HOME8.温暖化・気候変動 |地球温暖化による海温上昇の影響で、アホウドリの「離婚率」上昇。エサの魚を取るのが困難になってストレスがたまり「夫婦ゲンカ」の可能性。欧州研究チームが観測結果公表(RIEF) |

地球温暖化による海温上昇の影響で、アホウドリの「離婚率」上昇。エサの魚を取るのが困難になってストレスがたまり「夫婦ゲンカ」の可能性。欧州研究チームが観測結果公表(RIEF)

2021-11-28 23:35:51

albertrooussesキャプチャ

  地球上の生き物の中で、もっとも忠実な「一夫一婦制」を習性とすることで知られるアホウドリ(信天翁=Albatrosses)の離婚率が高まっていることがわかった。研究者は地球温暖化の進展によって、海洋の温度上昇が影響している可能性を指摘している。

 

 (写真は、仲睦まじいアホウドリのカップル)

 調査はポルトガル・リスボン大学のFrancesco Ventura氏らのチームが2003年以来、大西洋のフォークランド諸島のニューランド島に生息するアホウドリを対象として実施してきた。研究結果は英国のRoyal Societyのサイトに掲載された。

   対象としたアホウドリは「マユグロアホウドリ(black-browed albatross)」。巣で産卵するペア1万5500組を、15年以上観察を続けた。同種のアホウドリのペアが産卵後、別の生息場所を求めてペアを解消する比率は一般的に1~3%と低い。しかし、調査期間を通じて、暖かい年が続き、海洋の平均温度の上昇が続くと、カップル解消率(離婚率)が8%にまで高まることが確認された。

 海温が上昇すると、カップルを解消するペアが増えるのは、エサの獲得と関係する。それまでの海温に適した魚類が移動してしまい、海鳥にとってエサを得ることが困難な環境に変化する。その結果、通常、エサを集めてくる役割の雄のアホウドリが、十分にエサを得ることができなくなり、孵化したひな鳥の生存率も低下する。

エサの魚をくわえて、巣に向かうアホウドリ
エサの魚をくわえて、巣に向かうアホウドリ

 研究チームのVentura氏は、海温上昇がエサの魚不足を経て、アホウドリの「離婚率」の増加に有意の影響を与えるメカニズムとして二つの可能性を指摘している。

 一つは、海温上昇の影響でアホウドリがエサをとるために飛ぶ時間が増るほか、従来よりも遠くまで飛ばねばならなくなることの影響だ。遠くまで飛んで行ってしまい、産卵シーズンに、産卵地に戻ってくることに失敗する鳥が出てくる。そうなると、従来のペアを組めずに「離婚」し、戻ってきた鳥は、別の鳥とペアを組むケースが考えられる。

 もう一つの理由は、海温度上昇とエサ不足という環境悪化の影響で、アホウドリのストレスホルモンが増大し、ペアがそれぞれ相手に文句を言う「夫婦ゲンカ」を繰り返して「離婚」するケースだ。Ventura氏はこのうち、後者の可能性の方が高いとみている。「巣でひなを育てている雌はストレスホルモンの影響で、オスがエサを運んで帰るパフォーマンスの低下を非難すると考えられる」としている。

 何やら、身につまされる話でもある。一生懸命、エサを探して広い海原を飛び回って、何とかエサを集めて戻ってきたら、待っていた「奥方」から、「あんた、何よ。こんなに少しじゃ、とってもやっていけないじゃないの。もっと稼いでから戻ってきてよ」と怒られるわけだ。

 一方の雄のアホウドリの方も、ストレスホルモンがたまっている。へとへとになってやっと巣に戻ってきたのに、「奥方」にどやされて、「やってられへ~ん」と、ふてて飛び立ってしまうことになる。Ventura氏によると、アホウドリは離婚すると、通常でも、ひな鳥の生育再生産が困難になる。

 こうした離婚率増大が続いていることの結果として、ひな鳥の生育に影響が出ている。フォークランドだけでなく、大西洋、太平洋等に生息するアホウドリの個体数は、2005年以降、毎年5~10%の比率で減少しているという。個体数の減少は海温上昇によるエサ不足のほか、人間によるマグロ釣り船の増大で、釣り糸に巻き込まれて死ぬ事例の増加も影響している。

 個体数の減少傾向が続くことで、カップルの編成にも影響が出ている。ニュージーランドの保護局の主任科学アドバイザーのGraeme Elliot氏によると、太平洋の生息地では、雄同士のカップルが出現しているという。雄同士のカップルは、繁殖期にメスを見つけられないために起きるもので、ペアのうち数%の確率で起きているという。こうした現象も以前にはなかった新しい傾向だ。

 北西太平洋に生息していたアホウドリは、明治時代以降に、日本の漁民等によって、羽毛採取のために乱獲され、第二次大戦後にいったん絶滅した。その後、ごく少数が再発見され、保護活動の結果、今では相当数にまで回復している。しかし、今回の調査で人の経済活動による温室効果ガス排出量の増大が、海温上昇の形で、再びアホウドリの生存を危機に導いているといえる。今回はアホウドリだけでなく、すべての海鳥が人類の行動によって影響を受けているわけだ。

https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2021.2112

https://www.bbc.com/news/newsbeat-59401921