HOME |温暖化の進展で海氷が減少する北極圏で、餌不足のホッキョクグマが、海鳥の卵の採食行動に。カモの生存にも影響か。生態系に負の連鎖。カナダの研究チームが報告(RIEF) |

温暖化の進展で海氷が減少する北極圏で、餌不足のホッキョクグマが、海鳥の卵の採食行動に。カモの生存にも影響か。生態系に負の連鎖。カナダの研究チームが報告(RIEF)

2021-04-08 20:03:04

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 温暖化の進展が顕著な北極圏で暮らすホッキョクグマが、海氷消失でアザラシ等を捕食しづらくなっていることから、代わりに海鳥の卵まで採食していることが調査で分かった。カナダの研究者たちが論文で発表した。巨漢のホッキョクグマの食欲を満たすには、鳥の卵では不十分だが、海鳥にすれば種の保存の危機につながりかねない状況という。

 

 カナダのウィンザー大学「Great Lakes Institute for Environmental Research」のPatrick M. Jagielski氏らがの研究チームが、カナダの北極圏のミティビック島で、ドローンを使って上空からホッキョクグマの行動をフォローして把握した。

 

 調査地域の周辺では、北極圏一帯に広く生息するケワタガモが夏の間(6月~8月)に産卵のために飛来し、コロニーを形成する。2017年は1500~1700組のつがいが観察されている。最盛期は8000組まで増えたこともあるという。カモたちは地面に巣を作るため、ホッキョクグマにとっては簡単に巣の中の卵を食べることができる。

 

ドローンで把握されたホッキョクグマの海鳥のコロニー”襲撃”の模様
ドローンで把握されたホッキョクグマによる海鳥コロニー”襲撃”の模様

 

 巨体のホッキョクグマが近づいてくると、カモたちはなす術がない。だが、中には、クマが素通りする巣もある。それは巣の卵に鳥がフンをかけて、クマに見つからないように防御行動をとっている場合だ。この事例は、クマが海鳥の卵を捕食する行動がかなり前から行われ、海鳥たちが学習効果で対抗しているといえる。

 

 ホッキョクグマは、通常、海氷に乗ったアザラシを捕食することを主食とする。場合によると、海中のベルーガ等の哺乳類も食べる。そうした狩猟の際には海氷の存在が不可欠。だが、温暖化の進展で北極圏の海氷面積は毎年減少が続く。狩りができなくなったホッキョクグマは、人の住居のゴミを漁ったりしていることが報告されているが、海鳥の卵を捕食している観測結果が報告されたのは初めてだ。

 

  研究チームのPatrick Jagielski氏は「海鳥のコロニーに遅れてやってくるクマは、空っぽの巣を漁ったりするが、体力の消耗を防ぐためか、あまり歩き回らない。本来は、親鳥が突然逃げた後の巣には卵が残っているのだが、そうした鳥の習性を熟知しているわけでもない」と指摘している。鳥のほうは「学習」しているようだが、クマのほうは、卵では腹が満たされないので、十分な学習につながっていないようだ。

 

 Jagielski氏らは、観察でわかったクマの行動として、必要に迫られて本来とは異なる餌を捕食していることから、かなり非効率な採食になっていると指摘している。狙われた海鳥たちは、種の存続の危機に直面しているが、クマも十分には卵を食べられず、一時しのぎに終わっているわけだ。その結果、両方とも生息数を減らすことにつながるとみられている。

 

 2020年に発行されたNature Climate Changeの分析によると、温暖化の進展が現状のペースで進むと、ホッキョクグマは今世紀末には絶滅するとみられている。http://rief-jp.org/ct8/104980?ctid=70

https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsos.210391