HOME |毎年熱波が続くシベリア。土中の永久凍土の融解による含有メタンの流出を確認。CO2より84倍も温室効果係数が高い。1年間で約100ppb(1000万分の1)増。ドイツの研究チーム。(RIEF) |

毎年熱波が続くシベリア。土中の永久凍土の融解による含有メタンの流出を確認。CO2より84倍も温室効果係数が高い。1年間で約100ppb(1000万分の1)増。ドイツの研究チーム。(RIEF)

2021-08-03 17:29:19

Siberia001キャプチャ

   温暖化による熱波の進展で、シベリアの永久凍土が融解し、凍土中に閉じ込められていたメタンが流出していることが確認された。ドイツの研究チームが2020年の熱波による永久凍土への影響を衛星画像を使って分析したところ、大気中への流出を確認したという。メタンはCO2よりも84倍も温室効果が高いことが知られている。永久凍土の融解で大量にメタンが排出されると、温暖化が一気に加速するリスクが現実化する。

 (写真は、シベリアの調査地域。この荒地の下に永久凍土が積み重なっている)

 調査を実施したのはドイツ・ボンのライン・フリードリヒ・ヴィルヘルム(Rhenish Friedrich Wilhelm)大学のNikolaus Froitzheim教授を中心とした研究チーム。 研究成果は科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)」に掲載された。

 昨年夏のシベリアは熱波に襲われて地表温度が基準年(1979年~2000年 )に比べ6℃上昇するという異常事態が続いた。調査チームは、北シベリアの北極海に近い「Taymyr Fold Belt」と「シベリアプラットフォーム」と呼ばれる地域の周縁部の2カ所について、地表周辺の大気の含有物を衛星画像等を使って調べた。両地域とも5億4100万年から2億5190万年前の古生代の地質で石灰岩で構成された岩盤が広がる細長い地域。

調査地点㊧2カ所の細長い地域を分析。㊨は昨年5月と同8月の気温の変化
調査地点㊧2カ所の細長い地域を分析。㊨は昨年5月と同8月の気温の変化

 その結果、「同年夏以来、大気中に明確なメタンの増加がみられた。この増加は夏を越して冬を通しても続いた。土中から一定のメタンが継続的に漏洩しているに違いないと判断している」(Froitzheim教授)。検出されたメタン量は、2020年5月が最大1800ppb(ppb=10億分の1)。地域によって不均質だった。2021年4月10日には1900ppbと、約1年でほぼ100ppb増加している。

 これらの地域の地下では、約700mの厚さで永久凍土が積み重なっているとみられる。それが熱波の影響で地層に亀裂が入り、次第に融解し始めているようだ。研究チームは「現在の漏洩はまだ小規模だが、さらなる調査と監視が緊急に必要だ」と指摘している。

 温暖化係数の高いメタンは、これまでも急速に凍土が溶けて含まれているメタンが大気中に放出されるリスクがあるとして「メタン爆弾(methane bomb)と呼ばれてきた。ただ、過去13万年の間、現在よりも暑さが続いた期間を含めても、北極圏から大量のメタンが融解したことを示す痕跡やデータはほとんどない。

 このため研究チームに参加した米コロンビア大学のGavin Schmidt教授は「現時点で、『メタン爆弾』が生じる状況とは思わない。なぜなら歴史的に、現在の気温よりも高い状況が続いた時期でもそうした事態は起きていないためだ。ただ、気温がさらに上昇し、過去のレベルを超えるようだと、歴史的な類似性だけでは判断できない。現在はまだそのレベルではないと思える」と慎重な見方をしている。

 現在の大気中のメタンの量は、産業革命前に比べて約2.5倍増とされ、引き続き増加基調にある。主な排出源は化石燃料開発のほか牛や羊等の家畜の反芻、稲作の水田、廃棄物の投棄等とされている。永久凍土はこれまでのところ、主要な排出源には含まれていない。

https://www.sciencedaily.com/releases/2021/08/210802160702.htm

https://www.uni-bonn.de/en/news/185-2021