HOME |PM2.5やNO2等の大気汚染物質による健康影響、年間死者180万人、小児喘息等は200万人に。気候政策と大気管理政策の連携、グローバルに必要。「Lancet」が研究論文を特集(RIEF) |

PM2.5やNO2等の大気汚染物質による健康影響、年間死者180万人、小児喘息等は200万人に。気候政策と大気管理政策の連携、グローバルに必要。「Lancet」が研究論文を特集(RIEF)

2022-01-07 22:42:40

Lancetキャプチャ

 

  企業活動や自動車の走行等から排出される大気汚染物質の影響は、CO2だけではない。世界全体では、粒子状物質(PM)や二酸化窒素(NO2)等の影響で、年間約180万人が死亡し、200万人が喘息に陥っているとの研究結果が、医学メディアとして権威のある 「Lancet Planetary Health journal」に公表された。PM2.5の影響を受けている人は世界で25億人に達し、その86%は都市部の居住者という。研究者らは、温暖化対策と大気管理政策の共通化の必要性を求めている。

 

 「Lancet」の2022年1月号(6日発行)は 大気汚染による健康影響を特集。4本の最新論文を紹介した。まず米ジョージワシントン大学のVeronica Southerland氏らによる世界の1万3000以上の都市を対象としたPM2.5の研究だ。それによると、2000年から2019年にかけ、世界各地域の平均PM2.5濃度は低下した。しかし都市部ではかなりの異種が検出され、都市住民25億人の約86%がWHOのPM2.5の年間ガイドライン(10 μg/m3)を上回る暴露を受けていることがわかった。

 

 その結果、2019年時点で180万人以上の死亡につながった。興味深いのは、アフリカや欧州、南北アメリカ等でのPM2.5濃度は18%~29%の改善を見せたが、必ずしもそうした濃度改善に見合う死亡率の低下が起きていない点だ。地域での人口増の大きさと、年齢構成の変化(高齢化)、罹患率等が影響し、死亡率が逆に高まった地域もあるという。

 

 研究者らは、これらの要因として、年齢層の変化等に加えて、大気汚染による非感染性疾患(NCDs: Non-communicable diseases)としての、がん、糖尿病、循環器疾患、呼吸器疾患、メンタルヘルス等の慢性疾患の増加したことが考えられるとしている。

 

 同じジョージワシントン大学のSusan Anenberg氏らはNO2汚染と、小児喘息の分布を、同じく世界の都市、1万3000超を対象に、2000~2019年の変化を調べた。それによると、2019年でNO2を原因とする新規の小児喘息は185万人に上った。特に都市部に集中している。同年の新規の小児喘息全体の16%はNO2の影響が大きいとしている。調査期間中のNO2濃度は安定的だが、子ども10万人当たりの罹患率は11%減った。これは、患者数が減ったのではなく、分母となる都市部の人口増の影響が大きい。

 

 大気管理政策が効率的に展開されれば、多くの地域で子供の呼吸器疾患の改善が見込める。だが、現状のNO2濃度のレベルでは、そうした政策の展開が遅れており、引き続き小児喘息の発生につながっているとしている。

 

 イタリアの Lazio Region Health Serviceに所属するMassimo Stafoggia氏らのチームは、安全とされる大気汚染物質の低レベルでも長期にわたる暴露下では健康に悪影響が生じることを検証した。彼らは、PM2.5やNO2のほか、石炭火力発電所等から排出される温暖化効果を持つ微小粒子(エアロゾル)成分のブラックカーボン、オゾン(O3)の4物質について、非常に低いレベルの大気汚染が長期間続いた場合の影響を、英国、イタリア、デンマーク等の欧州7カ国で実施した。

 

 その結果、各国のPM2.5とNO2の長期暴露は、欧州の年間制限量や米環境保護庁(EPA)の基準も、WHOの大気品質ガイドライン等を十分に下回っていた。だが、これらの物質の低レベル暴露は、7カ国の死亡率に関連していることが示されたとしている。これらから、化石燃料発電所等が温室効果ガスの排出とともに、大気汚染物質を継続して排出しており、気候変動政策と大気汚染政策は多くのつながりがあると指摘。気候政策の推進が大気汚染削減を通じて、人の健康に対するコベネフィットを生み出すとしている。

 

 European Institute on Economics and the Environment (EIEE)のLara Aleluia Reis氏らは、気候政策に大気汚染による健康への経済的インパクトを内部化するモデルを検証した。気候政策と大気汚染政策の最適ポリシーミックスを探るものだ。それによると、気候政策に、大気汚染の経済的インパクトを考慮することで、2050年までに162万人の命を救うことができると試算した。これは、気候政策だけの場合より、3倍のコベネフィットが期待されるとしている。

 

 Reis氏らは、たとえ野心的な脱炭素政策が実施されている場合でも、同時に、大気管理政策の実施が必要としている。大気管理政策と気候政策の共通化は気候政策の目標を危うくするものではなく、大気汚染インパクトが内部化されると、グローバルベースでも地域ベースでも、人々の生活の質の改善等の利益が広がる。グローバルに問題化している格差の増大や不平等の拡大にもマイナスにはならないとしている。

 

 気候政策の立案と実践効果のギャップが著しいわが国では、気候政策自体が「脆弱」なので、大気管理政策との融合・連携を探る余裕はないかもしれない。

https://www.thelancet.com/action/showPdf?pii=S2542-5196%2821%2900357-0