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第9回サステナブルファイナンス大賞インタビュー③優秀賞:大和証券。海外でブルーボンドサムライ債や人道支援債等を支援、国内ではインパクトIPO等の株式関連も推進(RIEF)

2024-02-04 23:00:06

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写真は、インタビューに応じる大和証券サステナビリティ・ソリューション推進部の面々。㊧から2人目が、部長の根岸真美氏)

 

  大和証券は内外でブルーボンドやサステナビリティ関連の多様な金融案件の主幹事等の実績を積み上げたことで、サステナブルファイナンス大賞の優秀賞に選出されました。わが国でのサステナブルファイナンス分野での市場主導の取り組みを推進する同社の対応について、サステナビリティ・ソリューション推進部長の根岸真美(ねぎし・まみ)氏と同推進部の方々にお話を聞きました。

 

――今回の大和証券の優秀賞選定は、内外市場で着実に、サステナブルファイナンスの成果をあげられた点を評価しました。まず、海外案件では、今回国際賞に選定したポーランドのポーランド開発銀行(BGK)の人道支援ボンドのほか、インドネシアのブルーボンドの両方の主幹事を務められましたね。それ以外にもいくつか海外での日本向けのESG債を手掛けられました。最初に、大和証券の海外戦略を聞かせてください。

 

 根岸氏 国内外での債券発行の支援は積極的にやらせてもらっています。本邦政府系機関の外債発行の引受リーグテーブルで、わが社は昨年度、一昨年度と1位になっています。それだけ、内外の市場におけるESG債市場支援の知見は以前から積み上げています。サステナブルファイナンスに関する取り組みでは、2008年にワクチン債に取り組んでいますが、これは、まだ決まった体系がない中で、ゼロから1にするような形での取り組みの始まりでした。こうした取り組みは、国内証券会社として非常に重視してきています。

 

 今回は、BGK、インドネシアのほか、中央アメリカ経済統合銀行(CABEI)等の海外の発行体の取り組みを支援しました。これらの機関自体がサステナブルファイナンスに積極的に取り組んでいる面もありますが、われわれとしても、国内投資家との間で、いいシナジーが生まれるという風に支援した面があります。今後も、海外機関による円建て債(サムライ債)については、サステナブルファイナンスとしての提案を増やしていきたいと考えています。同債券については、発行体の国の気候対応や脱炭素に貢献するという政策的な効果が大きく、間接的ながら投資家に対するメッセージも強いと思っています。

 

根岸真美氏
根岸真美氏

 

 人材の面でも、われわれのソリューション推進部のチームは、海外経験の豊富な多様性のある人材を数多く擁しています。私自身、昨年帰国するまでベトナムに5年間、駐在しておりましたし、その前はシンガポールにいました。本日の出席者では、芹沢はシンガポール、茶幡はロンドン、齋藤はニューヨークで駐在経験を持っています。こうした経験から、各担当が肌感覚で各国のサステナブルファイナンス状況を認識しており、それらは今の海外展開の一助になっていると思っています。

 

 ――ESGラベルのサムライボンドに対する国内投資家の反応はどうですか。

 

 根岸氏 関心は高いです。サムライ債は、以前から投資市場では関心の高いプロダクトの一つです。国としての格付けで信頼度が高いことに加えて、利回りも確保できる点で人気があります。これにESGの要素が加わり、その資金使途についても国柄が出やすいというのが特徴的です。たとえばインドネシアのブルーボンドの場合、一般の投資家の方も「あの国は海に囲まれている」とわかるので、ブルーボンドの意義を想像しやすい。BGKの人道支援ボンドの場合も、ロシアによるウクライナへの侵攻問題が続く中で、資金使途の避難民支援対策という趣旨がわかり易かったことで、投資家にとって魅力が高い投資対象になった要因と思います。

 

――今後、サムライESG債の開発・発行に、さらに力を入れていくことになりますか。

 

 根岸氏 そうですね。ますます力を入れていきたいと思っています。実際、海外の各国の当局関係者と話をする機会は増えています。インドネシアのほか、タイ、フィリピン、ベトナムなどのアジアの国々の関係者の方々が来日して、直接話をする機会も増えています。

 

 アジアの各国とも、サステナブルファイナンスの自国のタクソノミーを自ら作るなど、サステナブルファイナンスの普及に向けた取り組みに積極的です。一証券会社としてできることには限界はありますが、われわれとしてもこうした動きをできるだけサポートしたいと思っています。特にアジアの国々では、トランジションファイナンスに対する強い期待を非常に感じています。具体的にどういった取り組みをトランジションとして定義づけるかは、国によって検討状況がまちまちの印象ではありますが、そうした中でも、「トランジションサムライボンド」のようなものを支援できれば、市場に対して一つの重要な示唆になるのではと思っています。アジア圏でのトランジションファイナンス推進は目下、証券会社間の競争が激しい領域の一つですが、ぜひこの分野も,われわれとして、牽引したいと思っています。

 

――国内市場でのESG債の手応えはどうですか。グローバルには、米市場がESGに慎重な動きになってきています。わが国でのESG債市場動きをどうみていますか。

 

サステナブルファイナンス大賞表彰式で、大和証券の取り組みを説明する根岸氏
サステナブルファイナンス大賞表彰式で、大和証券の取り組みを説明する根岸氏

 

 根岸氏 現在の国内市場でのサステナブルファイナンスのメインストリームは債券市場が担っており、われわれも2017年頃からESG債のストラクチャリングエージェント(SA)の獲得を非常に重要なミッションとして追いかけてきました。今もSA業務は発行体に提供可能なサポートとして重宝いただいている役割の一つです。サステナブルファイナンスの拡大が進み、社債市場では新発の事業債のほぼ3割はすでにESG債化を果たしており、国内債券市場におけるサステナブルファイナンスはますます広がるものと思います。

 

 一方で、証券会社に求められる役割は、サステナブルファイナンス市場の黎明期と比べると、より複雑化してきたと思っています。たとえば、複数回にわたりESG債を発行する発行体が増え、市場全体にESG債発行のノウハウが蓄積する中で、これまでのように証券会社がSAとして支援する内容や、そもそもSAを置くことの意義が今後次第に変化してくるのかなと感じています。とりわけ、ファイナンスをする前に、発行体の成長戦略とサステナビリティ戦略とのリンクをアドバイスするような取り組みの強化が、より重要になるだろうと思っています。われわれは投資家ともよくお話しをさせていただいていますが、企業の成長戦略とサステナビリティの関係をしっかり見ている投資家がますます増えていると実感しています。最近では、投資家の方から発行体がどのように見えているかという視点に立った(発行体向けの)アドバイス等も、意識的に増やすようにしています。

 

――具体的な取り組み事例があれば教えてください。

 

 根岸氏 成長戦略とサステナビリティの関係を意識する案件として最近、非常に多いのはIPO(新規株式公開)案件です。それも、「インパクトIPO」もしくは「SDGs IPO」といった文脈で、未上場企業に興味を持っていただく機会が増えてきました。これらの企業はまだ成長戦略としても、サステナビリティ戦略としても、成熟した戦略を掲げている上場企業に比べてまだまだ発展の余地があります。大和証券ではこうした未上場企業に対して、短期、中期、長期のアウトカム(成果)の明確化のお手伝いを、ますます提供していきたいと思っております。

 

 まだ道半ばですが、そうした提案を試みた事例が、昨年4月にライツオファリング(株主に対する新株予約権の無償割当)を実施したテスホールディングスや、同6月にIPOをしたフードロス削減サイトのKuradashiへの支援です。テスホールディングスの場合は、再生可能エネルギー事業の開発・売電等のエンジニアリングを本業とされており、会社自体のESG問題意識が非常に高かったこと、KuradashiはB-corp認証という環境や社会に配慮した事業を行う企業向けの国際認証を取得していたので、われわれとしても提案をしやすかった面があります。このような取り組みをますます増やしていきたいと思っています。

 

 茶幡大策氏(同推進部第一課長次長) 全体的に未上場企業のESG対応は道半ばです。ですので、IPOを目指すうえでサステナビリティ分野での情報開示を充実させたいという需要が増えてきています。もちろん未上場企業だけではなく上場企業の場合でも、東証のグロース上場企業などの場合は、今後プライム上場に転換していくことを見据え、サステナビリティ分野の対応や情報開示をさらに強化したいというニーズを観測しており、実際にそういった企業と話をさせていただく機会が増えてきています。

 

茶氏
茶幡大策氏

 

 上場企業の場合、脱炭素をマテリアリティとして据え、目標を立てて取り組んでいる企業が多いですが、一方でサービス業の企業等の場合、脱炭素のみならず人権対応等の分野での対応の強化を課題に感じておられるケースも多いと認識しています。そういった企業のファイナンスに際して、人権対応等をどのように投資家に説明するか、いかにファイナンスのテーマとして盛り込むかということで議論をする機会も増えてきました。

 

――投資家の反応はどうですか。米欧の投資家に比べ、日本では「年金基金の顔が見えない」と、よく言われます。

 

根岸氏 アセットオーナーの存在を前よりは感じるようになってきました。私は20年以上前に債券セールスを担当しており、アセットマネジメント機関(AM)を主な顧客としていましたが、会話の中でアセットオーナーの動向についてAMから聞くことはあまりありませんでした。しかし最近では、AMと話をすると「アセットオーナーに説明しきれないプロダクトはダメ」と明確に言われることが増えてきました。例えばサステナビリティリンクボンド(SLB)において、重要業績指標(KPI)の改善目標を達成できなかった場合のペナルティのあり方などでは、リスクリターンの観点からいうと、投資家に直接戻ってくる金利変動タイプを先行すべきという意見を聞くことも多くなってきました。これもアセットオーナーの意見を色濃く反映するようになっている例だと思っております。

 

 芹沢健自氏(同推進部第二課長副部長) なぜ「アセットオーナーの顔」が見えるようになってきたかというと、責任投資原則(PRI)の存在が大きいと思います。PRIに署名したアセットオーナーのうち保険会社は、自分の投資ポートフォリオのESG対応のレベルを高めるため、AMにエンゲージメントをするようになってきており、ESGにしっかり対応できているAMでないと、運用を委託されにくくなってきています。したがって、AMはアセットオーナーのESGポリシーを踏まえる必要が生じているのです。AMは、運用の報告をアセットオーナーに対して定期的に行いますが、今はそれだけではなく、ESGに関する方針やポリシー策定の状況について確認し、必要に応じてエンゲージメントをする関係になってきています。

 

 ただ、まだこうした関係の深化は浸透しきってはいないとも思います。既存ファンドに対するアセットオーナーとAMの投資契約を変えるのはハードルが高いケースも多いと考えられ、実際は、徐々に変わっていくことが想定されます。むしろ、新規で設定する私募ファンドなどの場合のほうが、アセットオーナーのESGポリシーを反映しやすいと想定します。

 

――欧米の先端的な投資家と比べるとどうですか。

 

 根岸氏 サステナビリティに係る対話という点では、欧州の投資家はまだまだ先を進んでいると感じます。証券会社の引き受けの業務には、オリジネーション部門と、投資家と対応するシンジケーション部門がありますが、欧州の金融機関ではこのシンジケーション部門に、アセットオーナーのESGポリシーのクライテリアを聞くだけのチームを備えているところも多いようです。通常のシンジケーション業務では、アセットオーナーとの間で、このクレジットだといくらぐらいの金利が欲しいか、といったやり取りをしますが、欧州ではこうしたやり取りに加えて、サステナビリティの要素がどういう観点で盛り込まれていたらよいか、といった議論までされるようです。ネガティブスクリーニングの基準やその他の評価要素等、各投資家の動向を細かく分析・理解したうえでシンジケーションを組んでいく。そうした会話を重ねていくという点で、われわれが欧州の市場に追いつくには、まだまだ投資家と共に努力しなければならないと考えています。

 

芹沢健自氏
芹沢健自氏

 

 芹沢氏 日本でも保険会社はPRIに署名して、積極的に取り組まれていると思いますが、一方で、年金についてはPRIに署名していない機関が多いのが現状です。欧州では、年金がESGを考慮した投資判断をすることについて、年金受給者に対する受託者責任に反するものではないとの見解が、ある程度明確になっていると思います。これに対して、日本の年金の場合、受託者責任とESGの関係が明確化されていないため、年金は積極的に動きにくい状況にあると思います。今後、そこがどう変わっていくかが焦点の一つです。

 

 ――大和証券としての、2024年の内外でのESG関連の目標と課題を聞かせてください。

 

 根岸氏 債券市場では、国内市場のみならず、海外のマーケットに出ていく国内企業のサポートと、海外の発行体に対する国内市場で活躍できる場の提供、つまり国内外債とサムライ債の領域で成果を出せるようやってきたいという目標を持っています。これに加えて、債券以外の領域でのサステナブルファイナンスのすそ野を拡大することを、引き続きやっていきたいと思っています。先ほどご紹介したようなIPOのようなエクイティや、その他インパクト投資の分野でも、何か革新的な事例を創出できればと考えております。

 

 グループ全体では2024年度から新中期経営計画が始まりますので、現在その策定を進めています。大和証券グループのビジネス全体を取り巻くサステナビリティに係る状況は様々なものがありますが、グループで共通の課題を捉え、KPI化できるよう、グループの取組に「横ぐし」を刺す形で整理しているところです。グループ全体の企業戦略としての成長につながるようにして打ち出せるよう、準備を進めております。

                           (聞き手は 藤井良広)