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エネ生産の水消費、25年で倍増の予測 石炭火力増加とバイオ燃料増産が主因(National Geographic)

2013-02-05 16:15:23

ドイツ東部、イェンシュワルデの石炭火力発電所。IEAがまとめたレポートによると、世界的な石炭火力発電所の増設ラッシュで、2035年には最も水資源を圧迫するエネルギー分野になるという。
ドイツ東部、イェンシュワルデの石炭火力発電所。IEAがまとめたレポートによると、世界的な石炭火力発電所の増設ラッシュで、2035年には最も水資源を圧迫するエネルギー分野になるという。
ドイツ東部、イェンシュワルデの石炭火力発電所。IEAがまとめたレポートによると、世界的な石炭火力発電所の増設ラッシュで、2035年には最も水資源を圧迫するエネルギー分野になるという。


国際エネルギー機関(IEA)の調査によると、世界のエネルギー生産で消費される水資源の量が、今後25年以内に倍増する見込みだという。最近は、大量の水を地下の岩石層に送り込んで人工的に割れ目を作り、天然ガスや石油を抽出する新技術、水圧破砕法(フラッキング)が何かと話題に上ることが増えている。しかしIEAは、フラッキングによる水資源消費量の増加は、比較的小さいとの予測を立てている。

 IEAの見立てによると、今後は特に石炭火力発電とバイオ燃料生産の増大により、水資源が大きく圧迫されることになるという。現行の政策を続けた場合、2035年には、エネルギー生産に必要な水資源の年間消費量は、現在の660億立方メートルから1350億立方メートルに倍増すると予測されている。

 この量はアメリカ国民全員の3年分の家庭消費に匹敵する。ミシシッピ川の流量に当てはめれば90日間分、同国最大の人造湖であるミード湖の貯水量の4倍に相当する。

 半分以上は石炭採掘と石炭火力発電所が、30%はバイオ燃料生産で消費されることとなる。一方、同じ2035年時点では、世界のエネルギー分野における水資源消費のうち、石油・天然ガス生産で消費される量は10%にすぎないとの見通しが立てられている。

 パリに拠点を置くIEAのこの予測には反論もある。バイオ燃料業界は、エタノール分野での現在の消費量が過大評価されている点と、消費量を減らすための新技術の効果が無視されていると指摘している。しかし昨今では、政府機関や研究機関も、エネルギー生産における水資源への依存度が高まっていることを示すデータを提出している。非常に気掛かりな傾向で、国連の推測によると、2025年には18億人が深刻な水不足に陥り、世界人口の3分の2がその一歩手前の生活を余儀なくされる可能性があるという。

「エネルギーと水資源は切っても切れない関係にある」と、世界水資源方針計画(Global Water Policy Project)を率いるサンドラ・ポステル(Sandra Postel)氏は言う。「水資源供給には多大なエネルギーが必要だが、エネルギー供給にも多大な水資源が必要になる。各国の政策立案者は、水資源に依存したエネルギー政策から脱却しなければならない」。

◆石炭火力発電の問題

 IEAの指摘によると、蒸気でタービンを回す石炭火力では例外なく多大な水資源が必要になるが、脱硫装置などより高度な技術の導入が進み増設ラッシュが続くと、実際には水資源の消費量増大につながるという。こうした新型発電所は、環境面に関してはいくつかメリットがあり、河川などの水域に排出される熱水量がはるかに少ないため、水界生態系は保護される。だが数が増えれば、蒸発を利用した冷却プロセスで膨大な量の水が消費されてしまうことには変わりがない。

 同じように蒸気タービンを使用する原子力発電所にも、水資源の消費に関する問題は当てはまる。しかし原発は、はるかに数が少なく、その発電量が現在の世界の電力需要に占める割合は13%ほどにすぎない。また、現在の傾向に変化がない限り、2035年にはこの割合は10%程度まで低下する。一方、石炭火力発電は「あらゆる発電の中核を担っている」とIEAは指摘しており、世界の電力需要に占める割合は41%に上る。世界の電力需要自体も2035年には90%増加する見込みだ。現在の世界の水資源消費量に占める割合については、原発はわずか5%に留まっており、今後3%まで低下するとみられている。

 こうした問題を考慮すると、発電に必要な水資源消費量を抑えるために最も確実な方法は、代替燃料への転換だとIEAは指摘する。再生可能エネルギーは非常に大きな可能性を秘めている。風力発電や太陽光発電では、水資源の消費量は最小限で済むため、エネルギー生産用に消費される水資源量のうち、この分野が占める割合は今後も1%未満に留まるとみられている。

◆バイオ燃料の問題

 石炭火力発電に次いで、バイオ燃料も水資源を大きく圧迫するエネルギー分野になると目されている。IEAは、バイオ燃料生産が消費する水資源の量は2035年には約242%増加する(年間120億立方メートルから410億立方メートル)と推測している。

 バイオ燃料は、そのエネルギー効率の低さを考慮すると水資源消費の問題が特に大きくなるという。その根拠の一端は、一般的にエタノールの1ガロンあたりのエネルギー量が石油燃料に比べて小さいことにある。現在、エタノールやバイオディーゼルといったバイオ燃料の生産に使用される水資源量は、“一次エネルギー生産(燃料生産)”で消費される水資源全体の50%以上を占めている。さらに2035年には、その割合は72%まで膨れ上がるという。しかしそのエネルギー量は、乗用車やトラック、船舶、航空機の燃料源のうち3%未満に留まる。現行の方針では2035年まで待っても、バイオ燃料は世界の輸送機関のエネルギー需要のうち、5%ほどとIEAは推測している。

◆貴重な水資源に対する注意喚起

「昨今では、シェールガス生産に使用される水資源ばかりが注目を浴びている。確かにその量は膨大だが、そうした論調には、他のエネルギー分野との比較という観点が抜け落ちている」とIEAのエネルギーアナリスト、マシュー・フランク(Matthew Frank)氏は言う。「単位あたりのエネルギー量で見れば、バイオ燃料など、はるかに膨大な量の水資源を消費するエネルギーがほかにもある」。

 前述のポステル氏は、IEAのデータにはポジティブな面もあり、代替策を模索する取り組みに対する支援が強化され、エネルギー節約の意識が高まる契機になる可能性もあると見ている。「エネルギー効率の高度化にはまだ余地が残されている。実現すれば、水資源の圧迫と気候変動を抑制する効果があるだろう。水とエネルギーは密接に絡み合っており、双方にとってメリットのある手立てを講じなければならない。省エネルギーは水の節約につながると理解して欲しい」。

http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20130204001