HOME8.温暖化・気候変動 |地球温暖化の加速で、地球全体の森林限界帯が上方にシフト。年間平均1.2mのペース。熱帯地方では3.1mにも。森林増加でCO2吸収増も、生態系の影響増大。中英研究チームが分析(RIEF) |

地球温暖化の加速で、地球全体の森林限界帯が上方にシフト。年間平均1.2mのペース。熱帯地方では3.1mにも。森林増加でCO2吸収増も、生態系の影響増大。中英研究チームが分析(RIEF)

2023-08-22 00:08:39

treeline001キャプチャ

(写真は、森林限界帯を超えた地域:奥秩父・金峰山=wikipediaから)

 温暖化の影響は地球上の至る所に表れているが、山間部の森林限界帯が世界中の山々で上昇していることが、衛星を使った観測データの分析でわかった。中国と英国の研究チームによる調査報告書によると、対象とした世界の243の山々の森林限界帯の約70%で、従来より、より高度な地帯に森林限界が上昇していることが観測された。2000年から2010年までの10年間では年平均1.2mの上昇で、特に熱帯地方で年3.1mと大きい。温暖化の影響で、従来は木々が育たなかった高地でも木が成長できるようになっている一方で、生態系の急激な改変につながっているといえる。

 調査は、中国深圳市の南方科技大学(Southern University of Science and Technology)所属のXinyue He氏や、英リード大学Dominick V. Spracklen氏らで構成する研究チームが実施した。その成果をオンラインライブラリーのGlobal Change Biologyで公表した。

 対象とした森林限界ラインは亜高山帯に相当する植生の地域。世界の243の山々を対象とした。それらの総延長距離は合計で91万6425km。地球の周囲の約23周分に相当する。研究チームは衛星のリモートセンシングデータを活用して、各森林限界帯の10年間の変動状況を精査した。

各地での森林限界の変動ぶり
各地での森林限界の変動ぶり

 

 その結果、対象とした森林限界帯の約70%が2000年から2010年の間に上方にシフトし、その変動率は年平均1.2m。熱帯地方の場合は、平均の2.6倍近い上昇で年平均3.1mだった。元々、気温の高い熱帯地方で温度が継続的に上昇する影響で、森林限界帯の上方への拡大がより明瞭になっているわけだ。さらに、全地域を通じて、10年の間の上昇率ピッチが毎年、加速していることも観測されたという。

 森林限界帯は、時に人間による土地利用の変動等によって変わることもある。しかし、今回の調査では、人間活動の影響をほとんど排除した循環型の「Closed-loop mountain treelines(CLMT)」にフォーカスしており、人間の手による植林等の影響は排除されている。むしろ、森林限界帯の上昇を生み出す気温上昇は、人間の経済活動による影響を受けている。

 研究チームは、森林限界帯は2010年以降も、引き続き上方に変動を続けているという。ただ森林限界帯の上方シフトによってどのような影響が周辺環境に及ぼすかはまだ明確ではない。森林限界帯が上方にシフトすると高山地帯での森林量が増えるため、その分、森林によるCO2の吸収源が増えることは考えられる。また森林に生息する生態系もその分、増大するといえる。

 一方で、森林限界帯が増える分、亜高山帯の上の高山ツンドラ地帯(もしくはハイマツ地帯)が減少することになり、同地帯の植生の変化や生態系損失の影響も起きることになる。報告書は「今回の調査結果は、気候変動による生物多様性、自然資源、エコシステムの適応等にとって重要な意味を持つ」と強調している。

 同様の調査は、2020年11月に日本の新潟大佐渡自然共生科学センターの崎尾均教授(森林生態学)と静岡大防災総合センターの増沢武弘客員教授が共同研究としても報告している。同研究では、富士山において、樹木が生育できる境界線となる5合目付近の森林限界が、最近40年で上昇していることが確認されている。

 

 富士山の5合目付近の森林限界帯のカラマツ林の上端部が、40年前に比べ、斜面上で約30m上方に移動し、付近の個体数も増えていた。また、地面をはうようにテーブル状に生えていたカラマツが、直立して生えるようになっていることも確認されたとしている。https://digital.asahi.com/articles/ASND35T1SND3UOHB00L.html

 

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/gcb.16885