HOME8.温暖化・気候変動 |気候変動の進展による熱ストレス等の影響で、米国の高速道路上の橋梁の4分の1は2040年までに崩壊リスクに。2080年までにはほぼ半数が危険状態。日本の橋は大丈夫か。米研究者が論文(RIEF) |

気候変動の進展による熱ストレス等の影響で、米国の高速道路上の橋梁の4分の1は2040年までに崩壊リスクに。2080年までにはほぼ半数が危険状態。日本の橋は大丈夫か。米研究者が論文(RIEF)

2019-10-29 16:50:46

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気候変動の影響で橋梁(鉄橋)の劣化が進行する懸念が出てきた。米国の研究論文によると、想定を超える温度上昇による熱ストレス等の影響で、橋梁に使われているジョイント部分の劣化が想定以上に進み、2040年までに4分の1の橋が危険な状態に、2080年までにはほぼ半数の橋梁が崩壊のリスクにさらされるという。気候変動による橋梁リスクの増大は米国にとどまらず、グローバルにも顕在化する可能性がある。

 論文は米コロラド州立大学の准教授のHussam Mahmoud氏とSusan Palu氏が「PLOS/ONE」で発表した。

 元々、米国の橋梁をはじめとするインフラ設備は、連邦予算不足と維持管理不十分のため、老朽化と劣化が指摘されている。米国の総延長7万6000kmに及ぶ高速道路には約60万の橋梁が架けられている。これらは29万kmの周辺の主要道路をつなぐ役割を果たしている。したがって、高速道路の橋梁が崩壊すると、米国の道路ネットワークに及ぼす影響は甚大になる。

橋桁の接合部分が気温上昇で不具合が進む
橋桁の接合部分が気温上昇で不具合が進む

 ただ、これらの橋梁のうち約4割は建設後、50年以上経過し、設計上の寿命(45年)を経過している。さらに5万4000の橋梁は構造上の欠陥が指摘されている。 Mahmoud氏らは、こうした橋梁のうち二つの橋げたの上部構造中央部分を「エクスパンションジョイント」で接合する一般的な方式の橋梁が、温暖化による熱ストレス増大の影響で、「ジョイント」部分の劣化が進む可能性を計算、指摘した。

 通常でも「ジョイント」部分には、橋を通過する自動車等や自然の影響で、ごみが溜まったり、汚れが蓄積する問題がある。加えて温暖化による想定以上の温度上昇、熱ストレスの影響と、その後の急激な冷却等の繰り返しが続くと、ジョイント部分の劣化が設計時以上に進行し、橋梁全体の寿命を短縮してしまうリスクがあるという。

季節による気温変化が増大している
季節による気温変化が増大している

  Mahmoud氏らは、現在、米国の高速道路に架かっている同方式の橋梁8万件を調査し、リスクの顕在化の影響を受ける割合を試算した。それによると、2040年までに4分の1の橋が危険な状態になり、2060年までにその比率は28%に上昇、2080年までには、ほぼ半分の橋が危険になる。危険な橋は、北部ロッキー山脈・平原、北西・上部中南部等に多いという。 Mahmoud氏らは、こうしたリスクが高まらないうちに、優先度を決めて橋梁の補修・付け替え等を進めるべき、と提言している。

 研究論文の指摘は、わが国の台風・集中豪雨被害で顕在化している「設計時の想定降雨量」を上回る降雨や風力の発生現象と同じポイントをついている。温暖化の進行によって、インフラの設計時の想定耐久性を超える雨や風、熱波等が襲来、インフラそのものが本来の機能をはたせず、寿命も短くなってしまう。こうした現象は、世界中で確実に顕在化している。

昨年8月に突如、崩壊したイタリア・ベロナの高速道路の橋梁
昨年8月に突如、崩壊したイタリア・ジェノバの高速道路の橋梁

 高速道路の橋梁の崩壊としては、昨年8月に、イタリアのジェノバで1960年代に建設された高速道路の橋梁が突然崩壊、43人が死亡した事故が知られている。原因は明確になっていない。

 Hussen准教授らは、熱ストレスはエクスパンションジョイントに亀裂等を生じさせるリスクがあり、交通量の影響でそうしたリスクが増大する可能性があると指摘している。同氏らは、現在の気温上昇のレベルは、それほど厳しい問題を起こすほどではないが、今後も温度上昇が続いていけば、壊滅的な失敗を起こすレベルに近づいていくと警告している。

 https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0223307