhj9KEEqQFaQS5iqrG/view