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2010年のBPによる史上最大の原油流出事故で イルカの健康被害広がる 生態系汚染の責任拡大(National Geographic)

2013-12-28 16:30:18

2010年6月14日、ルイジアナ州の浜辺で重油タールの塊を集める作業をする人の後ろに、イルカの背びれが見える。メキシコ湾の原油流出事故が、この海域に生息するハンドウイルカの健康障害発生率の上昇に関係しているとする新たな研究結果が発表された。
2010年6月14日、ルイジアナ州の浜辺で重油タールの塊を集める作業をする人の後ろに、イルカの背びれが見える。メキシコ湾の原油流出事故が、この海域に生息するハンドウイルカの健康障害発生率の上昇に関係しているとする新たな研究結果が発表された。
2010年6月14日、ルイジアナ州の浜辺で重油タールの塊を集める作業をする人の後ろに、イルカの背びれが見える。メキシコ湾の原油流出事故が、この海域に生息するハンドウイルカの健康障害発生率の上昇に関係しているとする新たな研究結果が発表された。


2010年に石油掘削基地ディープウォーター・ホライズンの爆発事故が発生したメキシコ湾海域に生息するイルカの群れに、肺疾患やホルモン異常といった健康被害が多発していることが、最新の調査により明らかになった。

この調査は、米国政府の研究チームの主導のもと、事故現場となったマコンド油井を所有するイギリスの石油会社BPが資金を提供して行われた。その結果、メキシコ湾に生息するバンドウイルカの致命的な健康被害と原油流出との関係を示す明確な証拠が示されることとなった。

今回のイルカの調査は、原油の流出によって野生生物や天然資源が被害を受けていないかどうかを調べる米国海洋大気庁(NOAA)による自然資源損害評価(Natural Resource Damage Assessment)の一環として行われた。

「これほどまでに高い罹患率は見たことがない。副腎ホルモンの異常など、重病のイルカが非常に多くなっている」と、調査リーダーを務めたNOAA研究員のロリ・シュワッキ(Lori Schwacke)氏は報告書の中で述べている。

有毒な油の影響

2010年4月の流出事故では、約500万バレルの原油がメキシコ湾に流れ出たとされている。事故から1年が経過した2011年、調査のために、流出時に大量の原油に汚染されたルイジアナ州のバラタリア湾に生息するイルカの群れと、遠く離れたフロリダ州サラソタ湾の別の個体群との比較が行われた。

バラタリア湾のイルカおよそ30頭が捕獲され、健康診断が行われた。その後、イルカたちは再び海に放された。診断では、イルカの肺の状態を調べる超音波検査が行われ、その結果、イルカたちの多くが原油汚染によるものと見られる中程度から重篤な肺の病気を患っていることが分かった。「Environmental Science & Technology」誌に12月18日付けで掲載された報告によると、「ほぼ半数が非常に危険な状態であったほか、17%が重症と診断された。つまり、これらのイルカは遠からず死亡すると見られる」ということだ。

さらには、バラタリア湾の群れ全体で、ストレスへの対応に欠かせない副腎ホルモンが著しく減少しており、25%のイルカに極端な体重低下が見られた。

これに対して、原油流出の影響を受けていないサラソタ湾の15頭には、肺疾患など健康被害の発生率の上昇は認められなかった。

◆比較は困難

BPの広報担当者ジェイソン・ライアン(Jason Ryan)氏は、今回の調査結果に異議を唱えている。ライアン氏によれば、今回観察された症状は、PCBやDDTなどの化学物質や農薬、異常な水温低下、有害藻類の発する毒素など、湾内の汚染や水質状態によって引き起こされる他のイルカの死亡事象でも見られるものだという。

「これらの症状はモルビリウイルス感染症やブルセラ症などの自然疾患でも見られるものだ」とライアン氏は電子メールで述べている。

またライアン氏は、イルカの死亡事象は、昔からメキシコ湾をはじめ世界中の海で、ある程度定期的に発生しているとも話す。

しかし、NOAAのシュワッキ氏によれば、イルカの健康障害に他の要因が関与している可能性を排除するための措置はしっかりと取ったということだ。

「PCBやDDTを含むさまざまな汚染物質を調査した結果、バラタリア湾の汚染度はサラソタ湾よりも低いことが分かった」とシュワッキ氏は述べている。

BPはオンラインでも声明を発表し、バラタリア湾とサラソタ湾のイルカを比較することにした研究者たちの判断を批判している。その中でBPは、「両者は遺伝子学的に見て異なる個体群であり、生息環境にも違いがある」と指摘している。

「バラタリア湾は工業化が進んでおり、石油のみならず、他の汚染物質の流出が長い間繰り返されてきた。一方、サラソタ湾のイルカは、健康評価などの調査目的から長年にわたり捕獲され、サンプルを採取されてきた。バラタリア湾のイルカに比べて人を怖がることが少なく、捕獲と放流にも慣れている。その結果、バラタリア湾のイルカの方がより強いストレスにさらされることになったと考えられる」。

◆「疑いの余地はない」

ミシシッピ州ガルフポートに拠点を置く非営利団体、海洋哺乳類研究所(IMMS)の代表を務める海洋生物学者モビー・ソランジ(Moby Solangi)氏は、2010年の原油流出事故がイルカの健康悪化の原因になっていることは間違いないと断言する。

「原油が病気の要因であることに疑いの余地はない。誰もが気づいているのに、明言することを避けているだけだ」とソランジ氏は言う。

シュワッキ氏らのチームは来年の夏にバラタリア湾で追跡調査を行い、今回と同じ群れ、またそのときまで生存していれば、同じ個体についても観察を行う予定であり、すでに資金集めを始めているということだ。

http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20131227002