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温暖化問題はこれで解決(?)。オイルサンドや石油を地中で熱分解、水素を低コストで抽出し、発電・自動車等に活用。カナダの研究者とベンチャー企業が実用化宣言(RIEF)

2019-08-21 23:54:01

Proton5キャプチャ

 

 石油から汚染フリーの水素を大量に抽出する「夢のような技術」が国際学会で発表された。カナダの研究者が、オイルサンドや油田から、CO2とメタンを地中に残したまま、水素だけを抽出する手法を開発した。同手法を使えば、化石燃料による温暖化を抑制するだけでなく、廃油田からも水素を抽出できるなど、資源効率化も進む期待が膨らむ。すでに商業化の準備も進んでいる。

 

 (写真は、地中でオイルサンドを分解するプロセスの説明)

 

 カルガリー大学化学エンジニアリングのIan Gates博士らは、スペイン・バルセロナで開いたゴールドシュミット地球化学国際会議で、研究成果を発表した。Gates氏らは地元ベンチャーのProton Technologiesと共同開発している。

 

開発者の代表、Gates博士
開発者の代表、Ian Gates博士

 

 Gates氏らが開発した技術の特徴は、カナダやベネズエラに豊富に存在するオイルサンドを地中で熱し、純水素ガスと、熱、その他の有価物を分離する手法だ。特徴的なのが、オイルサンド等を熱する際、「Oxinjection wells」と呼ぶ装置で酸素を一気に注入して500℃の高温中で酸化を促す。

 

 高温によってガス状になった炭化水素と水を熱分解して水素を抽出する。この水素分離の際、新たに開発したHygeneratorのフィルターを活用する。同フィルターは、抽出物を選択分離する膜を通して、水素を効率的に抽出できる仕組みだ。同装置でProtonは特許を取得している。

 

実証プラントの状況
実証プラントの状況

 

 共同開発者のProtonのCEO、Grant Strem氏によると、現在の実験段階での水素製造コストは1kg当たり2㌦。これを実証プラントに切り替えると、10~50セントまで引き下げることができるという。この水準のコストだと、オイルサンドや石油から、ガソリンを製造するより、水素を製造したほうが安いことになる。

 

 現在、燃料電池車などで使用される水素の大半は、天然ガスから抽出されている。この「ガスから水素」の抽出過程で、温室効果ガスのメタンが生成される。しかし、Gates氏らの手法だと、CO2もメタンも土中に残したまま、水素だけを抽出できるわけで、温暖化の加速を止める期待もある。

 

地中で酸化燃焼させるイメージ
地中で酸化燃焼させるイメージ

 

 現在の温暖化議論では、化石燃料か再エネ燃料か、といった二者択一的議論に陥りがちだ。しかし、今回の手法を活用すれば、化石燃料資源を有効活用しながら、温暖化の進行も減少させることができるという一挙両得の効果が期待できる。「座礁資産(Stranded Assets)」は発生しないことになる。

 

 同技術は、採掘量が低下して廃棄されている油田にも適用できる。廃棄油田でも一部にかなりの量の原油が残留している。「Oxinjection wells」で油田の奥深くを熱して残留油をその場で分解することで水素を抽出し、資源を有効活用できる。

 

地中での熱分解で水素等を分離抽出する
地中での熱分解で水素等を分離抽出する

 

 研究チームは、この技術を使ってカナダのオイルサンドから水素を抽出すれば、温室効果ガスをまったく排出せず、カナダ全土で必要となる電力を今後330年間にわたって、安定的に供給できると説明している。

 

 AFPによると、ドイツ・ポツダム地球科学センター(GFZ)のブライアン・ホルスフィールド(Brian Horsfield)教授は、「システムが産業スケールで、どれくらい機能するかを確認するためには、広範な実地試験が必要」と指摘したうえで、「極めて革新的で素晴らしい技術だ」と評価している。

 

  ただ、地中での熱分解が石油や化石燃料に「引火」したり、地中の変動を誘導して、地震につながったりする懸念も想像される。シェールガス・油の開発に似た議論が起きそうだ。安全対策を加味したコスト計算が真の実用化のカギを握るように思われる。

https://www.eurekalert.org/pub_releases/2019-08/gc-seh081819.php

https://www.geochemsoc.org/events/goldschmidtconference

http://proton.energy/hygenic-earth-energy/