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3メガバンクに気候対策で株主提案の環境NGO。投資家向け分析資料公表。石油・ガス、電力等の炭素集約型セクター向け投融資で信頼できる短期・中期目標を欠く等と指摘(RIEF)

2023-06-11 21:37:19

3キャプチャ

 

 日本の3メガバンクに対して、気候変動対策の強化を求める株主提案を提出した内外の環境NGOが、今月末の株主総会を前に、投資家向けに各社の取り組み分析資料を作成、公表した。メガバンクはいずれもネットゼロ公約を掲げるが、電力、石炭採掘、石油・ガスなどの炭素集約型セクターへの投融資額を開示せず、加盟する「ネットゼロ銀行同盟(NZBA)」の要件等と一致していないと指摘。このうち、三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)はトランジションファイナンス方針を公表したが、その内容は「科学的根拠に基づかず、『1.5℃目標』にも対応していない経済産業省の政策に過度に依存している」と批判した。

 

 投資家向け分析資料を公表したのは、株主提案をしている環境NGOの豪マーケット・フォース、FoE Japan、気候ネットワーク、レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)の4団体と、その代表者を含む個人株主ら。NGOらは、4月に3メガバンクをはじめ、三菱商事、JERA株主の東京電力ホールディングスと中部電力の合計6社を対象に、気候変動対策の強化を求める株主提案を行っている。https://rief-jp.org/ct7/134427?ctid=64

 

 メガバンクの株主総会は、みずほが今月23日、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)とSMBCが同29日に予定している。いずれもNGO株主提案に反対の姿勢を公表している。そこでNGOらは、投資家から提案についての支持を得るため、3メガバンクの気候政策の不十分さを分析した情報を公表した。

 

環境NGOらが投資家向けに作成した3メガバンクの気候政策とIEA、NZBAの方針の比較表(一部)
環境NGOらが投資家向けに作成した3メガバンクの気候政策とIEA、NZBAの方針の比較表(一部)

 

 それによると、メガバンクの気候政策は、石油・ガス、電力、石炭採掘などの炭素集約型セクター向けの投融資で、実質的な脱炭素を推進かつ信頼できる短期・中期目標を欠いていると指摘。基準となる国際エネルギー機関(IEA)の2050年ネットゼロシナリオ(NZE)は「2021年から30年にかけエネルギー部門全体の排出量は39%減少」とし、NZBAでは「2030年まで(またはそれ以前に)セクター別及び/またはポートフォリオ全体の目標を設定しなければならない」とそれぞれ定めている。

 

 これに対して、3メガバンクはいずれも、30年までのポートフォリオ全体での目標がないほか、セクター別では電力・エネルギーセクターの2030年ポートフォリオについて、排出削減目標を融資に限って定めるだけなど、不十分な対応だとしている。

 

 IEAのNZEシナリオでは、石油・ガス事業について「2021年時点で約束された事業を除き、(ネットゼロの)経路では、石油・ガス田の新規開発は承認されるべきではない」としている。しかし、メガバンクは、石油・ガス事業の新規開発・拡張、関連する企業への資金提供を除外する方針は示していない。

 

 電力セクター向けでは、IEAのシナリオは、「2021年以降、石炭火力発電所の新規事業は承認されない」「先進国は2035年までに。世界の国々では、2040年までに、排出削減対策のないすべての石炭火力を段階的に廃止」とし、NZBAでは「収益の5%超を発電活動から得ている顧客企業は、(削減)目標の対象にしなければならない」等としている。

 

 これに対してメガバンクは、石炭火力の拡張を進める企業への資金提供を明確に除外していない。またそろって「2040年までに石炭火力向け与信残高をゼロとする」方針を示しているが、ポートフォリオ排出削減の経路を開示しておらず、有効性が実証されていない脱炭素化技術(CCSやアンモニア混焼等)への支援が可能な体制をとっている、と指摘している。

 

 NGOらはこれまで、メガバンク各社へのエンゲージメント活動で、株主提案での対処・改善を求める懸案を中心に問題提起をした。だが、課題改善や対策強化が図られるとの確信を得られなかった、としている。個別では、「特にMUFGは、石炭採掘の目標設定などで、SMBCグ ループとみずほに遅れをとっている」と評価。石油・ガスセクターの方針や目標では、3メガそろって、シンガ ポールのDBS銀行やOCBC銀行、英国のHSBC等の同業他社に大きく遅れをとっている、とみなしている。

 

 一方、SMBCが公表したトランジションファイナンスの基本指針「Transition Finance Playbook」については、3つの課題を指摘している。①ガス上流を移行活動の例とするが、 これは「新規のガス田は必要ない」とするIEA NZEの結論と対立し、ガス生産を数十年間固定化してしまう②2049年までに水素やアンモニアをガスや石炭火力発電と混焼することを認めるとするが、2035年までに先進国の電力セクターを完全に脱炭素化するIEAと整合しない③借り手の「2050年ネットゼロへのコミットメントの有無」とする要件以外に、顧客の移行計画を評価する基準や方法論を示していない――等だ。

 

 さらにSMBCのトランジションファイナンス方針が、「経産省の政策に過度に依存している」と指摘。「同省の政策自体、科学的根拠に基づくものでも、1.5度目標に対応したものでもない。投資家は、SMBCに対し、経産省のロードマップを盲信するのではなく、独自の評価を行い、それに従った移行リスク管理を行うことで、同社が移行リスク を適切に管理することを求めている、と同方針の見直しを求めている。

https://shareholderaction.asia/wp-content/uploads/2023/06/JP-translation_2023-05-2nd-investor-update-on-JP-banks-proposals.pdf

https://shareholderaction.asia/wp-content/uploads/2023/04/Shared-2023-04_JP_Japanese-banks-investor-briefing.pdf