11月にUAEで開く国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議（COP28）の議長にアブダビ国営石油会社CEOのジャーベル氏が就任。「化石燃料」から「移行の人」になれるか（RIEF）
2023-01-12 22:21:35
今年11月にアラブ首長国連邦（UAE）のドバイで開く国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議（COP28）の議長に、同国の産業先端技術相でかつ、アブダビ国営石油会社（ADNOC）のCEOを務めるスルターン・アル・ジャーベル氏が就任する。同氏はUAE最大の石油会社トップであると同時に、長年、同国の気候特使も務めてきた。環境NGOは地球温暖化に対処するCOPの議長に、化石燃料ビジネスを牽引する人物が就任することに強い反発を示している。同氏は石油増産の旗を振る一方で、CCSの開発やグリーン水素事業等にも力を入れている。化石燃料への依存を踏まえつつ、脱炭素のエネルギー社会への「トランジション（移行）」を目指す「移行の人」ということか。
同国の国営通信が12日に伝えた。同氏は49歳の若さで、ADNOCのCEOを務めるほか、同国の閣僚として政治分野でも活躍している。まだダボスの世界経済フォーラムの常連でもあり、UAEのみならず、湾岸諸国の次世代リーダーの一人と目されている人物だ。
ADNOCの経営者としては、同国産の石油開発を2016年時点の日量300万バレルから、2030年には倍近い500万バレルに増産する計画を立案、着実に推進している。一方で、同国の気候変動特使を長年務め、過去10回以上、COP会議に参加した経験もある。
同氏の気候分野での見識は付け焼刃でもない。2009年には当時の国連事務総長の潘基文氏から、同氏主導の「エネルギーと気候変動のアドバイザリーグループ（AGECC）」のメンバーに選出された。その成果としての勧告は、2011年に始まった「Sustainable Energy for All Initiative」を始動させることにつながった。
同2009年、UAEの国営再エネ企業であるマスダール（Madar）のCEO（現在は会長）として、国連の国際再生可能エネルギー機関（ARENA）本部の同国への誘致に成功している。ADNOCのCEOとして石油増産を臆面もなく掲げながら、CCS、グリーン水素、再エネ事業と、脱炭素化に向けたエネルギー転換の主要事業・技術に資金を投じ、それらの実証化で他の国とも競う機動力を発揮してきた。
今回のCOP28の議長就任に際して、ジャーベル氏は「UAEは、実用的で現実的で、解決志向のアプローチをCOP会議にもたらすだろう。気候と、低炭素の経済成長を進化させ、すべてのステークホルダーを巻き込む包摂的（inclusive）なアプローチをとる」等の抱負を語った。
UAEをはじめとする湾岸産油国諸国の気候対策のスタンスは、同氏が強調する「現実的なエネルギー転換（realistic energy transition）」で共通する。脱炭素化にコミットをしながら、石油やガス等の化石燃料資源を引き続きエネルギー安全保障を確保する役割として継続するという位置づけだ。その転換の期間は保有する化石燃料資源が枯渇するまで並行して続くことになり、気候変動の激化に耐えられなくなるリスクを抱えている。
「石油・ガスも、再エネ、水素も」というジャーベル氏のスタンスは、誰にとっての「現実的エネルギー転換」かとなると、明らかに産油国にとって、なのだ。ジャーベル氏の議長就任は、ロシアのウクライナ侵攻の長期化で、エネルギー安全保障への志向が高まり、気候変動よりも目先の石油・ガスの確保を優先する風潮とも重なって「気候クライシス」を加速させる懸念を深める要因にもなりそうだ。
環境NGOの国際気候行動ネットワーク（CAN）は「気候危機の原因となっている産業のトップが、気候危機を話し合う会議の議長を務めることは利益相反にあたる。産油国の国営石油会社とその仲間の化石燃料ロビイストに国連の気候会議が乗っ取られることに等しい」と痛烈に批判している。同団体のTasneem Essop氏は「彼がCOP議長を務めるなら、ADNOCのCEOの座を辞すべきだ。気候危機自体に責任のある産業を率いる人物が、気候危機に対処する会議を仕切ることはできない」と指摘している。
Research Institute for Environmental Finance