石炭火力発電等の化石燃料焼却による大気汚染で、世界中で年450万人が早死。経済的損失額は一日80億㌦、年2兆9000億㌦(約320兆円)。日本の損失も14兆円強。環境NGOらが調査(RIEF)
2020-02-17 08:00:24
石炭火力発電等の化石燃料焼却が原因で発生する大気汚染によって、毎年世界で450万人が早死し、経済的な損失が1日当たり80億㌦(約8800億円)も発生しているとの推計結果が公表された。2018年の年損失総額は世界のGDPの約3.3%に相当する2兆9000億㌦(約320兆円)に上った。日本でも1300億㌦(約14兆1700億円)の年間損失が国民・社会に発生しているという。
独立研究機関の「Center for Research on Energy and Clean Air(CREA)」と環境NGOの「Greenpeace東南アジア」による共同調査で明らかになった。試算された経済的損失額は温暖化の加速による被害額を含んでいない。国別では中国が最も大きい9000億㌦の損失となっている。
調査は、化石燃料のうち、石油、天然ガス、石炭の燃焼を原因とする大気汚染を中心に調べた。対象とした汚染物質は、化石燃料の焼却から生じる粒子状物質(PM2.5)、オゾン(O3)、窒素酸化物(NOx)に絞った。
経済社会への影響では、大気汚染による人々の健康悪化と、職場環境の悪化や労働日数への影響等の経済的損失の両面を調べた。健康影響については、大気の悪化による慢性および急性の両方の呼吸器疾患、心臓病、がん、肥満、糖尿病、精神疾患等の多様な病気の増加による早死や、医療費コスト増加を推計した。
汚染物質別の経済的損失額は、自動車や発電所での化石燃料燃焼の副産物である二酸化窒素(NO2)による年間損失額が3500億㌦(約38兆円)、オゾンが3800億㌦(約42兆円)。PM2.5による損失額は、年間2兆㌦(約218兆円)に達する。PM2.5は毎年約4万人の子供たちが5歳までに死亡する早死の原因であり、PM2.5によって毎年新たに発生するぜんそく患者数も400万人に上る。年間200万件の早産の原因でもある。
早死者450万人の汚染物質別内訳では、PM2.5によるものが300万人ともっとも多い。次いで、オゾンの100万人、NO2の50万人の順。早死者の国別では、中国180万人、インド100万人の順。国別で経済的損失額が大きいのは、中国(年間9000億㌦)、米国(6000億㌦)、インド(1500億㌦)の3カ国が、ワーストスリーだった。
医療水準の高い米国は、早死を医療サービスで抑制する代わり、医療費増大につながっているといえる。米国の早死者数は、23万人、EUが9万8000人、バングラデシュが9万6000人、インドネシアが4万4000人。
PM2.5の影響による労働者の欠勤による損害額は、中国で一日当たり7億4800万㌦、年間390億㌦に上る。日本は一日当たり2000万㌦、韓国は同1800万㌦、台湾は同500万㌦。化石燃料焼却によるオゾンとPM2.5の影響だけで、毎年770万人が心臓疾患を悪化させて緊急治療室に運び込まれているとしている。
米、中、インド以外の国別の年間損失額では、ドイツ1400億㌦、(約15兆円)、日本1300億㌦(約14兆円)、ロシア680億㌦(約7兆5000億円)、英国660億㌦(約7兆2000億円)の順。GDP対比の損失率は、日本は2.5%。中国の6.6%よりは低いが、経済成長率がほとんどない中でのGDPの2.5%の損失は大きい。
「Proceedings of the National Academy of Sciences(米国科学アカデミー紀要)」によると、石炭火力等の化石燃料焼却の減少と、再生可能エネルギー等のクリーンエネルギーの増大によって、大気汚染を原因とする早死者数は、ほぼ3分の2に減少する、と指摘している。
今回の調査対象は気候変動による損害の推計は含んでいないが、化石燃料による焼却が減少すれば、大気汚染と気候変動の両方にポジティブな効果が期待される。報告は「再エネへの移行は壊滅的な気候変動の防止と、人々の健康を保護する両面で重要。移行はもはや待ったなし」と警告している。