HOME8.温暖化・気候変動 |米海洋大気局(NOAA)。世界の海面の平均値が過去30年で約10cm上昇と公表。地域によって15cm強の上昇も。日本周辺の上昇は平均以上。年次気候レポートで公表(RIEF) |

米海洋大気局(NOAA)。世界の海面の平均値が過去30年で約10cm上昇と公表。地域によって15cm強の上昇も。日本周辺の上昇は平均以上。年次気候レポートで公表(RIEF)

2023-09-13 01:31:59

NOAA001キャプチャ

写真下のグラフは、1991~2020年の平均気温を過去1900年~2022年の気温と比較した推移=NOAA)

 

  米海洋大気局(NOAA)は世界60カ国の570人以上の科学者と連携した最新の年次気候レポートで、2022年の大気中の温室効果ガス(GHG)のグローバル年間平均濃度が417.1ppmと過去最高を更新したほか、世界中の海面の平均値は、過去30年間で約10cm(101.2mm)上昇したと発表した。日本周辺の海面は平均以上の上昇という。大気中の気温は今夏がエルニーニョ現象の影響もあり、過去最高気温となったのとは対照的に、22年は東太平洋の赤道付近の気温が低下するラニーニャ現象の影響で、過去6番目の気温だった。ただ、海面から2000mまでの海温は過去最高の水準となり、22年の陸上の気温も過去のラニーニャ発生年では最も高い水準だった。

 

 気温や海面上昇等のデータは、衛星からの高度計観測による5つのデータを総合した。2022年一年間の平均海面上昇は3.4±0.4mm。年間の上昇率では過去11番目となる。しかし累積の海面上昇は確実に高まっている。海面上昇は、地形や海流等の自然要因による影響のほか、温暖化の進行による氷河等の融解の進行等が複合的に影響しているとみられる。

 

 1993年以来、22年までの世界全体の海面上昇の平均値は101.2mm(約10cm)となった。上昇の度合いは地球上の各地のて地形、海流等の変化の度合いによってかなりの差がある。22年の海面の変異(anomalies)の観測では、西太平洋や東インド洋での海面は、通常より15cm以上高く、ハワイ等の北東太平洋では、逆に通常よりも5cmほど低くなった。南北両半球の緯度30°~60°の中緯度地域(日本を含む)でも、ところにより、15cmを超える変異を記録した。

 

過去30年間の海面上昇の推移
過去30年間の海面上昇の推移。上図は6つの観測データの推移。下図は、海面上昇の高い地域(日本は北太平洋と南西太平洋の「濃茶地域」に挟まれている)

 

 これらの海面の変異には2020年から22年にかけてのラニーニャの影響も反映しているとみられる。海流の影響も大きい。黒潮蛇行の影響を受ける日本を含む太平洋地域や、大西洋の米大陸沿いのメキシコ湾岸海流沿い等での海面には、その影響が顕著に表れていると指摘している。これらのうちでも、東日本や北大西洋等の地域では、中程度の海流活動の影響で海面変異の影響が減じられる等の逆の影響も小規模に起きている。

 

 海面上昇の影響は、ラニーニャや海流等の自然の変動による影響と、人類の活動による温室効果ガス(GHG)排出量増大がもたらす地球温暖化の影響で、圏域等での海氷や氷河の融解が進む人為的要因とが相互に合わさって起きているとみられる。そのスピードは、GHG排出増加が止まらず、22年の大気中GHG濃度が過去最高値に達したように、人為的要因の加速化で進んでいる。

 

 海面の変異は、海が面する陸上に対して測られるので、陸上地域での社会的インパクトも影響する。地震による地域での地殻変動によって衛星観測のデータが異なる影響も起きるとして、その事例に日本をあげている。またアラスカ等の氷河に覆われている地域の海面は、氷河性地殻均衡の影響を受けて変化する。

 

2022年の世界全体の海面上昇の分布
2022年の世界全体の海面上昇の分布

 

 22年に記録した大気中GHG濃度の417.1ppmは産業革命前の水準からすでに50%以上、増えている。前年比では1.4ppmのアップ。過去80万年でもっとも高いCO2濃度の水準だ。CO2以外の温暖化ガスも上昇を続けている。CO2より温暖化係数の高いメタンは、産業革命前から165%増で、前年より14ppb増、一酸化窒素(NO)も前年より1.3ppb。

 

 22年の気温上昇は西欧諸国を襲った。西欧全体では7月に14日連続で熱波が襲来。英国で史上初の気温40℃を記録したほか、フランスでは100以上の観測所で史上最高値を記録、少なくとも他の西欧6カ国でも同様の高気温が続いた。欧州での高温継続の影響で欧州アルプスの氷河の融解が進行、スイスでは22年だけで氷河の量が6%減少したとされる。中国の長江流域では干害によって3800万人以上が影響を受け、経済的損失は475億㌦に達した。

 

 同年の陸上の平均気温の上昇は1991~2020年平均に比べ、0.25~0.30℃の上昇。1800年代からの記録では、6番目の高さだった。夏の熱波襲来の後、年間平均にするとそれほど上昇しなかったのは、前述のようにラニーニョによる低温化の影響が大きい。それでも22年は過去にラニーニョの影響が表れた年の中では、もっとも高温の年となっており、自然現象よりも人為による温暖化現象の影響が次第に高まっていることを示している。

 

 北極圏の気温は過去123年の記録では5番目の高さとなった。気温異常としてはグローバル平均値よりも北極圏の異常値のほうが高い状態が、11年連続で続いている。地球全体での異常気象が北極圏では一段と増幅される現象が恒常化しているわけだ。 その結果、夏場の北極海の海氷の面積の縮小が続いているほか、北極圏では雪の代わりに降雨が増えている。22年の降雨量は1950年以来で過去3番目に多かった。冬場を含めて、「氷の北極」よりも「湿った北極」に転じているという。

 2023年に入って、6月には海面の気温が上昇するエルニーニョ現象が発生しており、この夏は地球全体で6~8月と3カ月連続で過去最高気温を記録した。年間を通じても過去最高の気温になる可能性が高い。また22年中のグローバルな海面の過半の58%では、少なくとも一度以上の海洋熱波が記録されたが、23年の海温の上昇も一段と進みそうだ。海洋は大気中のGHG増大によって生じる過剰エネルギーの90%以上を吸収する効果を発揮するが、陸上での熱波やCO2増大の影響で、海面から2000mの深さまでの海洋の熱量は過去最高レベルに増大しているという。

 

 海洋は、もう堪えきれなくなりつつあるのかもしれない。

 

https://www.noaa.gov/news-release/international-report-confirms-record-high-greenhouse-gases-global-sea-levels-in-2022

https://www.ametsoc.org/index.cfm/ams/publications/bulletin-of-the-american-meteorological-society-bams/state-of-the-climate/