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原発が抱える「温暖化リスク」。海面上昇、浸水リスク、冷却水温度上昇・・・多様に積み上がる。すでに一部は顕在化(RIEF)

2015-12-30 01:38:16

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 国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)の合意で、国際エネルギー機関(IEA)などは、クリーンエネルギーとして再生可能エネルギーとともに、原発の推進をあげている。だが、温暖化の影響で原発リスクが増大する点を見過ごせない。

 

  原発は操業中にCO2を排出しないことから、国際エネルギー機関(IEA)などでも再生可能エネルギー発電等と並んでクリーンエネルギー扱いにしている。実際、2030年に排出量をピークアウトする公約を掲げた中国は、再エネ事業の拡大とともに、今後5年の間、毎年6-8基の新規原発建設を続ける方針を掲げている。

 

 しかし、原発は安全運転を持続させるためには膨大な冷却水を必要とする。このため、わが国でも、原発は海水を冷却水に利用するため沿岸部に建設されることが大半だ。米欧では河川、湖に面したサイトに建設されるケースも多い。冷却作業は、操業中だけでなく、操業段階が終わって廃炉作業を続ける間も、原子炉の熱を冷ますため、長期にわたって海洋依存が続くことになる。

 

 この冷却水を求めて沿岸部に集中する原発の立地構造が、温暖化の影響による海面上昇、気候変動激化による建屋への浸水リスク上昇を招来する可能性がある。東京電力福島第一原発事故でも明瞭なように、海水が原子炉に浸入すると、冷却装置を稼動させる電力を喪失するリスクが顕在化する。

 

 福島原発の場合、電源喪失によって3つの原発の原子炉が部分溶融し、放射性物質が大量に大気中と海洋に放出された。現在も、その放出は完全にはコントロールされていない。日本だけではない。2013年には英国でも豪雨によって防波堤が決壊、二基の原発が停止(その後復旧)する事態が起きている。

 

 “原発大国”米国では現在、100基の原発が稼働している。米政府の推計に基づくと、COP21の合意目標である世界の気温上昇が産業革命以前からの2℃未満に抑制された場合でも、少なくとも米国内の13の原発が海面上昇で水没リスクにさらされるという。

 

 また、効果的な温暖化対策を打ち出せず、気温が4℃まで上昇する事態に陥ると、さらに12の原発サイトが影響を被るリスクが高まる。つまり現在稼働中の米原発の4分の1は潜在的な「温暖化リスク」を抱えていることになる。

 

 わが国でも中部電力の浜岡原発が、優に3000億円を超える追加津波対策の一環として、総延長1.6kmにわたる高さ22m(海抜)の防潮堤を建設した。しかし、沿岸部の原発には津波リスクだけでなく、温暖化リスクもあると考えると、より高い防潮堤を建設するか、浸水リスクを前提としたバックアップ装置の複数化等の原発リスクマネジメントの見直しが必要になってくる。

 

 温暖化の影響は海面上昇だけではない。より頻繁に起きうるのは豪雨による浸水リスクだ。今年春から福島第一原発の1~4号機近くを通る「K排水路」で再三にわたって地下水があふれ、放射性物質を含む汚染水が海洋流出する出来事が起きた。原因は、東電が設置した仮設ポンプの排水能力を上回る降雨量が何度も降ったためだった。ゲリラ豪雨対応も、原発の盲点の一つだ。

 

 米国では反原発NGOなどは、原子力規制委員会(NRC)の温暖化対応の遅れを再三、指摘している。National Geographic誌によると、スタンフォード大学は、米東部のニュージャージー州などにある4原発を調査した結果、ハリケーン来襲や海面上昇リスクへの脆弱性が顕著で、リスクを防ぐためには、より高い防潮堤を建設する必要がある、と警告した。

 

 「温暖化リスク」が高いとして、名指しされたのは、ニュージャージー州のサレム、ホープクリーク、コネティカット州のミルストーン、ニューハンプシャー州のシーブルックの各原発だ。

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 NRCは現在、二つの新しい安全面でのルールの改定作業を進めている。一つは、福島事故を踏まえた安全対策。もう一つは廃炉に関する新たな基準である。前者については、非常時に際して原子炉の冷却が妨げられない対策を求める内容で、2016年末にまとめられる予定だ。想定される対策として、可動式のバックアップ電源、蓄電設備、追加電源装置などがあがっている。

 

 すでに、コネチカット州のミルストーン原発(電力会社ドミニオン)は、可動式の洪水ゲート、耐水ドアを装備した。また、各原発施設の機器類を共通化し、万一、トラブルが起きた場合に取替えが容易なように互換性を高める工夫を取り入れたという。

 

 だが、温暖化による原発への影響は、海面上昇や豪雨以外にもある。ミルストーンを操業するドミニオン社によると、原発に冷却水として取り入れる海水温度上昇の影響が無視できないという。2012年に、同原発サイトの一基が一時的に停止した。その理由は、立地する湾内の海水温度が華氏75度(23.9℃)を上回ったためだった。冷却水温度の上昇問題は米国だけの問題ではない。

 

 今年8月に再稼働した九州電力川内原発の周辺海域の温度は、夏場には25℃から30℃近くにも上昇、冬でも20℃前後で推移する。冷却水がその効果を十分に果たせないと、原発稼働率は低下、発電コストは上昇する。温暖化で農作物等の栽培適地が変化するように、原発立地の「適地」も変化するようだ。ここでも温暖化の影響はすでに起きていることがわかる。

 

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 ドミニオン社の担当者は、「ミルストーン原発の場合、冷却水の温度上昇はすでに起きており、海面上昇問題よりも深刻だ」と指摘している。一定の操業期間を経た原発は、廃炉になる可能性が高いため、海面上昇問題が顕在化する前に、操業停止になる場合がある。

 

 しかしその場合でも、使用済燃料をサイトに保管していると、放射性物質の流出リスクは継続する。米国の電力会社は大半が原発サイトに燃料を保管し、独立した使用済燃料貯蔵施設を設置する場合も少なくない。そのため使用済燃料の保管期間が長いと、気候変動等による損傷リスクを負うことになる。

 

 放射性物質の半減期はセシウム137が30年だが、ラジウム226は1600年、プルトニウム236は2万4000年に及ぶ。

 

 使用済燃料はプールに保管して時間をかけてクールダウンする際、福島原発で実際に起きたように、電源喪失リスクが常につきまとう。そのため乾式の金属キャスクへの移管が望ましい。ただ、キャスク保管も万能ではない。海面上昇でキャスクごと水没した場合、海水による腐食からは逃れられない。

 

 IEAや各国の原子力規制当局は、「原発のCO2排出量がゼロ」という一面だけで、原発と温暖化の関係を語るのではなく、温暖化で原発がどれほどの影響を被るのか、そのコストはどれくらいかを、しっかりと推計し、国民に示す必要がある。

 

 参考情報:http://news.nationalgeographic.com/energy/2015/12/151215-as-sea-levels-rise-are-coastal-nuclear-plants-ready/#.VoDTLVswfQ8.twitter